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森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」記念シンポジウム「視線の交錯を思考するー西洋・日本・アジアー」(2025年10月11日開催)〜 アートの新たな視線

倉敷とことこ

森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」記念シンポジウム「視線の交錯を思考するー西洋・日本・アジアー」(2025年10月11日開催)〜 アートの新たな視線

2025年10月7日(火)から、大原美術館・有隣荘・児島虎次郎記念館にて、美術家・森村泰昌(もりむら やすまさ氏による展覧会「ノスタルジア、何処へ。」―美術・文学・音楽を出会わせる―が開催されています。

本展を記念して、シンポジウム「視線の交錯を思考する ―西洋・日本・アジアー」が2025年10月11日(土)開催されました。

登壇したのは、美術家・森村泰昌氏、香港の現代美術館「M+(エムプラス)」アーティスティックディレクター兼チーフキュレーターのドリアン・チョン氏、そして公益財団法人大原芸術財団 大原美術館館長の三浦篤(みうら あつし)氏です。

アートの可能性を感じたシンポジウムを紹介します。

なぜ今、「視線の交錯」を問うのか

左から、ドリアン・チョン氏・森村泰昌氏・三浦篤氏

まず三浦篤館長は、本展が単なる個展ではなく、森村泰昌というアーティストによる現代的な「視線」と、大原美術館コレクションがもつ歴史的な「視線」とが交差する、画期的な試みであると語りました。

三浦篤──

森村氏の芸術と大原美術館の歴史・コレクション。この二つを向き合わせ、響き合わせることでしか生まれない、唯一無二の展示空間を創り出すことこそが、本展の目的です。

さらに、私たちは文化を「西洋」と「日本」という二元論で捉えてしまいがちです。今回のシンポジウムではその構図に、ドリアン・チョン氏の「アジアからの視座」が加わると化学反応が起きるだろうと考えています。

創作の地図 ― 大江健三郎論から読み解く森村泰昌の現在地

森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」ー美術・文学・音楽を出会わせるー
(画像提供:公益財団法人大原芸術財団 大原美術館)

続いて森村泰昌氏は、自身の創作の現在地を明らかにするため、作家・大江健三郎(おおえ けんざぶろう)が日本現代文学を分類した議論を美術史に置き換えて紹介しました。

森村泰昌──

大江健三郎は、日本の作家を三つのグループに分けました。

第一は、谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)や川端康成(かたばた やすなり)のように、世界からある種孤立していたからこそ、日本独自の表現を確立した作家たち。これは美術でいえば、鎖国のなかで花開いた浮世絵の世界に近いかもしれません。

第二は大江自身や安部公房(あべ こうぼう)が属した世代。彼らは、西洋の文化や価値観から学び、世界と対話できる「世界言語」を獲得しようと格闘しました。

第三に、村上春樹(むらかみ はるき)のように、生まれたときから世界がサブカルチャーでつながり、それが共通言語となっている作家たち。これは、美術界における村上隆(むらかみ たかし)さん、奈良美智(なら よしとも)さんらの世代にあたるでしょう。

私は、第二のグループに自分を重ね合わせています。自身の創作の根底には、常にこの「世界言語」を求める渇望がありました。

しかし、学ぶ対象である西洋に対しては、強烈な憧れと同時に「なぜ」という反発心も抱いていました。それはまさしく「愛憎」と呼ぶべき感情でした

また、これら三つの分類の、いずれにも属さない領域があります。それが日本の「近代洋画」です。彼らは完全に孤立していたわけでもなく、かといって十分な情報のなかで世界とつながっていたわけでもない。

限られた情報のなかで西洋と格闘してきた彼らの作品は、いわば文化の狭間にあり、現代の私たちにとっては、やや遠い古語(こご)のように感じられるかもしれません。

私の今回の展覧会での試みは、その古語を現代の文脈で再び翻訳し、彼らの苦悩や情熱の普遍的な価値を問い直すことです。

アジアからの視座 ― 批評的戦略としての森村泰昌氏の芸術

朗読映像『まなざしが、ことばに、こだまする。』(画像提供:公益財団法人大原芸術財団 大原美術館)

続いてドリアン・チョン氏は、アジアの国際的な視点から、森村泰昌氏の芸術の批評性と重要性を話しました。

ドリアン・チョン──

森村氏がピカソやデュシャンといった西洋近代美術の根幹を成す巨人と対峙する。それは非西洋圏のアーティストが西洋とどう向き合うかという、極めて重要な問いを体現しています。

森村芸術を読み解く言葉として「アントロポファジー」があります。これは、外部の文化を模倣するのではなく、主体的に西洋文化を喰(く)らい、自らの血肉として全く新しい創造の糧とする態度です。

森村氏の実践は、西洋美術史を敬意をもって受け入れつつも、それを批評的に解体し、自らの表現として再構築する、高度で知的な戦略なのです。

日本の近代洋画については、「西洋の模倣」という見方をしていません。
「近代」という当時もっとも普遍的だった言語を用いて、世界的な芸術のプロジェクトに参加しようとした。その情熱と意志自体に、美術史的な価値があるのです。

交錯する視点

「何処から、いずこへ。(習作)」(画像提供:公益財団法人大原芸術財団 大原美術館)

その後のディスカッションでは、三者それぞれの視点が交錯し、議論がさらに深まりました。

森村氏は、自らの内面に、絵画や彫刻のように、物として成立する作品を創造しようとする「ピカソ的なもの」と、既成概念を解体する批評精神を象徴する「デュシャン的なもの」とが、矛盾を抱えたまま共存していると自己分析します。その葛藤こそが創作の源泉であると語りました。

また、チョン氏は近代洋画は、世界とつながろうとした情熱の証と語ります。自分たちの国の美術を西洋の真似と見ていたかもしれません。しかし、世界から見ると、それは勇気ある挑戦であり、グローバルな歴史の一部として肯定的に捉え直す可能性を示しました。

西洋・日本・アジアのアートの思考を知る

森村泰昌さん・児島虎次郎記念館にて新作
《「何処から、いずこへ。」(習作)》の前で撮影

シンポジウムがおこなわれた倉敷市立美術館の講堂は満席となり、来場者の関心の高さがうかがえました。西洋・日本・アジア、それぞれの芸術の豊かさを改めて実感できる内容でした。

今回の話を元に、大原美術館・有隣荘・児島虎次郎記念館、それぞれの展示室に立つとき、森村泰昌氏の作品、大原美術館の絵画を新たな視線で鑑賞できそうです。

森村泰昌「ノスタルジア、何処へ。」―美術・文学・音楽を出会わせる―は、2025年11月9日(日)まで開催予定です。

この機会に、ぜひ素晴らしい作品の数々を堪能してください。

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