梅津瑞樹×陳内将、念願の少人数芝居で「ヒリつくような演劇体験をもう一度」~三人芝居『6006』インタビュー
2024年7月31日(水)~8月4日(日)に東京・博品館劇場で上演される三人芝居『6006(ロクゼロゼロロク)』。東映がプロデュースする少人数芝居企画で、『悪夢のエレベーター』『仮面ライダーリバイス』などを手掛けた木下半太が作・演出を務める。
梅津瑞樹、陳内将、赤名竜乃介が挑むのは、ワンシチュエーションの密室会話劇。昭和60年と令和6年に起こる2つの誘拐事件を描いたサスペンス・コメディが描かれる。本格始動する直前、梅津と陳内の対談が実現。本作の経緯や現時点での構想といった裏話も明かしてくれた。
――本作の成り立ちについては、梅津さんからのリクエストも反映されたそうですね。
梅津:東映のプロデューサーさんからどういうことをやりたいですか?と聞かれたときに、『リーマン・トリロジー』のような三人芝居をやりたいとお伝えしていたんです。さらに誰と一緒にやりたいか聞かれたときに、真っ先に「陳さんはどうですか?」とお願いしたら、すぐにオッケーをいただけたそうで。僕としては「スルッと要望が通ってしまった……ラッキー!」と(笑)。
陳内:あははは! そうそう、脊髄反射で「うん、いいよ!」と返事しました(笑)。じつは、僕も梅ちゃんと少人数でお芝居してみたいという願望は心のどこかにずっとあったんです。以前、僕が携わった企画でいろんな戯曲を読む機会があったんですが、二人芝居の作品が上演候補に挙がると「これを一緒にやるなら梅ちゃんがいいな」と案を出していたこともありましたし……あ、これはまだ本人にお伝えしていなかったことなんですけど。
梅津:えー! 今、初めて聞きました。いやぁ、嬉しいですね。陳さんには初めて共演した2017年に舞台版ドラえもん『のび太とアニマル惑星』から非常にお世話になっていて。いろいろとご一緒できる機会が増えてきたなかでも、特に舞台『BIRTH』(2020年)で共演した記憶がすごく鮮明に残っていて。ああいうヒリつくような演劇体験を、もう一度してみたいと思ったんです。それを実現できて、自分にヒリヒリした何かを与えてくれたり一緒に楽しめたりできる人って誰だろうと考えたら、やっぱり一番信頼できるのが陳さんでした。
――3人という少人数での芝居は、やはり一味違うのでしょうか?
陳内:難しさも楽しさも、どっちもありますね。
梅津:そうですね。普段は少なくとも10人前後は座組にいて色々な人がいる分、お客さんが見るものがたくさんあるし、支え合えたことが大きな経験にもなる。少人数の場合は一人一人の比重が大きく、自力が前面に出てくる。そこは役者として怖いところかもしれませんが、芝居の面白いところでもあると思っています。
陳内:三人芝居の良さは、3人が全員いるシーンと、1人が抜けて部分的に二人芝居になるところと……っていうバリエーションが少人数ながらも出てくるところ。集合と個体っていう構図が発生するのが3人以上からなんですよ。今回のお話にも登場しますが、2対1という対立構造ができるのも3人からですし。今作の台本を読んでいても「ここは2人でやるのか、誰とやるのかな……って、抜けるの俺かーい!」っていうシーンもありましたし。
梅津:一人きりにされるシーンもあったら面白いかもしれませんね。誘拐したりされたりする話だから、捕まっている1人が縛られたままポツンと舞台上にいるとか。
――お芝居だけでなく、日常生活においても3人でのコミュニケーションというのは一番難しい気がします。
陳内:そうなんですよ。僕は割とまんべんなく話すタイプですが……。
梅津:僕は間違いなく、2対1においては一人きりになるタイプの人間です(笑)。最初は3人で話していても、気づいたら会話から外れてしまっていて、フェードアウトしていて、知らない話題に移っていて、さらに入れなくなって……。
陳内:望んだわけじゃないのに、気が付いたらそうなってることもあるでしょ?
梅津:ありますね(笑)。
陳内:それこそ、このあいだ共演した3コンビ、6人の漫才師が出る作品(舞台『あいつが上手で下手が僕で-決戦前夜篇』)でもあったんですよ。稽古終わりに僕と梅ちゃんが2人で帰っていたんですけど、梅ちゃんと別れた後に偶然にも溝口(琢矢)・大平(峻也)コンビとばったり会って。「ちょっと話聞いてもらってもいいですか?」って言ってくれたので、3人で軽く飲む流れになったんです。そのうち、後から木津(つばさ)・中尾(暢樹)コンビも合流することになって、図らずも梅ちゃんだけがいない状況になってしまって……(笑)。
梅津:あははは! ありましたね(笑)。
陳内:よりによって、初めて皆で集まって飲めた日に(笑)。梅ちゃんだってたまたま先に帰っちゃっていただけで、飲み会を断ったわけでもないのに!
梅津:孤独に愛されているんでしょうね(笑)。孤独を愛し、孤独に愛され……。
陳内:次の日、すぐ報告したもんね。「5人でごはん行ったよ」って(笑)。
梅津:明るく「うそー!」とは言いつつ、心の中では「(少し残念そうに)そっか……」と(笑)。
――(笑)。そんなお二人と共演するのが、赤名竜乃介さん。現時点でどんな印象をお持ちですか?
梅津:今回が初共演なので、どういう雰囲気のお芝居をされるかは伝え聞く話だけなのですが、ビジュアル撮影でご挨拶させていただいたときは実直そうな方という印象でした。
陳内:梅ちゃんと竜乃介、たぶん合うと思う。「面白い子だな!」って思いそう。3人でものづくりをするっていう点では特に。
梅津:映画をよく観られるそうなんです。僕もすごく映画好きなので、そのあたりのお話をたくさんできたらいいなと。
陳内:そう、そこは共通点だね。映画で思い出したんですけど、結構頼ってくれる子なんです。映画のオーディションがあるから映像作品で効果的な芝居の仕方を聞かれたり、彼の主演映画を一緒に観に行って感想を求められたり。しかも僕がそのとき公演期間中だったので、レイトショー(笑)。
梅津:ふふっ(笑)。
陳内:僕としては、頼ってくれて嬉しいですよ。舞台『月の岬』で共演したときも芝居の相談しに来てくれていました。かなりディスカッションをするカンパニーだったので、色々な人の色々な意見を全部ストレートに受け入れてしまって悩んでいたんでしょうね。まっすぐでいい子なんです。
――昭和“60”年と令和“06”年で起こる2つの誘拐事件を描いたストーリー。取材時点ではプロットを読まれているそうですが、ご感想などお聞かせください。
梅津:三人芝居でどんな物語を演じたいか考えたときに、企画の始まりでもお話ししたようにイメージとして『リーマン・トリロジー』のような話が浮かびました。この作品は3世代にわたる登場人物を3人で演じるのですが、そのエッセンスを(作・演出の)木下半太さんが汲んで書いてくださったそうです。ありがとうございます!
陳内:仕込み、仕掛けがかなり面白そうになりそうな予感がめちゃくちゃしています。令和だけでなく、昭和60年当時の社会情勢や時事問題など、実在したリアルも盛り込まれている。コメディでありながら、半太さんが得意とされているサスペンスな部分でグサグサと胸を刺していくあたりは痛快に演じたいですね。特に梅ちゃんが演じる時実、僕が演じる矢野は対になるような役どころ。一緒に構築して、気持ち良いところを狙っていきたいです。
梅津:すごく良いシーンがあるんですけど、今の時点ではそこに時実がいないんですよ。どうにかして僕も出られないものかと……。
陳内:もしそうなったとしたら、今度は梅ちゃんが1人でやることになりそう。その場合は、僕と竜乃介は舞台袖で温かく見守ります(笑)。
梅津:そのパターン、ありそうですね(笑)。
陳内:半太さんとご一緒するのはドラマ『クレイジーレイン』以来。そのときは髭を生やした役だったんですが、カットがかかるたびに「髭、いいよ!」と褒めてくださってたことを覚えています(笑)。今回はお芝居を褒めてもらえるよう頑張ります!
梅津:(笑)。
――作品の内容にちなんで、ご自身の「昭和っぽいところ」と最近あった「令和な出来事」を教えてください。
梅津:僕は平成に慣れ親しんだ世代なので……(笑)。
陳内:平成生まれ、平成育ちだ。
梅津:でも、陳さんも僕も、こういう仕事に関しては割と昭和の職人気質じゃないですか? 役の掘り下げ方とか、遊べるところを探してとにかくねじ込もうとするところも。
陳内:そうだね。梅ちゃんは劇団に所属していて、主宰の鴻上(尚史)さんが昭和の時代から続けてきたお芝居というものを“劇団イズム”として絶対継いでいるはず。僕も昭和の時代を知る俳優さんたちとお芝居をさせてもらってきたし、D-BOYSでは歳が違い者同士であっても先輩と後輩の縦社会がしっかりしている。そういう意味では、昭和の匂いのようなものは感じるかもしれないね。
梅津:令和な出来事は、最近iPhoneを買い替えたこと。平成に発売されたiPhone Xをずっと使っていたんですが、令和の最新機種を買いました。
陳内:それで言うと、僕はタブレットかな。たぶん梅ちゃんもやると思うんだけど、パッと思いついた面白い単語や文章をメモしておくために。スマホでもいいけど、キーボードを使ったほうがやりやすいなって昨日買いました。ケースも欲しかったんですけど違いがよくわからなくて。「どれも同じだろう」と適当に買ったら、しっかりサイズ違いで使えませんでした(笑)。
梅津:昭和だ、昭和! お父さんの間違え方と同じですよ(笑)。
――では最後に、SPICE読者に向けてメッセージをお願いします。
陳内:あ! 前に別作品で僕らを取材していただいたときに、SPICEにちなんだコメントしましたよね?
梅津:やりましたね(笑)。まさか、今日も……?
陳内:まあ、それは置いといて(笑)。僕にとってこの作品は、大好きな人たちの中でやれる演劇。とにかく、濃厚な芝居になりそうです。ドタバタコメディですし、上演が夏ということで汗もかくでしょう。そうなると、冷たいもの……そう、ICE(アイス)をゲットしたくなるはずです。
梅津:あっ……!
陳内:冷えているビールとか、アイスがSP(スペシャル)になる。SPなICE……すなわちSPICEが欲しくなるこの作品は、この夏のスパイスになるはず。見に来てくださる方にとってのスパイスにもなれるように、必死に汗をかいていきたいと思います!
梅津:(笑)。陳さんがおっしゃってくださったように、すごく濃密な作品になることは間違いありません。今まで役者として培ってきたものが、より如実に表れてくる舞台になるはずです。これまでに色々な舞台で経験を積んで吸収してきたものを披露する……言ってしまえばこれって、スパイっすよね。
陳内:スパイっす? スパイッス……あ、スパイスだ!
梅津:(笑)。日頃の活動の成果を、ぜひ楽しみにしていただけたら。よろしくお願いします。
取材・文=潮田茗、撮影=池上夢貢
スタイリング=小田優士
ヘア&メイク=橋本紗希(LaRME)