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【五香宮の猫】敢えて「全米を泣かせない」観察映画が伝える人々との関わり、ノンフィクションの魅力

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【五香宮の猫】敢えて「全米を泣かせない」観察映画が伝える人々との関わり、ノンフィクションの魅力

ノンフィクションが好きで、テレビならNHKの72時間、映画ならミニシアターにかかるドキュメンタリーが気になる。 ありがたいことに、監督や出演者の方に合わせていただく機会もあり、そのお話を伺うごとに「ありのままの社会を切り取る映像」はフィクションを超える、とつくづく思うのだ。

「五香宮(ごこうぐう)の猫」という映画

gokogu-cats.jp

タイトルを見て「岩合光昭さんのネコ歩きみたいな感じかな」と思って出かけてみたけれど、実際に見てみると「全然そっちじゃない」映画だった。猫が主役の映画ではあるけれども、その生態や可愛らしさを前面に出して、猫マニアをくねくねさせちゃうタイプのものではなく、猫を通して日本の地方の町の風景と、それらが抱える社会問題や脈々と受け継がれる人々の営み、高齢化、生きていくことと死んでいくこと、人と人が集えばどこにでも発生する考えの違いや、それらに折り合いをつけるゆるやかな人間関係が「新参者」の目という距離感で観察されている。

お話を伺ったのは…想田和弘監督

映画作家。1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒。スクール・オブ・ビジュアルアーツ映画学科卒。事前のリサーチや台本、ナレーションやBGMを排した「観察映画」の方法とスタイルで、これまでに11本の長編ドキュメンタリー映画を発表。2008年に『選挙』が米国のピーボディ賞を、『精神』が釜山国際映画祭とドバイ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』が香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を、『精神0』がベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞するなど、国際的に高い評価を受けている。

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想田監督は27年間のNYでの生活を終え、岡山県牛窓町に移り住むことになった。
新しくこの町の住民になった監督が撮ったこの映画は、深く狭く五香宮から半径200m程度の範囲で撮影されている。映像にも出てくる監督の家もこの範囲にあるという。五香宮の階段を降りたところで釣りをしている人たちが、猫たちに釣った魚をあげる。親猫は子猫にそれを与えるため、魚をくわえて走り出す……そんなこの町の日常の風景がひたすら切り取られて淡々と流れていく。

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「僕の仕事はよく見てよく聞いて、観察する。発見したことを世に見せることができればいいんです。自分にはこんな風に世界が見えている、というのを提示する。映画は疑似体験の装置だと思うから、多くの人に疑似体験をしてもらって、そこから何を考える、何を思うかはひとりひとり違っていい。だから何かを訴えたりはしていないんです。」

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結論は敢えて出さない

うさぎや猫を観光資源にしている町や島の話は聞いたことがあったが、この映画で見られるのは「都会の喧騒を離れ、のどかな町、可愛い猫に癒されに来てくださいね」と言ったアピールではなく、社会の現実だ。

「社会問題を含んだ猫と人の群像劇」と監督が言うように、生き物が増えると当然起きうる「糞尿被害」や「去勢・避妊問題」への言及も有り、町の人が問題提起をしたり、自らの意見を述べるシーンも出てくる。

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よくあるドキュメンタリー映画なら「この問題はこのように解決して、現在は平和です」的な見せ方をする場合が多いように思えるが、想田監督の映画はあくまでも「観察」。そのような落としどころなり結論は敢えて出さない。そして人々の心を揺さぶろうとする意図も感じられない。

「問題が解決したとか、何らかのサクセスストーリーなどのオチがあるわけではないんです。観察映画って、収まったという話を見せるものでは無いので。」

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う~~ん、強い。思わずご本人を目の前にしてそう言葉を発したら、
「わはははは! そぉですかぁ?」と、Big smileで返された。

恐れ多いが恥ずかしながらクリエイターの端っこにいるものとして言わせてもらえば、「そのまま」を世に出すのって実はとても勇気が必要。だから、ちょっとした切り口の工夫や筋道を準備して、自分の意図どおり見る人の心をコントロールしたくなるものだ。「ね、そうでしょ?」「こう思うでしょ」みたいに。しかし、想田監督はそれをしない。つまりは何も意図をもたず、見る人に全てをゆだねるというスタンスだ。

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感動させるつもりは毛頭ない。

そんな潔さが全編にわたって漂っているのがこの映画だ。そう、あざとくないのだ。
いわゆる「全米が泣いた」みたいに人の心を意図的にコントロールするものではなく「人によって感じ方は自由でいい」と言い切れるのは、信念があってこそだ。

より良いものを、人の心を動かすものを……と勤しんでいる自分の浅はかさをあざ笑うかのように、ありのままの現実を穏やかに突き付けられた。そしてこの映画に漂う、見るもの自らが自由に得られる「余白、余韻」を存分に味わった。

オフラインに戻らないと…

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「敢えてすべての問題点に答えをつきつめて出さない、というのもお互いの顔が見える小さな町で暮らす人々の知恵なんじゃないかなと。踏み込み過ぎない方がいい距離を保つ。とはいえ、自らの意見はひとまず声に出して人前で話すことに意味があるんですよ。結論は出なくてもお互いが『なるほどね』と個人の意見を受け止める。
やっぱりどんなに考えが違っても、直接顔を合わす人にそんなにひどいことを人間って言えないものですよ。人間と人間は直に関わらないといけないなと思いますよね。オフラインに戻らないと。」

次回作を聞くと「いやもう引退しようかと」なんて、はははと笑って見せる想田監督のありのままの笑顔には、この映画への満足感と達成感、そして確かな自信があふれていた。

五香宮の猫

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監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子
配給:東風
2024年 119分 日本 16:9 カラー DCP ドキュメンタリー
英題:The Cats of Gokogu Shrine
© 2024 Laboratory X, Inc.

◆劇場情報(https://gokogu-cats.jp/#theater)

みやむらけいこ/ライター

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