池松壮亮、妻夫木聡、仲野太賀、水上恒司らが「石井組」に集結。AIやデジタル社会に不安を抱く人たちに捧げる『本心』
テレビドラマ「海のはじまり」や、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にも選出された映画『ぼくのおひさま』等、今注目されている俳優の一人、池松壮亮が、『本心』では、〝自由死〟を選んだ母の本心を知ろうと、最新のAIを搭載した、VF(ヴァーチャル・フィギュア)で母を再現した青年・朔也を演じる。
舞台は2040年代。現在よりも科学技術がさらに進んだ時代を垣間見る面白さもあるが、その中で、テクノロジーでは作りえない愛や哀しみ、人間の幸福について問いかける作品だ。
母の秋子(田中裕子)と朔也は、母一人子一人の生活で、互いに助け合う良好な親子関係を築いてきたはずだった。しかし、母は「帰ったら大切な話がある」と言い残して豪雨の中、氾濫する川に飲み込まれてしまう。川に飛び込み懸命に助けようとした朔也は、重傷を負い昏睡状態に陥って一年後目が覚めると、生前母は〝自由死〟を選んでいたと聞かされる。そのうえ工場に勤めていた朔也の仕事はロボット化されていて、仕事まで失くしてしまうのだった。
世話好きで幼馴染の岸谷(水上恒司)から、「リアル・アバター」の仕事を紹介される。これは特殊なゴーグルをつけて、依頼者のアバター(分身)になり、依頼主の代わりに行動するというもの。依頼者の一人に病気で動けない若松(田中泯)の最期の願いを叶えるが、理不尽な依頼も多く朔也の心は混乱していく。
母はなぜ〝自由死〟を選んだのか、その「本心」をどうしても知りたくなった朔也は、VFの開発を行う技術者の野崎(妻夫木聡)に頼んで母のVFを制作してもらうことに。
母と親しかったという三好(三吉彩花)に出会い、三好が台風被害で避難所生活であることを知ると、朔也は三好に共同生活を申し出る。朔也と三好、VFの母の三人の生活が始まるのだ。そこには三好だけが知る母の秘密もあった。三好にも過去のトラウマから他人に触られたくない秘密があった──
世界的な有名アバターデザイナー・イフィー役に仲野太賀、野崎が生み出したVFを綾野剛が演じ、VFの「心」を語る。
本作は、池松壮亮が2020年のコロナ禍の真っ只中に、新聞で連載していた平野啓一郎の小説『本心』を読んだことから始まる。過去に何度か石井監督の作品には出演しており、石井監督が7歳の時に母親を亡くしたことを知っていた池松は、朔也の気持ちがわかるだろうと石井監督に『本心』を紹介した。さらに池松自身もAIにより俳優としての肖像権の侵害などの問題が危ぶまれており、VFやリアル・アバターの世界は他人ごとではないと受け止めていたのである。
母親役の田中裕子にしても、世の中の新しいシステムについていけず、AIやテクノロジーとは対極の日々を送っているというが、本作になくてはならない存在だった。
重厚な小説『本心』を2時間にまとめるのは至難の業だったことだろう。アバターデザイナーのイフィーやVFの開発を行う野崎の仕事場などは興味深い。しかし、いくらテクノロジーが進化しても、人の心そのものは理解できないものだ。そう思うと未来への懸念が払拭したような気がしたのである。
『本心』
2024年11月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024 映画『本心』製作委員会