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民話や工芸品に見る<ウミガメ>の神秘 日本人とウミガメの関係とは?

サカナト

ウミガメの恩返し(提供:halハルカ)

日本の民話・昔話で「ウミガメ」が登場するものといえば何を思い浮かべるでしょうか。いちばん有名なのは、言わずと知れた昔話『浦島太郎』ですね。

実は、ウミガメが出てくる民話や言い伝えは日本各地に多く残っています。そんなウミガメにまつわる民話を通して、日本人とウミガメの関わりについて考えてみます。

ウミガメが登場する民話

日本でもっとも有名なウミガメ民話『浦島太郎』は、いじめられていたウミガメを助けた浦島太郎が、海の底にある竜宮城に招かれ、不思議な体験をするという物語です。

一方、民俗学者・柳田國男の著書『日本の民話』に掲載された「ウミガメの恩返し」という物語があります。あまり一般に知られてはいませんが、ウミガメと和尚の心温まるお話です。

ウミガメの背に乗って竜宮城……ではなくふるさとへ

物語の舞台は、備後(現在の広島県)の海辺の町。新しくお寺を建てるために旅をしていたお坊さんが、こどもたちに捕らえられていた4匹のウミガメを見つけます。かわいそうに思ったお坊さんは、そのウミガメたちをこどもたちから買い取り、海へ逃してあげました。

それからしばらく後、お坊さんは船旅の途中で海賊に襲われ、なんと真っ暗な夜の海に突き落とされてしまうのです。しかし、不思議なことに海の真ん中にもかかわらず、お坊さんはなぜか岩の上に乗り上げ、一晩を無事に過ごしました。

やがて夜が明け、足元を見てみるとそれは岩ではなく、あのとき助けた4匹のウミガメたちだったのです。

ウミガメの恩返し(提供:halハルカ)

ウミガメたちはお坊さんのピンチに駆けつけ、一晩中支えてくれていたのでした。お坊さんはウミガメの背に乗ってふるさとに帰り、後に立派なお寺を建立したといいます。

このときに建てられたのは三谷寺という立派なお寺だったそうですが、残念ながら現在は「三谷寺だったようだ」と推定される遺跡が残るばかりです。

いずれにしても、この物語は、ウミガメに対する深い敬意と、恩返しという美しい世界観が込められています。昔の人々もウミガメの様子を見て、温かさや知性を感じていたのではないでしょうか。

なお、『日本の民話』には様々な地域の民話が掲載されていますが、生きものにまつわる民話も多いです。

ウミガメと日本人の関わり

さて、古くから日本人にとって、ウミガメはただの動物ではなく、特別な存在でした。ある地域では「神の使い」あるいは「竜宮の使者」として崇められ、姿を見かけることは吉兆とされました。

一方で、その甲羅は工芸品の貴重な材料「べっ甲」として知られ、装飾品や櫛、かんざしなど、さまざまな工芸品の材料として珍重されてもきました。つまりウミガメは「神聖」と「資源」のあいだで、日本人の暮らしや信仰と複雑な関係を築いてきたのです。

べっ甲のクシ(提供:PhotoAC)

特に江戸時代には、南国から輸入されたタイマイというウミガメのべっ甲工芸品の生産が発達し、沖縄や九州南部などを中心に、ウミガメ漁が盛んに行われた記録も残っています。

神聖な存在だからこそ、その力がべっ甲に宿ると考えられていたのかもしれません。

現代のウミガメと私たち

現在、ウミガメの多くの種は絶滅危惧種に指定されています。そのため、上記のタイマイも1990年代にはワシントン条約で取引が禁止となりました。

また、有名なアカウミガメアオウミガメは、海岸開発や漂流ゴミ、海洋汚染などによる生息環境への懸念が多く、海洋汚染のテーマとしてもよく取り上げられていますね。

アオウミガメ(提供:PhotoAC)

現代の地球環境はウミガメにとって厳しい状況ですが、それでも日本には今もウミガメが産卵に訪れる海岸がいくつもあります。たとえば鹿児島県の屋久島や種子島、和歌山県の南紀白浜、沖縄県の慶良間諸島などが有名です。

これらの地域では、地元の人たちによる、ウミガメの産卵やふ化を見守る活動もありますし、ウミガメウォッチングのツアーが開催されるなど、ウミガメと人間がしっかりとよい距離を確保したうえで観察できる機会も設けられています。

ウミガメは、昔話のなかだけに現れる幻想だけでなく、今も私たちのそばに生きる生き物です。その姿に、昔の人は竜宮や神の世界を見たのかもしれません。

これからもウミガメが泳ぐ美しい海が守られることを願うばかりです。

(サカナトライター:halハルカ)

参考資料

三次市-寺町廃寺跡

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