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雷は抑制できる! “落雷現象を発生させない”避雷針「dinnteco」。発想の転換から生まれた雷対策とは?

LIFULL

異常気象とともに高まる雷の脅威。ピークは8月。

近年の温暖化や線状降水帯の多発により、年を追うごとに雷の危険性が増している。

雷のピークは8月。2014~2023年平均は90万回/月を超える落雷を観測している。こうした雷対策として有効なのが避雷針だ。

先端が尖った槍のような形状の避雷針は、多くの人が見覚えがあるだろう。まちを見渡すと、高い建物の屋上やグラウンドなど開けた場所の高地に棒状の金属が立っているのに気づくことがある。これが避雷針と呼ばれる装置で、建築基準法により地上20メートルを超える建物には設置が義務付けられている。通常の5階建てマンションが20メートルあるかないかくらいの高さなので、6階建て以上のマンションや学校、大型施設などには設置されているはずだ。

しかし「避雷針があれば雷は落ちない」と思っているとしたら、それは大きな誤解。実際の効果や最新の技術について、専門家に話を聞いた。

2014~2023年の月別平均落雷数。ピークの8月は90万回を超えていることがわかる(出典:フランクリン・ジャパン)https://www.franklinjapan.jp/raiburari/data/1664/

従来の避雷針は“雷を落とす”装置だった

株式会社エスヨンの西山さん。新型避雷針「dinnteco」のサイズ感、西山さんと比較するとおわかりいただけるだろうか

新型避雷針や災害対策設備の設置管理を行う株式会社エスヨン(愛知県名古屋市)の営業マネージャー西山浩史さんにお話を伺った。(以下「 」は西山さん談)

「先端が尖っているものは従来の避雷針です。これは、“雷を落とさない”ためのものではなく、“雷を落とす”装置なんです。先の尖ったものに落ちやすいという雷の性質を利用して、槍状にした先端に雷を落とすように誘導し、地面に放電させます。避雷針を使って“安全に雷を落とす”ことで人や建物を守るという仕組みです」

実は、このタイプの避雷針が開発されたのは270年も前のことなんだとか。当時は電化製品もなく人命と建物を守ることだけを目的に作られていたという。

「各家庭に電化製品が普及している今の時代、雷を“自ら集めて落とす”という従来型の避雷針では対策が不十分です。なぜなら、避雷針で雷を受けた際に発生する雷サージが電子機器や機械を破壊する恐れがあるからです。そこで開発されたのが、“雷を落とさない”新型の避雷針『dinnteco(ディンテコ)』です」

落雷現象を起こさない新型避雷システム「dinnteco」。

「dinnteco-100plus」。塩害に強いタイプや小型タイプも販売されている(提供:エスヨン)

“雷を(安全に)落とす避雷針”から“雷を落とさない避雷針”へ発想を転換し誕生した「dinnteco」。新型といってはいるが、誕生したのは2003年のこと。スペインの隣国・アンドラ公国で誕生し、この20数年の間にNATO加盟国各国の軍施設や国際空港をはじめ、世界37ヶ国で導入されてきた。

「dinnteco」の先端は槍状ではなく、ドーム型の半球が付いている。

「雷というのは、積乱雲の雲底のマイナス電荷と地上から上昇するプラス電荷が引っ張り合い、結びついた時に巨大な電流が流れることで発生します。『dinnteco』は、アースと接続することで、地上からプラス電荷を、製品周囲からマイナス電荷を集めて本体内で中和する働きをします。これを繰り返すことで地上からのプラス電荷の上昇を抑え、雲のマイナス電荷との結びつき、落雷現象を防ぐというメカニズムです」

雷が地上や建物、樹木などに実際に落ちるのが「落雷」。それに対して、落雷を含む、雷が発生して放電する自然現象全体を指すのが「落雷現象」。従来型の「プラスとマイナスをくっつけて安全に雷を落とす」という発想から、「プラスとマイナスを中和して雷を落とさない」に発想を転換し、落雷現象を起こさない仕組みに発展させたのがdinntecoというわけだ。

dinntecoのメカニズム1(提供:エスヨン)
dinntecoのメカニズム2(提供:エスヨン)

「dinnteco」への取り替えで直撃雷は激減

山梨県の小瀬スポーツ公園。46ヘクタールという広大な敷地をカバーするため、30台の避雷針を設置している(提供:エスヨン)

「dinnteco」の海外での実績を踏まえ、エスヨンでは2017年から取り扱いを開始。マンションや工場、大規模スポーツ施設、官公庁、空港設備等で施工を実施している。新設の依頼もあるが、ほとんどの場合、従来型からの取り替えで、手がけた施設はこれまでに600件にのぼるという。

設置の事例をみてみよう。

山梨県の小瀬スポーツ公園では、従来型の避雷針が付いていたが、2~3年に一度は落雷の被害に遭っていた。そこで、2021年に陸上競技場、サッカースタジアム、プールや武道館、照明塔など、30ヶ所にあった避雷針を「dinnteco」へ変更した。取り替えてから現在まで一度も落雷はない。

鹿児島県屋久島町の新庁舎。屋久杉を使った庁舎の趣を損なわないよう、デザインとの調和を図りながら「dinnteco」が設置されている(提供:エスヨン)

鹿児島県屋久島町の庁舎は、建物の高さ的にも避雷設備の設置義務はなく、避雷針は取り付けていなかったのだが、新庁舎完成直後に落雷の被害に遭ってしまった。このことから避雷針の設置検討となり、雷を落とす従来型避雷針ではなく、落とさない「dinnteco」を選択された。こちらも設置後は落雷がなくなったという。

「マンションなどの施工もしてきましたが、これまで直撃雷の被害の報告はありません。こうした例からみても、『dinnteco』は落雷を抑制する効果があるといえます」

マンションへの設置事例(提供:エスヨン)

誘導雷の被害は3000万円超

雷が落ちた場合、避雷針があっても誘導雷によって被害が発生する。火災のリスクもあるという(提供:エスヨン)

「dinnteco」により建物への落雷が防げれば被害はゼロか、というとそうではない。

雷には主に「直撃雷」と「誘導雷」の2種類がある。
「直撃雷は雷が構造物などに直接落ちる現象で、一般的に落雷と言われているのはこの直撃雷のこと。一方、誘導雷は雷によって発生した過剰な電圧や電流(雷サージ)が電線やケーブルを伝って侵入することを指します。テレビ、エアコン、電子レンジ、冷蔵庫、パソコンなど電気機器があふれる現代においては、この雷サージによる被害は深刻になってきています」

もし、住まいに雷が落ちた場合の被害額はいったいいくらになるのだろうか。

「従来型の避雷針を付けているマンションで、自動ドア、エレベーター、インターホン、給水ポンプ、防犯カメラなど、共有部だけで3,000万円を超える被害が発生した例があります。これに各戸の専有部の被害も合わせると相当な金額にのぼります」

雷サージによる被害を想定すると、「避雷針が付いているから大丈夫」、「戸建てだから大丈夫」とは言えないということだ。

避雷器の設置、プロテクト機能付き電源タップで雷に備える

プロテクト機能付きの電源タップ。量販店やオンラインショップなどで手軽に購入できる

では、対策はどうしたらいいのか。

ひとつはSPD(サージ保護デバイス)を取り付ける方法。雷による異常電圧が流れるとスイッチを閉じてバイパス回路を作り電圧を放電するというもので、避雷器とも呼ばれている。

「ただ、SPDの設置には費用面でかなり負担がかかります。本体の価格は2万~4万円。分電盤に設置するだけでなく、守りたい電気機器ごとの設置が必要な場合もあります。工事費用も含めると一戸建て住宅では10万円~200万円程度、集合住宅では200万円~400万円程度、大型施設では300万円~500万円程度。配線距離が長くなると工事費も大きくなるため、大きな施設の場合、総額1,000万円を超えることもあります」

被害に遭うより安いとは思うが、備えるにはコスト的に難しい場合もあるかもしれない。誰にでもできる一番簡単な方法は、使う時以外はすべての電子機器のプラグを抜いておくことだが、実際に実行するとなると煩わしくて暮らしづらい。ほかには、プロテクト機能付きの電源タップを使うことも有効だ。雷サージの被害を完全に防ぐことはできないものの、確率を下げることはできる。

また、被害に遭った場合に備え、雷保険へ加入しておくというのもうひとつの雷対策といえるかもしれない。雷によって故障、破損した家電の修理や買い替えに対する出費の補償はあるに越したことはない。

直撃でなくとも誘導雷を何度か受けていると、その分避雷針の劣化は進む

避雷針のメンテナンスも忘れずに

もうひとつ大事なのは、避雷針のメンテナンスだ。
避雷針は、年に1回以上の保守点検が日本工業規格(JIS)で定められている。しかし、管理会社によっては付けたら付けっぱなしというところもあるのが実情だという。

「避雷針は、落雷や経年によって老朽化します。錆びたり、接続部の緩みや破損、導線の劣化によって避雷針本来の機能を果たせなくなる可能性があります。常に雨風にさらされているため、予想外の劣化が発生していることも少なくありません」

マンションなどの場合、個人で点検を行うのは難しいため、まずは管理会社に点検状況を確認してみるとよいだろう。必要に応じて専門の業者に依頼し、定期的にメンテナンスを実施することが大切だ。

雷サージから電子機器を守る研究が進行中

石川県の実験検証施設。30メートル超えの鉄塔を建設し、落ちた雷からデータ採取を行っている(提供:エスヨン)

家電のIT化やコンパクト化により、誘導雷による雷サージの侵入経路が大幅に増えた。深刻化する被害の現状をを踏まえ、エスヨンでは母体である株式会社セイクンと避雷器メーカーの株式会社昭電、雷研究の第一人者である中部大学山本教授と共同で、雷サージから電子機器を守る実験を進めている。
2021年から、冬季にも雷が多発する石川県に実験施設を設けた。現在は高さ30メートルを超える鉄塔も建設して、自然環境下での直撃雷・誘導雷の両方の雷対策について研究が始まっているとのこと。

「雷雲が発生すると自動でコンセントを抜き、雷雲が去ると自動でコンセントを入れる『自動電源抜き差し装置』という、新しいプロテクト装置の開発も行っています。いつどこで起きるかわからない雷の特徴を知り、直撃雷と誘導雷の両方から暮らしを守る対策を検証しています」

気象庁「雷ナウキャスト」。 https://www.jma.go.jp/bosai/nowc/#zoom:5/lat:34.542762/lon:137.131348/colordepth:deep/elements:thns右側が段階別の危険度。1:雷可能性あり/2:雷あり/3:やや激しい雷/4:激しい雷

まずは理解して予測、行動することから

一筋縄ではいかないのが自然災害。今のところ雷に対する完全無欠な対策はないが、まずは雷の特徴を理解することが重要だ。
気象庁はホームページで雷の予測を発信しており、「雷ナウキャスト」という雷予測システムでは、落雷の発生地点や落雷の強さを4段階に色分けして表示。1時間後の予測も見ることができる。こうした情報をチェックし、予測して行動することから実行していきたいものだ。

【取材・協力】
株式会社エスヨン
https://www.esyon.co.jp/

【参照】
https://seikun.co.jp//

この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。

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