「泣きたくなるほど美しい」「見たことのない、新しい少女映画」歴史ある映画祭で約600人の観客を魅了!坂本悠花里監督作『白の花実』
2019年公開の『21世紀の女の子』の一篇「reborn」を監督し、中編「レイのために」(2019)や短編「木が呼んでいる」(2020)などで国内数々の映画祭で受賞し、その才能が評価されてきた坂本悠花里初の長編作品『白の花実』が、12月26日(金)より公開される。
このたび、「第73回サン・セバスティアン国際映画祭」(開催期間:9月19日~9月27日 ※現地時間)のNew Directors部門に本作が正式招待され、坂本悠花里監督と主演の美絽が映画祭に参加。日本での公開に先駆けて、ワールドプレミア上映とQ&Aを実施した。
坂本悠花里 長編劇映画デビュー作
本作が正式招待された【New Directors部門】は、濱口竜介監督やジョナサン・グレイザー監督(『関心領域』)など名だたる映画監督たちの登竜門として知られている。本作はそのなかでもクロージング作品での招待となっており、本部門のラストを飾る上映として注目を集めていた。上映中は観客が静かに本作に見入ってる様子が伺え、上映が終わり坂本監督と美絽さんにスポットライトが当たると、スタンディングオベーションと鳴りやまぬ拍手が。なかには「ブラボー!」との声も聞こえ、600人もの観客に本作の世界観がしっかりと届いていたことが分かった。
スタンディングオベーションの熱気に包まれたまま始まったQ&Aでは、「ソフィア・コッポラ監督のスタイルというのを少し見受けましたが、それは意識したのか?また、自殺をテーマに扱っていますが、なぜ現実と少しかけ離れているフィクションのような雰囲気で描いたか?」という質問に、坂本監督は「この映画はいろんな映画からの影響を受けていますが、その中でソフィア・コッポラで言うと、「『ヴァ―ジン・スーサイズ』は影響を受けているものの一つだと思います。そして、このテーマにした理由は、閉鎖的な女子校という設定で、女性だけの集団という少し特殊な環境に置くことによって、女性が求められがちな役割から解き放たれ、女性本来の姿や感情が逆に浮かび上がってくると思ったからです。
自殺のテーマに関してはインスピレーションとして急に降りてきましたが、後から思えば、自分自身がティーンエイジャーの時に主人公の杏菜や、莉花が感じていたことを実際に考えていたというのがあります。そこから、今日本でも若年層の自殺が増えている現実がある中で、このテーマで書こうと決心しました」と話した。
さらに、坂本監督は本作のテーマについて「自殺は決して良いことではないと思いますし、周りの人が自殺の理由を決めつけるというのは違うのではないかと思っています。日本では、「こういう理由で自殺したのではないか」とか、「こういう環境だったからなのではないか」など、ゴシップとして取り扱われているのを見るとすごく苛立ちのようなものが湧いてきたという気持ちが強いです」と本作に込めた想いを語った。
今回、映画初出演にして初主演、そしてこの映画祭が初めての舞台挨拶となる美絽は、本作について「初めての長編映画で、緊張や不安を強く感じていたのですが、この作品は自殺などがテーマだったので、やはりそういう気持ちはきっと誰しもが感じたことがあるんじゃないかと思っています。“その気持ちはあなただけじゃなくて、他のみんなも感じているから安心してほしいな”と思ってます」と作品に対する想いを話した。坂本監督と美絽さんの話に観客は頷きながら夢中で話を聞き入っている様子だった。
最後に、本作で描かれている親と子供の対立について、坂本監督は、「やはり家庭の問題は孤立しやすく、それぞれの家庭内で何が起こってるのかは、結局誰にも分からないということが多いと思っています。大人も子供も互いに相談しづらいなかで、大人が子供に「勉強しなさい」とか「受験のために頑張りなさい」などというプレッシャーを強く与えてしまうような、“勝てない問題”のようなもの描きたかった」と話した。
Q&Aが終わると会場はまた一段と大きな拍手に包まれ、大盛況のなか坂本監督と美絽が降壇した。その後も、坂本監督と美絽に声をかけたり、写真を求める観客が多数おり、「映画を見て連想する作品はあるけど、新しい映画でとても面白かった」「友情や孤独の意味を青春という文脈の中で問いかける、感情に響く探究となることを約束している作品」「泣きたくなるほど美しい!」などの声が集まり、本作がスペインの観客の心を掴み、高評価を得られたことが伺えた。
『白の花実』は12月26日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開