【東京・西浅草】遊び心溢れる英国菓子と静岡・川根茶の出会い「L’atelier du Thé KUKAI(ラトゥリエ・ド・テ・クウカイ)」
今回は、2024年、西浅草に移転オープンした「L’atelier du Thé KUKAI(ラトゥリエ・ド・テ・クウカイ)」(以下、クウカイ)へ。
「クウカイ」は2015年に静岡県磐田市にオープンしました。イギリスの焼き菓子と、静岡・川根産のお茶が織りなすマリアージュを体感できます。そのお菓子作りのこだわりや、立ち上げの思いについて、店主の久保田 英(くぼた あい)さんにお話を伺いました。
西浅草に誕生した英国菓子への入り口
東京メトロ銀座線「田原町駅」から歩くこと約10分。
観光客で賑わう浅草駅周辺からは少し離れた西浅草エリアは、どこか落ち着いた雰囲気が漂う、大人の街。通り沿いにはレストランや、バー、カフェなどが立ち並び、老舗の活気と新店の息吹が感じられます。
そんな通りに現れるのが、まっ白い外壁と「クウカイ」と書かれた印象的な文字。その洒脱な佇まいが、お店の目印です。
一歩足を踏み入れると、そこはまるで物語の世界のような愛らしい空間。
古民家をリノベーションしたお店の中央にはお菓子が飾られたショーケースがあり、小物やお茶道具などに囲まれています。
2階はカフェスペースとなっており、心ゆくまでお菓子とお茶を堪能できるスペースが広がっています。
日替わり、個性豊かな焼き菓子
1階のショーケースには、様々な手作り焼き菓子が並んでいます。スコーンは「ラズベリー&クリームチーズ」や「レモン」など、個性が光る3〜4種類をラインナップ。
「ベイクウェルタルト」、「チーズケーキチョコブラウニー」などのケーキや、具沢山のキッシュも人気です。
また、店内では静岡県川根産の煎茶やほうじ茶、紅茶などの茶葉も販売されています。
ではここから、CAKE.TOKYO編集部が厳選するおすすめメニューをご紹介します。
「クウカイ」のおすすめメニュー
サクッと、ふんわり「抹茶ミルク スコーン」
静岡県西部の自然豊かな茶産地、川根産の抹茶を使用した「クウカイ」オリジナルのスコーン。
外はサクッと、中はふんわり。焼き目の香ばしさと、抹茶の香り、そしてミルクチョコレートの甘みがマッチします。生地には発酵バターが贅沢に使われており、リッチな仕上がりです。トースターなどで温めなおせば、一層フワフワ感と甘みが増し、さらに魅惑の存在に。
「抹茶ミルク スコーン」は、ぜひ抹茶と同じく川根産の煎茶と合わせて楽しんでみてください。爽やかな香りと、やさしい甘み、そしてすっきりした後味の煎茶が、抹茶の風味豊かなスコーンに寄り添います。/p>素朴なおいしさの「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」
次にご紹介するのは、イギリスの家庭で定番の「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」。
イギリス王朝の繁栄に尽力した、ヴィクトリア女王にちなんで名づけられたこのケーキは、シンプルで素朴でありながら、アフタヌーンティーには欠かせない伝統的なスポンジケーキです。
見た目はずっしりとしていますが、ひとくち食べると生地は驚くほど軽やかで、しっとりと口の中でほどけます。生地の間には、ほどよい塩加減のバタークリームと、みかんとオレンジのママレードジャム。素朴な甘みは、ひとくち食べるたびに、幸せなひとときを与えてくれます。
サンドされるジャムは、林檎や柚子など、旬の果物で作られます。
夏風を感じさせる、さわやかな「レモンマフィン」
「紅茶に浮かべるレモンを、ケーキにのせたらどうだろう?」そんな久保田さんのユニークな発想から生まれたのが、次にご紹介する「レモン マフィン」です。
イギリスの伝統菓子「レモンドリズルケーキ」を、ふっくらと丸いマフィン型にアレンジしています。生地には香り高いレモンの皮のすりおろしがたっぷりと練り込まれ、ひとくちごとにさわやかな香りがふわりと広がります。
マフィンのてっぺんには、ほんのり水分を残したドライレモン。ジューシーでぎゅっと凝縮された酸味が、マフィンに上掛けされているレモンアイシングと合わさることで、甘酸っぱいコンビネーションが生まれています。
一緒にいただいたのは静岡県で有機栽培する「ライムバジル」のティー。
清涼感のある香りが鼻に抜け、軽やかな甘みが体に染み渡ります。夏にぴったりの、涼しげなお茶と、爽やかなレモンマフィンは相性抜群。
「レモン マフィン」を紅茶とオーダーし、ドライレモンを紅茶に浮かべるのもおすすめです。
おつまみに最適「ブルーチーズナッツ スコーン」
最後にご紹介するのは、濃厚なうまみが持ち味のブルーチーズを惜しげもなくスコーンに練り込んだ「ブルーチーズナッツ スコーン」です。
チーズの塩味が生地の甘みが絶妙に合わさり、甘じょっぱさがクセになる逸品です。さらに、大粒のクルミとアーモンドのザクザクした食感も楽しく、たまらないおいしさです。
「実は、お菓子だけではなくて、大のお酒好き」と笑う久保田さん。そんな彼女の遊び心から生まれたこのスコーンは、ワインやビールなどお酒との相性も抜群で、おつまみにもぴったり。ボリュームがあり、ちょっと小腹がすいたときにも満足のできるセイボリーです。
また、「クウカイ」ではどのお菓子もテイクアウトできるというのも、嬉しいポイント。
「クウカイ」ならではのこだわりのイギリスの菓子に、日本のお茶を合わせるという発想は一体、どのようにして生まれたのでしょうか。
実家は静岡の製茶問屋
久保田 英(くぼた あい)さんは、静岡県島田市川根町にある、3代続く製茶問屋に生まれ育ちました。幼少期からお茶に囲まれ、時にはその仕事を手伝うこともあったそう。
お茶に親しんで育った久保田さんですが、関心はそれだけにとどまりません。食全般への興味も強く、小さなころから“食いしん坊”だったと笑います。
久保田さん
「フキノトウのように、子供はあまり食べないような食材も大好きでした。小学生の頃にはお菓子作りに夢中になって、中学生になると懐石料理で出される『枝豆のすりながし』を作ったこともあります(笑)料理は独学なんです」
英国のティールームに惚れた10代
そんな探求心旺盛な久保田さんは、高校時代には海外の映画や音楽に影響を受けてイギリスへ留学します。現地では寮母さんが作ってくれる家庭料理に感動したといいます。
久保田さん
「イギリスで寮母さんが作ってくれる料理はどれも手が込んでいました。シェパーズパイ(ミートパイ)を焼いてくれたり、キャセロールと呼ばれる煮込み料理を作ってくれたり。いつもデザートまで作ってくれるのですが、それも絶品でした」
なかでも、強く印象に残っているのは、イギリス北部のハーワースという、レンガ造りの家々が立ち並ぶ街へ行った時のこと。
久保田さん
「伝統的なイギリスのアフタヌーンティーを提供するティールームを訪れました。小説『嵐が丘』の舞台でもある、美しい街です。そこで初めて食べたスコーンがおいしくて、ゆったりと過ごすお茶とお菓子の時間にも、”なんて素敵なんだ”と心打たれました」
お茶の時間はお菓子とセットs
帰国後、久保田さんは、実家の日本茶専門店に勤務するようになります。やがて、「お茶屋の仕事は、ただお茶を売ることではなく、お茶の時間を提供することだ」と考えるようになり、自らお菓子を作り始めたそうです。
「やると決めたらとことんこだわってしまう」という久保田さんのお菓子は、大好きだったイギリスのティールームが原点。イギリスのトラディショナルなお菓子作りのレシピをベースにしながら、久保田さんなりに日本人好みにアレンジし、次第に評判となっていきました。
そして2015年、静岡県磐田市に「クウカイ」をオープン。久保田さんの故郷である静岡県川根産のお茶を中心に様々なお茶も販売していました。
久保田さん
「川根茶は、上品でありながらワイルドな一面もあります。土の力強さを感じるお茶で、その香りを嗅ぐと、一瞬で川根のお茶だと分かるほど個性的。本当においしいですよ」
川根は静岡県の山間部にあり、上質なお茶が育つ土地として知られています。一方で、急こう配での農作業は非常に大変で、加えて高齢化が進んでいるため、農地は年々減少しているのだそう。
「川根茶を守りたい」と久保田さん。
「クウカイ」という店名には「空と海を渡り、お茶がどこまでも広がるように」という願いを込めたといいます。また、唐から日本へ茶の種を持ち帰った空海(弘法大師)の名前でもあるそうです。
下町らしさを楽しみながら
開店から約9年を経た2024年、縁あって「クウカイ」を静岡県磐田市から東京・西浅草へ移転します。新しい店舗には、「クウカイ」にとって初となるイートインスペースがも併設されし、川根茶をじっくりと味わうことができるようになっていますます。
久保田さん
「西浅草は下町の文化が残る街。個人店を応援してくれる方々から、いろいろな面で助けていただいています。人と人とのつながりがあるこの地域は、とても良いところだと思います」
人との縁を大切にする久保田さんにとって、西浅草は心地よく、一層のやりがいを感じているそうです。そんな久保田さんに、今後の展望を伺うと素敵な答えが返ってきました。
久保田さん
「今はテイクアウト用のカップにお茶を淹れていますが、いずれは茶器で提供して、よりお茶の風味を味わっていただけるようにしたいと思っています。また、お菓子やお茶をご自宅でも楽しんでいただけるよう、作り方や淹れ方などをお伝えするワークショップも開催したいです」
元気に答えてくれた久保田さん。その朗らかな人柄も「クウカイ」の魅力のひとつだと感じました。
川根茶の魅力と、それに寄り添うイギリス伝統菓子のお店は今後の展開もとても楽しみ。久保田さんの「お茶の時間」は、これからもますます深まり、広がっていきそうです。
WRITER:芦谷日菜乃
=================================
【SHOP INFORMATION】
SHOP:L’atelier du Thé KUKAI(ラトゥリエ・ド・テ・クウカイ)
ADDRESS:東京都台東区西浅草2-8-7
OPEN:12:00~19:00
CLOSE:月曜日・火曜日