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【昭和の春うた】キャンディーズ「春一番」ライブ盤で聴くことをオススメする理由は?

Re:minder

1976年03月01日 キャンディーズのシングル「春一番」発売日

3人とも洋楽指向、キャンディーズの本質はライブにあり!


「キャンディーズは、ライブでファンを熱狂させるロックボーカルグループだった」と言うと、熱心なファン以外は怪訝な顔をする人が多いだろう。テレビに出ている彼女たちだけを観ていると気づかないけれど(活動時は小学生だった私もそうだった)、キャンディーズというグループの本質はライブにこそあった。

当時のライブ盤を聴くと、洋楽曲の多さが目につく。前半は洋楽カバーで盛り上げて、オリジナル曲は後半という構成だ。選曲も幅広い。ディープ・パープルの「ブラック・ナイト」にも挑戦しているし、1978年4月に後楽園球場で行われた伝説の『ファイナルカーニバル』に至っては、前半はディスコソウル&ファンクの嵐である。

その方向性は担当スタッフが演出していたのかというと、決してそうではない。彼女たち自身が結成当時からライブ指向であり、特に音楽面で主導的な役割を果たしていたミキが洋楽好きだったことで、3人とも洋楽指向だったのだ。

キャンディーズとスタッフの発言を時代別にまとめたファンサイト『ドキュメンタリー オブ キャンディーズ』によると、デビュー2年目の1974年7月に大阪郵便貯金ホールで行われた初リサイタルに関して、スーがこんなことを言っている。

「私たちは外国の曲もたくさん入れたかったの。でも、マネージャーは日本の曲中心でいくべきだって主張するわけ。3人とも興奮しちゃって、まるでケンカ腰で議論したわ」」

「明星」1977年9月号より

このときは3人もしぶしぶ折れ、日本の曲を中心に歌ってリサイタルは大成功。「マネージャーの言い分を通してよかったって、あらためて納得したの」とスーは語っているけれど、この発言ひとつ取っても、キャンディーズが初期からすでにライブ重視、洋楽重視のグループだったことがわかる。

テープ投げとコールこそが “全キャン連” の青春

アイドルのライブはファンも参加してつくるもの、という今では当たり前になったことも、その元をたどるとキャンディーズに行き着く。1975年10月、蔵前国技館で第1回が開催された「キャンディーズ10000人カーニバル」はファンが企画・主催して実現、初回は8600人、第2回は1万3500人を動員した。

その実行委員会が “全キャン連”(全国キャンディーズ連盟)へと発展して行き、キャンディーズのライブに欠かせない存在となっていく。彼らにとってキャンディーズのコンサートは、やり場のない鬱屈を吹き飛ばし、燃え尽きてハイになる場であり、テープ投げとコールこそが青春だった。

そんな熱いファンたちに支えられていたキャンディーズ。「オリジナル曲で、コンサートが最高に盛り上がる曲も、何か1曲欲しいよね」という話が当然出てくる。「春一番」は充実したライブを展開していたキャンディーズにとって、まさに待ち望んでいた1曲だった。

アルバム『年下の男の子』に収録されていた「春一番」

1976年3月、通算9枚目のシングルとして発売された「春一番」。この曲はもともとシングル曲ではなく、1975年4月に発売された4枚目のアルバム『年下の男の子』のA面1曲目、冒頭を飾る曲だった。作詞・作曲・編曲は穂口雄右。キャンディーズに音楽のイロハを叩き込んだ “師匠” でもあった。

ここで注目してほしいのは、本来は作曲家の穂口が、本曲では作詞も担当していることだ。そうなったのには理由がある。穂口はNHK BSのドキュメンタリー『名盤ドキュメント キャンディーズ「年下の男の子」〜 彼女たちのJポップ革命』(2023年放送)の中で、この曲の創作秘話を語っている。ある日 “春の歌を作りたいな” と思った穂口は、ギターをバーン!と弾いてみた。すると、あの有名なフレーズが降りて来たという。

「♪もうすぐ春ですね」

「単純に、言葉とメロディーが同時に出て来て。もうすぐ春だったんです、そのとき(笑)。詞を初めて書いた。楽譜の下にバーッと書いて」

(穂口)

穂口はこの曲を、当時キャンディーズの音楽プロデューサーだった渡辺プロ・松崎澄夫に「面白い曲ができたから、ちょっと聴いて」とピアノで弾いて聴かせた。いきなり「♪雪が溶けて 川になって 流れて行きます」という歌詞は斬新そのものだった。

松崎は「穂口、誰にも聴かさないで!」と念押し。こうして「春一番」はキャンディーズのアルバムに収録されることになったが、ひとつ問題があった。穂口が書いた歌詞は、本人によるとあくまで “仮詞” であり「こういうイメージで書いてください」という作詞家へのサジェスチョンのつもりだった。ゆえに当初、1番までしか歌詞がなかったのだ。

しかし松崎は続きの歌詞を作詞家に任せず、すべて穂口に書かせた。詞と曲が一体になって生まれたこの曲は、穂口自身が完成させるべきだと感じたのだろう。穂口は「大変だった」とこぼしているが、松崎の直感は正しかった。

フッと降りてきた「春一番」のイントロ


また曲の面で言うと、まずイントロのギターソロに圧倒される。聴いただけでテンションが上がるし、この曲の疾走感はこのイントロに尽きると言っても過言ではない。ところが穂口によると「あれ、私書いてませんから。楽譜に『fill in』って書いただけ」。“fill in” とは “埋める” 。ここでは「お任せするんで、好きに弾いて」という意味だ。

穂口がイントロをお任せしたギタリストは、水谷公生。実は穂口と水谷とプロデューサーの松崎は、かつて “アウト・キャスト” というGS(グループサウンズ)で一緒にプレイした盟友だった。アウト・キャストはヒットに恵まれず数年で解散したが、キャンディーズを介して、バンド仲間3人が再結集していたわけだ。

水谷は『名盤ドキュメント』の中で「春一番」のイントロについてこう語っている。「弾きだしたときに、自分の力じゃないような感じがする。指が(勝手に)弾いているっていう感覚があるの」。穂口も水谷も曲やフレーズが “フッと降りてきた” と語っているところが、ゾワッとするではないか。こうして神曲はできていくのだ。

また今聴いても、この曲は異常にテンポが速い。演奏したスタジオミュージシャンたちも速すぎて混乱したそうだが、穂口によるとキャンディーズは混乱せず、歌入れもごくスムーズに終わったそうだ。穂口の厳しい指導のたまものであり、ライブで鍛えられたところもあっただろう。

そして「春一番」でもうひとつ特筆すべきは、キャンディーズならではの “ユニゾン” である。3人の声の一体感たるや、まるで1つの声のようでまったく揺らぎがない。唯一ハモるのが、サビの「♪もうすぐ春ですね〜」の部分。途中、ハモりたいのをグッとこらえてユニゾンで押し通し、最後に3人がハモることで、3色の花が一斉に開花したような感覚が味わえる。キャンディーズがコーラスグループとしても一流だった証しだ。

コンサートで歌い、ファンとともにつくりあげて来た「春一番」

こうして完成した「春一番」。松崎によると「シンプルに、楽しいいい曲だな」と思って気分よくアルバムに入れたが、当初シングルにする考えはなかったそうだ。ところが、コンサートで3人がこの曲を歌うといつも異常に盛り上がる。ファンの支持も高く、松崎もシングル発売を決意したが、渡辺プロの制作会議で反対した人物がいた。渡辺晋社長(当時)である。「このままじゃダメだ」。ライブで受けても、シングルで売るにはもうワンパンチ必要、というわけだ。

松崎は、作詞家の千家和也に詞の “書き直し” を依頼したが、千家は穂口が書いた歌詞を見てこう言った。「こんなに完成した詞はないよ。このままでいい」。穂口にとって「春一番」は代表作の1つだが、もし千家の歌詞でシングルが出ていたらどうなっていただろうか? 穂口はのちにこう記している。「千家先生は私を作曲家して認めてくれた最初の作詞家であり、「春一番」の歌詞を世に出してくれた恩人です」

松崎は、アルバムバージョンに管楽器・弦楽器を加えることで社長を説得。なんとか制作会議を乗り切った。シングルのほうがゴージャスになってはいるが、オリジナルバージョンの良さを損なわないままシングルとして世に出た「春一番」は約50万枚のヒットを記録。キャンディーズの代表作となった。

3人にとっても、コンサートで歌い、ファンとともにつくりあげて来たこの曲がヒットしたことは、何より嬉しかっただろう。自信を深めたキャンディーズは、バックバンド “MMP” (ミュージック・メイツ・プレイヤーズ、のちにスペクトラムに発展)とともにライブをより充実させていった。繰り返すが、キャンディーズの本質はライブにある。ぜひライブ盤でも「春一番」を、そして他の楽曲も聴いてほしい。本当のキャンディーズがそこにいる。

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