ローファーの種類から部位名称まで、購入前に知っておきたい基礎知識【断然革靴派】
他の革靴に比べて作りは簡素ながら、実は奥深いローファー。特にモカ縫いの種類が語れるようになれば玄人感も人一倍!講師として、青山に本店を構える「トレーディングポスト」総合企画部の藤井丈晴さんにご指導いただいた。
講師 藤井丈晴さん|ドレス靴を中心としたセレクトショップ「トレーディングポスト」を運営する、プレステージシューズで総合企画部に所属。同社屈指の革靴マニア
まずは各部名称から覚えよう
まずはキホンのキ。ローファーの各パーツの名称をおさらいする。もっともベーシックな形であるペニーローファーを見本とする。
まずローファーらしいディテールとして覚えておきたいのが、甲に乗せた帯状のパーツで、これを「サドル」という。ペニータイプの場合、ここに切り込みが入っていることがほとんどで、これは「スリット」と呼ばれる。そして「モカ」も必修ワード。ローファー最大の特長のひとつで、甲(ヴァンプ)からつま先を走るU字型のステッチのこと。モカの縫い方にもいくつか種類がある。
代表的な2つの製法、グッドイヤーウェルテッド製法とマッケイ製法
革靴全般に共通する製法のなかで、特にローファーでよく見られるふたつの製法にフォーカス。それぞれの履き心地の違いなども知っておきたい。
グッドイヤーウェルテッド製法
アッパーと本底が直接縫われていない点が最大のポイント。アッパーに縫い付けられるのはあくまでウェルトで、このウェルトが本底と縫い付けられる。ウェルトのぶんだけコバの張り出しが大きい。厚みが増すためクッション性に優れ、他の製法よりも多少雨に強い
・コバの張り出しが大きく、やや武骨な印象
・厚みがあるぶん、クッション性に優れる
マッケイ製法
アッパーと中底と本底を直接縫い付ける製法。グッドイヤー製法と比較すると、リブテープやウェルトがなく、間に詰めるコルクなどの中物も少ない。そのぶん軽量で、足に馴染むスピードも早い点がメリットだ。本底の上に中板(ミッドソール)を挟む場合もある
・薄いぶん、足への馴染みが早い
・部材が少ないため軽量
ローファーの種類を決める、サドルデザインあれこれ
おもな違いはサドル部分の意匠。近年はローファーの定義が広がりつつあるが、少誌ではヴァンプまでをローファーと定義している。
ペニーローファー
サドル部分にスリットが入っており、硬貨(ペニー)を挟んで履くことが流行したため、その名が付けられた。1936年に誕生した「ジーエイチバス」の[ウィージャンズ]が起源とされている。
ビットローファー
パイオニアは「グッチ」。同ブランド創業者の実家が馬具の生産を行っていたことが縁で、1953年に馬に噛ませる棒状の道具「ハミ」をローファーに落とし込んで発売。
タッセルローファー
ハリウッド俳優が「オールデン」にオーダーした意匠だという説がもっとも濃厚。当時タッセルは、靴紐の先端に付けられることはあっても、直接ヴァンプに付くことはなかったため、革新的だった。
ヴァンプローファー
ビットやタッセルなどの飾りがなく、サドルすら付かない原初的なデザイン。起源は不明。ヴァンプの形状が蛇の頭に見えることからコブラヴァンプとも呼ばれ、「フローシャイム」のモデルが有名。
こんな変わり種も!? サドルデザインの変化球
スリットレス
大まかにはペニーと同じでありながら、スリットが一切入らないデザインのものもある。ミニマルでややモダンな印象も受ける。
バタフライ
サドル部分がその名のとおり蝶のような形をしていることから命名された“バタフライローファー”。エレガントな佇まい。
モンク
ストラップが付いたモンクタイプは、ローファーにおいても存在する。クラシカルな見た目でありながら他人と差別化できる。
ちなみに……ペニーローファーのスリットの形も実は2種類!?
ペニーローファーのスリットに注目。実はスリットの形状も、写真左の半月型と、写真右のかもめ型のようなタイプに大まかに二分される。ここまで判別できれば玄人。
ローファーに使われている基本的な素材をおさらいしいよう
ローファーに限った内容ではないが、ローファーに使われている主な革素材を復習しよう。シンプルな作りのぶん、革の表情は重要だ。
カーフ
生後6カ月以内の子牛からとれた革で、毛穴が小さくきめ細やかな質感。より光沢があって高級な「ボックスカーフ」も頻出のワード。
コードバン
馬の臀部を使用した最高級レザー。“革のダイアモンド”と称され、〈オールデン〉の名作シューズなどでもたびたび採用されている。
スウェード
革の表面(スムースレザー)と比べて、グンとカジュアルな印象になる裏革。英国のC.F.ステッド社が老舗のタンナーとして有名。
シボ
シボは素材の名称ではなく、あえてシワを付ける加工や革の表面に自然に表れるシワのことを指す。ローファーでも頻出のため掲載。
モカ縫いにも種類がある
ローファーの欠かせないディテール、モカ縫いの話。甲からトゥにかけて入るU字型ステッチのことだが、いくつかの縫製方法が存在。
合わせモカ
甲の革とサイドの革は別々で、それぞれを“合わせ”て縫う方法。合わさっているサマがちょうど人間が手を合わせて拝んでいるように見えることから「拝みモカ」とも。最もオーソドックスなモカ縫いと言える。
すくいモカ
甲の革とサイドの革が分かれていない一枚の革を、つまみあげて縫う手法で「つまみモカ」とも呼ばれる。他のモカとは異なり、なにも縫い合わせていない“ただの飾り”である。革の繋ぎ目がないため上品な印象。
ヘビモカ
甲側の革でサイド側の革を覆うように縫い合わせる手法で、ボリュームがあるためカジュアルな見た目になる。また、雨が侵入しづらい。合わせモカの上を覆うように別の革を縫い付ける「かぶせモカ」と似ている。
乗せモカ
甲の革をサイドの革の上に乗せ、垂直にステッチを入れて縫い合わせる手法。ただ乗せただけのため、非常に控えめな印象になり、モカらしさは薄い。ドレッシーなモデルによく用いられ、仕事靴として使いやすい。
ローファー特有のディテールも知っておきたい
ちょっとマニアックだが、特にローファーに見られることの多い仕様をいくつか紹介。特にアメトラ好きは「ビーフロール」は必修。
ビーフロール
サドルを補強するため、両端をステッチで留めた様相が糸で縛り上げたローストビーフに見えることからその名がついた。「セバゴ」が開発した極めてアメトラ的なディテール。
アンライニング
アッパーの裏側に別の革(ライニング)を張り合わせていないことを指す。軽やかで非常に柔らかい仕上がりになるため、ストレスフリーな履き心地を実現できる。
キルト
甲の上に付けられたフリンジ状の飾りのことで、ルーツはスコットランドの民族衣装。直接縫い付けられているモデルもあるが、別売りのキルトを自ら取り付ける場合もある。
フルサドル
サドルの両端が、コバのほうまで伸び切っているものをフルサドルと呼ぶ。よりフォーマルな印象。短く途中で終わっていることがほとんどで、これをハーフサドルと言う。
キッカーバック
モカ縫いと同じ要領で、かかとに出っ張りを作った仕様。ここにもう片方の足を引っ掛けて脱ぎやすくするためとされている。靴にとってよくなさそうな気もするが……。
ローファーのギモンにお答えします!
最後に講師役を務めていただいた藤井さんに、ローファーに関する疑問をぶつけた。あくまで藤井さんの見解でもあるためあしからず。
Q.ローファーの起源は?
「アメリカ先住民が履いていたインディアンモカシンという説が濃厚。ほかの革靴と比べても決して革新的な形ではないので、同時多発的に色々な場所で似たようなモカシン靴が作られていたかもしれませんね。もともと“ローファー”という言葉自体は、アメリカの老舗ブランド『ネトルトン』から販売されていた革靴のモデル名で、それが一般名詞として広まったということみたいです。由来は、皆さんご存知のとおり“怠け者” からきているんでしょう。キャッチーなモデル名を考えた『ネトルトン』の功績は大きいですね」
Q.ローファーとスリッポンの違いって?
「結論から言うと、図のようにスリッポンという大分類に、ローファーという中分類が含まれているイメージです。昔はローファーと言うとペニーだけの印象でしたが、定義が広くなっていますね。“モカシン”もややこしいですが本来甲部分だけが別の革で縫い合わされ、他の部分は一枚革になっている袋状の作りのことを指します。逆に言えば『クラークス』の[ワラビー]など、紐靴にもモカシンは存在します」
Q.グッドイヤー製法はなぜ人気なんですか?
「“ハンドソーンウェルテッド”という手縫いの製法を、ミシンで作れるようにしたのがグッドイヤーで、それだけ切り取るとラクしているように聞こえますが、ミシンを操るのはあくまで熟練の職人で、グッドイヤーの靴は手作りの靴である、というのがメーカーの気持ちだったりします。ハンドソーンなどの特殊な製法を除くと、もっとも手間がかかっている靴はグッドイヤーで、職人が作った本格靴が欲しいとなったとき避けられないものなのです。ロマンです」