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北陸新幹線の敦賀以西、政府目標「2025年度に本格着工」は最終的に見送り……になったのはなぜ?【コラム】

鉄道チャンネル

快走する北陸新幹線。JR西日本によると、2024年夏季輸送(8月9~18日)の利用客数は39万7000人で、金沢~敦賀間が在来線だった前年に比べ26%増加しました(写真:hnamasute / PIXTA)

2024年から2025年へ、To be Continued。最終結論に至りませんでした。北陸新幹線敦賀~新大阪間延伸。ルートや駅位置の実質決定権を持つ与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(与党PT)は、目標としてきた「2024年内にルートや駅位置を決定し、2025年度に本格着工」を断念しました。

もともとの工期が20~28年程度と長期にわたることを考えれば、スタート時点での多少の遅れは後で取り戻せるとの見方もあるわけですが、政府方針で示されたスケジュールのつまずきは、整備新幹線あるいは高速鉄道プロジェクトに対する社会の考え方を象徴するものともいえそうです。「本格着工見送り」に至るまでの流れを深掘りしました。

(本コラムは関係機関などの考え方を客観的に検証する目的で、特定の見解を支持あるいは批判する意図はないことを十分にご理解いただきたいと思います)

本格着工、再度遅れる

北陸新幹線本格着工へのアウトラインは、本サイト2024年12月12日掲載「北陸新幹線敦賀以西の来年度着工に向け最終局面」で紹介させていただきました。

与党PT北陸新幹線敦賀・新大阪間整備検討委員会は、12月13日に京都府、京都市、大阪府からヒアリングしたのですが、このうち京都市の意見が検討委の議論に大きな影響を与えました。

検討委は12月20日、京都市内ルートを成案に絞り切れなかったことなどを中間報告の形で与党PTに提出しました。

その結果、政府(実質は国土交通省です)は12月27日に閣議決定された「2025年度予算案」に、「2025年度本格着工」の明記を断念。当初は2023年春とされていた敦賀~京都~新大阪間の本格工事着手は、再び先送りされました。

検討委の議論で、わずかに進んだのは京都駅の位置。「東西案」、「南北案」、「桂川案」の3案あった駅位置や線形では東西案が消えて、南北案と桂川案に絞り込まれました。地下の北陸新幹線ホームと地上の東海道新幹線ホームがほぼ並行に並ぶ東西案は、環境問題を理由に検討対象から消えました。

北陸新幹線京都市内ルート・駅位置3案。消えた東西案を含め、いずれも地下トンネルで市内を縦貫します(資料:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
南北案と桂川案の比較。工期は南北案が短いものの、それぞれに課題があります(資料:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

酒造組合が新幹線トンネルに懸念

本コラムで既報の通り、与党PTの発表や公式ホームページはなく、周辺取材によらざるを得ません。その中で、京都市は検討委への説明資料を公表。そこから本格着工見送りに至った理由を探ります。

北陸新幹線の市内通過について、京都市は「近畿と北陸を結ぶ日本海国土軸(の移動手段)として重要。近畿圏と北陸圏は歴史的にも深いつながりがある」と賛成します。その一方で、「事業(建設工事)に当たっては京都市民の暮らしや生業に最大限、配慮していただく必要がある」と求めました。

京都市が検討委に慎重な判断を求めた背景には、京都府酒造組合連合会と伏見酒造組合が連名で2024年12月2日、市に提出した要望書があります。両組合には関西を代表する酒どころ、京都市伏見区を中心に京都府下の酒造メーカーが加盟します。

酒造組合は「地下水」、「建設発生土」、「交通渋滞」、「財政負担」の4点から、「京都市中心部地下を南北に貫く新幹線の地下トンネル建設」への懸念を示しました。

組合によると、酒造メーカーが使用する地下水(井戸)の深さは新幹線トンネルとほぼ同じ。トンネル掘削が地下水に影響する可能性を否定できません。

高架鉄道に計画変更した近鉄奈良線

組合の要望書に、鉄道ファンの皆さまにも興味を持っていただけそうな、鉄道建設史をたどる一文がありました。

昭和初期、京都から奈良方面への鉄道を構想した旧奈良電気鉄道は当初、地下線を計画したのですが今回同様、酒造組合の反対を受けて高架鉄道に変更したそうです。

奈良電は現在の近鉄京都線の前身。確かに、近鉄奈良線は高架で京都市街を抜けますが、現在はほぼ並行する区間の地下に京都市営地下鉄南北線が走ります。

地下水以外の問題にも触れると、建設発生土は処分地確保が課題。交通渋滞は、いわゆるオーバーツーリズム問題も相まって京都市内交通混雑を深刻化させる恐れがあります。

財政面では、材料費や人件費高騰で沿線自治体の負担が大きく膨らんでおり、京都市以外の自治体からも財政圧迫を心配する声が上がっています。

一転して判断を先送り

松井孝治市長(左)に要望書を手渡す自民党京都市議団(右)(写真:自由民主党京都市会議員団)

検討委の判断に至る過程を、もう少し別の角度から検証しましょう。委員長を務めるのは京都府選出の西田昌司参議院議員です。西田委員長は2024年8月のルート案公表時には、「2025年度末までの本格着工に向け、準備を進めたい」と意欲的でしたが、今回は一転して判断を先送りしました。

政局の流れでいえば、2025年は夏場に参院選のスケジュールが組まれます。自民党京都市議団は2024年12月11日、北陸新幹線整備での慎重な判断を求める要望書を京都市に提出。理由は酒造組合とほぼ同じです。

さらには京都仏教会も北陸新幹線計画の再考を求めたとされます。こうした地元の意向を受け、当初は積極姿勢だった西田委員長も慎重な判断に方向転換せざるを得なかったとの見方は、決して不自然ではないでしょう。

地下水問題で西田委員長は、今後も科学的知見を深めて不安解消に努めるとします。本予算では消えましたが、補正予算での着工可能性も模索します

沿線の一部自治体などからは小浜京都ルート決定で消えた米原ルートの復活を求める声も上がりますが、西田委員長は「(北陸新幹線と東海道新幹線の乗り換えが必要になる)米原ルートは、着工5条件の一つのB/C(費用便益比)で利便性を損ない、再考はあり得ない」と明確に否定しました。

北海道新幹線札幌延伸に全力投球

最後に2024年12月27日に閣議決定された国交省の2025年度予算案から、整備新幹線関連の項目を抜き出せば事業費2658億円(うち国費803億7200万円)。2024年度は事業費2275億円(国費同額)で、383億円の増額。9割近い2360億円は、工事がヤマ場の北海道新幹線新函館北斗~札幌間建設に充てられます。

本格着工が見送られた北陸新幹線敦賀~新大阪間のうち、国費で進められるのが「事業推進調査」。国は、京都駅の南北案と桂川案の比較調査などに継続して取り組みます。

記事:上里夏生

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