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南青山・スパイラルにて上演されていた人形劇・Q/市原佐都子「弱法師」をレポート

OMOHARAREAL

メイン画像:©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato 南青山のスパイラルホールにて上演されていた、Q / 市原佐都子が劇作・演出する人形劇 「弱法師」をレポート。

10代の頃より、舞台観劇を趣味としている筆者。人生で初めて観た舞台は、青山劇場で上演されていたミュージカル「アニー」だったことを思い出す。青山劇場と同じく、子どもの城内に所在していた青山円形劇場にもよく訪れたが、どちらも2015年に閉館。それ以来、表参道・原宿エリアに観劇目的で訪れることはなくなった。

あれから約9年の年月を経て、久々にこの地で演劇を観る機会が舞い込んできた。それが、人形劇「弱法師」。本公演は、「シアターコモンズ’24」プログラムの一環として公演を実施。世界演劇祭テアター・デア・ヴェルトでの世界初演、高知・城崎での日本初演を経て、今回の東京公演がスパイラルホールで行われた。

本作は、伝承「俊徳丸伝説」をもとにした謡曲「弱法師」がテーマの舞台作品。昔観た、蜷川幸雄演出・藤原竜也主演の舞台「身毒丸」も、「俊徳丸伝説」が題材の作品だったような。(余談だが、舞台「身毒丸」では藤原氏が全裸になったり、「おかあさん、もう一度僕を妊娠してください!」なんてパンチの強いセリフが出てきたりして、当時10代の筆者には刺激が強過ぎる作品だった)

そもそも「俊徳丸伝説」とは、継母の呪いによって失明した眉目秀麗な少年・俊徳丸が、家を追い出され落魄するも、四天王寺の観音に祈願することによって病が癒えて幸福を手にするーーといった内容の伝承である。全体を通して悲劇的ではあるものの、ラストにはちゃんと救いがあるのだが、「俊徳丸伝説」を下敷きにして作られた謡曲「弱法師」はそうじゃない。「弱法師」の俊徳丸は、祈りを捧げても視力が回復せず「回復したような錯覚に陥るだけ」で終わってしまうのだ。あまりにもひどすぎる……。

そんな悲劇性の強い「弱法師」の構成要素をふんだんに盛り込み、現代風のアレンジを加えて生まれた本作。人形劇というと子ども向け作品のイメージが強いけれど、本作は完全に大人向けのようだ。複雑怪奇な「弱法師」の世界観を、人形を用いてどのように表現するのか。ワクワク半分、“怖いもの見たさ”的な好奇心半分で、劇場に足を運んだ。

本番前のホワイエの様子

劇場はスパイラル3階のスパイラルホール内に設置され、キャパシティは小〜中劇場規模といったところ。客席は満員御礼で、対象年齢が16歳以上ということもあってか、来場者は30代以上が多い印象を受けた。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

西原鶴真による薩摩琵琶の生演奏とともに、舞台は幕を開ける。ドイツで活躍する俳優の原サチコがさまざまな声色を自由に使い分け、観客を「弱法師」の世界に引き込んでいく。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

無表情な人形遣いたちが操縦するのは、これもまた無表情な人形たち。ほとんどの人形劇では、人形を動かす人間は黒子に徹し、なるべく存在感を出さないようにするものだが、本作はとにかく背後の人間たちが目立つ。最初は舞台上の彼らに違和感を覚えたが、だんだんと人間と人形が一体化して、ひとつの新しい生命体のように見えてくるから不思議だ。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

原の、時にコミカルで時におぞましい語りと歌声、西原の変幻自在な演奏に、脳みそを揺さぶられる。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

序盤はユニークなシーンに小さく笑いが起きていた客席だが、継母に目を潰された「坊や」の悲劇的な生き様と、混沌を極める映像と音の演出に圧倒され、後半は誰一人として声をあげることはなかった。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

人間が人形を操っているのか。はたまた、人間が人形に操られているのか。ラスト数分間の衝撃が、今でも脳裏にこびりついて離れない。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

なお、本作は日本の演劇作品としては珍しく、全編に英語字幕が付いている。日本語がわからない方でも作品を楽しめるのはもちろん、日本語話者の筆者も「この台詞は、英語だとこういう言い回しになるのか」という発見が多々あった。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

終演後は、キャストと製作陣が登壇するアフタートークを実施。本作で怪演を見せた原は、「日本人が作演出の新作に出るのは25年ぶりのことでした。ドイツにずっと居たので、こうして日本の若い方々に刺激を受けながらお芝居を作れたことに感謝です」と、優しい笑みを浮かべながら語った。

©︎Theater Commons Tokyo ’24/ Photo by Shun Sato

謡曲、文楽、邦楽、アングラ演劇といった日本の古き良き芸術文化を踏襲しつつ、現代的な視点をもって描かれた本演目。人間のグロテスクさをまざまざと見せつけられる瞬間は、決して心地の良いものではないけれど、今までにない演劇体験を求めている人にはうってつけの一作だと言える。

東京を代表する劇場が閉館し、演劇に触れる機会が激減した青山だが、この地に根付く演劇文化は決して衰退していない。アニメや漫画の舞台化でもなく、アイドルやイケメン俳優が出るわけでもない、硬派かつ挑戦的な本作を通じて、そんな希望を持つことができたのも嬉しかった。

■概要
Q / 市原佐都子 「弱法師」
上演期間:2024年3月8日(金)19:00、3月9日(土)13:00/19:00、3月10日(日)14:00
開催場所:スパイラルホール
住所:東京都港区南青山5-6-23 スパイラル3F
チケット:一般5000円/学生4000円
※本作には性的・暴力的表現が含まれます。
※推奨年齢:16歳以上。

Text:Arisa Watanabe

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