馬喰町駅が怖かった~ 小説家・清水晴木「晴れ、ときどき懐う(おもう)」
千葉県習志野市出身、在住の小説家・清水晴木さん。累計4万部突破の『さよならの向う側』シリーズなど多数の執筆した小説の数々は千葉を舞台にしています。そんな清水晴木さんが著作と絡めて千葉の思い出をつづります。
清水晴木さん
1988年生まれ。東洋大学社会学部卒。2011年函館イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。2021年出版の『さよならの向う側』はテレビドラマ化して放送。『分岐駅まほろし』『旅立ちの日に』『17歳のビオトープ』など著作多数。
馬喰町駅が怖かった
さよならの向う側シリーズの最新刊「さよならの向う側 90s」が発売した。
タイトル通り90年代が舞台の物語だ。
ちなみにその頃といえば私は小学生で、巷ではノストラダムスの大予言がはやっていた。
そして子ども心ながら、その予言による地球の滅亡を恐れていた。
子どもの頃は怖いものが今よりたくさんあったと思う。
そんな幼少期の私が恐れていた一つの駅があった。
その場所は総武線快速の停車駅、馬喰町だ。
私は昔から乗り物酔いがひどかった。
そのため電車に乗るだけで憂鬱ではあった。
そんな中でも馬喰町駅が怖かったのは、まずシンプルに名前の響きだ。
「バクロチョウ」この時点で、爆発的な危険な雰囲気や、「暴露蝶」的な奇怪な生物を想起していた。
しかし恐ろしいのは名前の響きだけではない。
本当の怖さは駅にたどり着くまでにある。
実際電車に乗るとわかるが、この路線は千葉からだと馬喰町駅に着く前に地下に入るのだ。
これがとにかく子供の頃は怖かった。
そもそも快速と各駅停車の違いについてもわかっていなかったので、錦糸町駅を過ぎた後に明るい両国駅ではなく、この地下の真っ暗な馬喰町駅にランダムでたどり着くというのもなんか怖かった。
また電車が地下のトンネルに入ると、走行音が轟々と鳴り響くので、視覚だけではなく聴覚的にも怖かった。
そして駅へたどり着くと、無機質なコンクリの壁に「馬喰町」と書いてあるのだ。
馬を喰う町。
もはや怖すぎて仕方なかった。
ちなみに今でも乗り物酔いをするから電車はまあまあ苦手です。