7大陸最高峰制覇はお預け 「失敗してきました」 登山家・西川史晃さん
失敗は成功のもと―。10月13日の記念日に、フィンランド発祥の「失敗の日」がある。失敗を共有し、称え合う。稲村ガ崎在住の登山家・西川史晃さん(42)は、今年6月に大きな失敗を経験した。サラリーマンをやめ、2017年から始めた世界7大陸の最高峰登頂。その最後となる北米大陸最高峰の標高6190m「デナリ(マッキンリー)」に挑むも、山頂まであと400mほどのところで断念した。その瞬間、何を思い、結果にどう向き合ったのか。西川さんに話を聞いた。
――西川さんはこれまでに、キリマンジャロ(アフリカ大陸)、エルブルース(ヨーロッパ)、コジオスコ(オーストラリア)、アコンカグア(南米)、エベレスト(アジア)、ビンソンマシフ(南極)への登頂にすべて1回で成功。今回のデナリ挑戦はいかがでしたか?
今まで以上に準備して臨みました。2月に北海道で合宿、4月からはヒマラヤで高地トレーニング。体重を整え、持ち物もバッチリ。さらにデナリの登頂経験者から話を聞き、めちゃくちゃいい準備をして日本を発ちました。あとは天候だけ。食料は1カ月分用意し、帰りのフライトはずらせるように。登頂への条件が揃うまでとにかく粘る。かなり自信を持って行きました。
――しかし、アクシデントが発生してしまう。
はい。初日にスタートして2時間、標高2200m地点で倒れてしまいました。気温は氷点下なのですが、晴れていて歩くと暑い。熱中症でした。体に力が入らず、呼吸も苦しい。後ろから人が来たのが見え、「ヘルプミー」と叫び事なきを得ました。翌日には回復して再出発し、1週間かけてサミットプッシュ(山頂への最終アタック)する場所へ。その後の危険地帯を無事通過し、「もう登れた」と成功を確信しました。ところが、山頂まであと400mぐらいで急に体が痺れてきたのです。少し休んでも足が動かず、呼吸もできない。気温はマイナス20度。これ以上ここにいたら死ぬと思い、近くの洞窟へ逃げ込みました。偶然にも、同じタイミングで洞窟に来たアメリカ人がいて、一緒に下山してくれました。洞窟で人に会うことができ、助けてくれたことで戻って来られました。本当にラッキーでした。
――登山開始から半月、行程の97%ぐらいまで到達していたとのことですが、撤退に迷いはなかったのですか?
初日に助けられ、洞窟でも救われ、3回目はないなと。失敗がどうというか、ここで死にたくない。それだけでした。生きていれば何回でもチャレンジできると思いました。自分が諦めなければ絶対に登れるとも。1発で登頂できなかったのは初めてですが、ここは1回帰ろうと。失敗してきました(笑)
――今回の「失敗」をどう捉えていますか?
成功に向けてどこを改善したら登れるのか、という材料を得たと思っています。さらにもう1段階成長できる。挑戦し、途中で止めたら失敗で終わる。失敗は次に上がるための成長の機会。失敗って尊い、財産だな、悪いものじゃないなと捉えています。
――山登り以外での失敗は?
たくさんありますよ(笑)。そもそも山登りの始まりが、30歳の頃に失恋して筑波山へ行ったことでした。恋愛での失敗がなかったら、山に登っていなかったかもしれません。失敗は悪いことだけじゃない。そこからどう生きるかだと思います。
――7大陸最高峰制覇は再挑戦しますよね?
また来年5月にデナリに登頂しようと考えています。今回の失敗を、成長のチャンスとして頑張ります。