本当に遺言書を残すべきは「財産が少ない人」? 財産の金額と相続争い発生率の間にある意外な関係
「老後」について、不安なことを耳にする機会が多い昨今。老後とは本当に怖いものでしょうか? 保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆氏は、著書『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』のなかで、「老後ほど好きに人生を楽しめる時期はない」と言います。ただし、それには手元のお金をやりくりする力が必要です。具体的には、どのような点に気を付ければよいのか。やりくりのコツを見ていきましょう。
※本記事は保坂 隆著の書籍『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)から一部抜粋・編集しました。
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
財産が少ない人ほど遺言書を残すべき理由
日本財団が40歳以上の男女を対象に実施した「遺贈に関する意識調査」によると、遺言書をすでに準備していると答えた人の割合はわずか3.2%に留まっていたそうです。
私はこの3.2%に含まれていて、すでに遺言書を準備しています。この話を友人にすると、必ず返ってくる言葉が「お前は財産があるからだ。オレには財産と呼べるものなどないから、遺言書なんていらないよ」というものです。
しかし、私が遺言書を準備しているのは財産があるからではありません。それほど財産がないからこそ、逆にしっかりした遺言書が必要なのです。
なぜだかわかりますか。
財産があまりない場合ほど、残された家族が相続争いをする傾向があるからです。実際に家庭裁判所に持ち込まれた遺産相続の争いを見ると、その7割以上が遺産額5000万円以下で起きているそうです。
知人の弁護士さんによると、100万円以下の預貯金をめぐって相続争いが起き、家庭裁判所へ相談を持ち込んだケースもあるそうです。
また、「お父さんの貯金が50万円あった。これはオレのものだから」「いや、私にも権利がある」「自分には半分よこせ!」と、相続財産としてはわずかなお金の奪い合いが、よりにもよって、臨終に勃発した話を看護師から聞いたことがあります。
自分がいよいよ家族ともお別れというときに、こんな悲しい争いが起きたら、なんともやるせないと思いませんか。
面倒な争いが起きるのは、現役世代の収入が頭打ちで、退職金や年金収入もあてにできないのも一因と思われます。それどころか、あれこれお金が必要な中年期にリストラされるケースも増えたことから、どうしても親の財産をあてにしがちなのです。自分の相続分を少しでも多くしたいという欲が出てしまうのでしょう。
「自筆証書遺言」なら費用を抑えられる
ところで、ひと口に遺言書といっても「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類あります。
後者の二つは立会人と公証人への依頼が必要で、費用と手間がかかります。しかし、「自筆証書遺言」は自分で書くだけですので、費用をかけずに作成できます。
とはいうものの、自筆証書遺言には、自分で保管しなければならない、様式を間違うと無効になってしまう、死後に家庭裁判所の検認を受けなければならない、などの手間がありました。
ところが、近年になって遺言関係の法律が改正・追加され、これらの面倒を回避できるようになったのです。
まず「自筆証書遺言の方式緩和」が施行され、財産目録に限りパソコンでの出力や通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などの添付で許されるようになりました。
また、「遺言書保管法」の成立によって、自筆証書遺言は法務局で保管してもらえるようになりました。しかも、法務局に保管を依頼する際に遺言書保管官が遺言書の様式が法務省令に則っているかどうかを確認してくれるので、不備で遺言が無効になることは避けられるし、家庭裁判所の検証も受ける必要がなくなります。
最近は「遺言書キット」も販売されています。それを利用すれば、遺言書を残すのも、以前よりずっとラクになるでしょう。