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「日本の漫画“エンジェル伝説”にインスパイアされた」 韓国発ホラーコメディ『ハンサム・ガイズ』監督インタビュー

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「日本の漫画“エンジェル伝説”にインスパイアされた」 韓国発ホラーコメディ『ハンサム・ガイズ』監督インタビュー

ナム・ドンヒョプ監督が長編デビュー作 『ハンサム・ガイズ』を語る

かねてから大きな話題を呼んでいた韓国映画『ハンサム・ガイズ』が、ついに10月3日(金)より日本公開中。映画からドラマまでKコンテンツ好きならば知らぬ人はいないイ・ソンミンとイ・ヒジュンがW主演を務める本作は、じつはカナダ・アメリカ合作のホラーコメディ『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』(2011年)の韓国版リメイクだ。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

『タッカーとデイル』は、“粗野で乱暴な田舎者”ど真ん中な見た目の男性2人組が、大自然の中でキャンプを楽しもうとやって来たチャラい大学生グループを次々と惨殺していく! というベタベタなスラッシャーホラーかと思いきや、ミスコミュニケーションの連続によって取り返しのつかない大惨事に発展してしまう、いわゆる“すれ違い”の笑いと恐怖が満載だった。

PrimeVideo「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら(字幕版)」

そんな快作ホラコメをガラッと韓国風にリメイクしてみせたのは、これまで様々な作品で助監督としてキャリアを積んできたナム・ドンヒョプ監督。本作が長編デビュー作となる新鋭監督に、キャスティングやコメディとホラーのバランス、韓国ならではの改変ポイントなどについて聞いた。

👇️W主演イ・ソンミン&イ・ヒジュンのインタビューはこちら!👇️

「人それぞれ笑いや残虐さに対する感じ方は異なる」

――“田舎の殺人鬼”を題材にした映画は欧米と異なり、東アジア圏ではリアリティを生み出すのが難しい部分があると思います。それでも『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』をリメイクしようと考えた理由は?

10年以上前に『タッカーとデイル』を初めて観てファンになりました。「心優しい人たちが殺人者と誤解される」というコンセプトが非常に面白いと感じました。その後数年が経ち、自分の監督デビュー作を構想していたときに再び原作映画を思い出したんです。原作の基本ストーリーに、新たにオカルト要素を加えれば、さらにコメディ色が強く、娯楽性の高い映画になると確信し、そこからリメイク企画が始まりました。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

――『タッカーとデイル』は、思わずギョッとする“事故死”シーンも大きな魅力です。リメイク版の本作ではマイルドになっているかと思いきや、意外なほど踏襲されていて驚きました。それでいて、スプラッター描写が苦手な観客に「引かれない」ようにするための配慮も感じられます。そうした衝撃的なシーンに関して、とくに意識したポイントはありますか?

リメイクの過程で私が最も重要だと考えたのは、できるだけ多くの人が楽しめる映画にすることでした。とはいえ、原作の魅力的なシーンをすべて削除することはできませんでした。そこで、状況が十分に想像できるようにしつつ、直接的には見せない形で撮影し、恐ろしい場面もできるだけコメディ的に見えるよう演出したんです。それでも、人それぞれ笑いの感覚が異なるように、残虐さに対する感じ方も異なるため、適切なバランスを見つけるのは簡単ではありませんでした。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

「韓国の田舎で最もよく見かける動物が“黒ヤギ”なんです」

――なぜ「悪魔憑き」は韓国映画でポピュラーな題材なのでしょうか? 本作における「ヤギの死体」や「悪魔憑き」は、“なにか良くないことが起こる”原因としても機能しており、オリジナル版の突飛な展開よりも説得力が生まれていると感じました。

『エクソシスト』(1973年)や『オーメン』(1976年)のような映画で使われる「悪霊」や「悪魔」といった題材は、いかにも西洋的な題材ですが、こうした西洋的な題材が韓国のようなアジア文化と組み合わさったときに生まれる新鮮さが、韓国の観客の関心を引くのだと思います。韓国では起こりそうにないことが映画を通じて実現されることに大きな面白さを感じるわけです。アメリカ映画の専売物のように思われていた「ゾンビ」を題材にした映画が、韓国で『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)として作られ大ヒットしたのも、同じ理由だと考えています。

『タッカーとデイル』の主要な舞台である「森の中の山小屋」は、そのモチーフでもある『悪魔のいけにえ』(1974年)や『13日の金曜日』(1980年)のようなスラッシャーホラーの定番の場所であると同時に、『死霊のはらわた』(1981年)や『キャビン』(2011年)のようなオカルト映画の定番の舞台でもあります。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

この森の中の山小屋に、原作にはなかったオカルト設定を加えて、単に死んだだけだった人々が悪霊に取り憑かれて復活することになれば、さらに興味深いストーリーになると考えました。また、そうして原作にオカルト設定を加える中で、オカルトジャンルのクリシェである「ヤギ」を悪魔の媒介として登場させることになりました。その中でも黒ヤギを選んだのは、韓国の田舎で最もよく見かける動物が黒ヤギだったからです。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

「主役にはイ・ソンミンとイ・ヒジュンが自然に思い浮かびました」

――主演のイ・ソンミンさんとイ・ヒジュンさん演じる主人公たちだけでも強烈なのに、さらにパク・ジファンさんの存在感やコン・スンヨンさんのコメディエンヌぶりなどによって、濃厚な怪しさと笑いが生まれています。キャスティングはどのように決められましたか?

コメディジャンルほど、俳優の演技力が重要なジャンルはないと思っています。コメディ特有の、突飛で非現実的な状況を観客に納得させるためには、ストーリーの説得力も大事ですが、その状況を本当のことのように信じさせる俳優の演技力も非常に重要だからです。

日本の北野武、アメリカのジム・キャリー、香港のチャウ・シンチーなどはコメディ俳優としてのイメージが強いですが、実際にはどのジャンルでもこなせる卓越した演技力を持つ名優たちです。そのため、韓国で最高の演技力を持つ俳優として知られるイ・ソンミンとイ・ヒジュンが自然に思い浮かび、幸いにも二人ともこれまで経験したことのないスタイルの映画に魅力を感じてキャスティングを快諾してくれました。やはり私の予想通り、二人は『ハンサム・ガイズ』にリアリティをもたらす最高の演技を見せてくれたと思います。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

本作にはホラー要素もあるため、ヒロインのミナ役はホラー映画の慣習に従い、映画序盤では目立たない新しい顔を起用したいと考えました。コン・スンヨンは現在では俳優として十分に地位を確立していますが、本作のキャスティング時点ではほぼ新人に近い存在だったんです。純粋で朗らかな姿から始まり、最終的にしっかり成長したヒロインをうまく表現できる俳優を求めていたところ、オーディションで出会ったコン・スンヨンは、まさにその条件にぴったりでした。撮影現場でも、名優イ・ソンミンとイ・ヒジュンの間にあってもひるまず、自分の演技を見せるコン・スンヨンの姿はまさに「ミナ」そのものでした。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

パク・ジファンが演じたチェ所長は『タッカーとデイル』の保安官キャラクターを脚色したもので、イ・ギュヒョンが演じたナム巡査のキャラクターは、実際に韓国の警察が二人一組で活動することを踏まえて新たに作られました。チェ所長が偏見や先入観に満ちたキャラクターであるのに対し、ナム巡査はそういったものがほとんどない純粋なキャラクターです。性格が対照的なキャラクターであることから、二人のイメージも対照的であってほしいと考え、演技力も踏まえてパク・ジファンとイ・ギュヒョンをキャスティングしました。実際、韓国での二人の知名度を考えると小さな役かもしれませんが、台本を読んで快く参加してくれた二人には、本当に感謝しています。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

「どのシーンを撮るときも笑いを忘れないよう努めました」

――本作はいわゆるスプラッターコメディですが、お互いの立場や先入観、差別意識などによって相手の印象がガラリと変わる、ということを示唆しているとも感じました。それにも関わらず、10秒に一度は笑わせてくれます。企画から脚本・撮影・編集の段階で、特に大変だったポイントを教えて下さい。

『ハンサム・ガイズ』は、コメディ、オカルト、ホラー、スラッシャー、スリラーなど、さまざまなジャンルが混ざった映画であり、先入観や偏見に対するメッセージも含まれています。しかし、私が最も重要だと考えたのは、この映画は「コメディ映画である」ということでした。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

どのシーンを撮るときも笑いを忘れないよう努めましたが、それでもオカルトホラーのシーンでコメディを実現するのは非常に難しい作業でした。笑いを重視しすぎてホラーのトーンを軽くしすぎると映画が幼稚に見えてしまいますし、逆に怖い雰囲気を出すためにホラーのトーンを重くしすぎると、コメディがぎこちなくなってしまうからです。

そのため、私たちの映画ならではのトーンを見つけるために、撮影、照明、美術、衣装、メイクといった各部門の責任者とさまざまなテストを行い、俳優たちとも演技の方法について多くの議論を重ねました。こうした皆の努力の末に、『ハンサム・ガイズ』ならではのスタイルが完成しました。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

「北野武など、子どもの頃から好きだった監督たちに触発されたシーンが多くあります」

――『タッカーとデイル』は「田舎は怖い」というフォークホラーを逆手に取ったコメディですが、他にも”田舎の殺人鬼映画”からインスパイアされたシーンや設定はありますか?

本作のジェピルとサングを表現する上で、大きなインスピレーションを受けた作品の一つが、日本の漫画「エンジェル伝説」(八木教広/集英社)です。特に、ジェピルがチェーンソーを手にボラ(演:パク・ジョンファ)に向かって叫びながら走るシーンは、「エンジェル伝説」で悪魔のような姿をしているものの善良な主人公・北野(誠一郎)が叫びながら走る様子を参考にして作ったシーンです。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

――とくにアクションシーンなどに、マンガやアニメ的な演出を感じました。

先に挙げた「エンジェル伝説」のような漫画や、さまざまなアニメからも多くの影響を受けましたが、それ以上に、私が子どもの頃に好きだったハリウッド映画や日本、香港の映画からの影響が大きいと考えています。特に、パク・ジファンが演じたチェ所長がジェピルとサングを逮捕する過程で見せるスラップスティック・コメディのシーンは、子どもの頃に好きだった『裸の銃(ガン)を持つ男』(1988年)のオープニングシーンへのオマージュでもあります。

それ以外にも、ティム・バートン、クエンティン・タランティーノ、チャウ・シンチー、北野武など、子どもの頃から好きだった監督たちの作品に触発されて作ったシーンが多くあります。

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――日本の観客には分かりづらいポイントなのですが、ジェピルとサングの喋り方には地方特有の訛りがあるのでしょうか?

はい。ジェピルとサングは、韓国・慶尚北道の小さな都市にある半地下の部屋で暮らしたのち、ソウル近郊の田舎の一軒家に引っ越してきたという設定で、劇中では二人だけが慶尚道の方言を使っています。

ただし、最初から方言を使うキャラクターとして設定されていたわけではありません。まず、キャスティングされたイ・ソンミンとイ・ヒジュンの出身地が慶尚北道で、自然に方言を使えることが大きな理由でした。また、ジェピルとサングが方言を使うことで“他の地域から来た異邦人”という印象が強まり、周囲から誤解される状況がより際立つと考えたんです。

『ハンサム・ガイズ』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & HIVE MEDIA CORP All Rights Reserved.

『ハンサム・ガイズ』は10月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中

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