京王電鉄が「カスハラ」の基本方針を制定 鉄道業界では対策進むも、全体では7割の企業が未対応
京王電鉄(東京都多摩市)は9月26日、カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する基本方針を制定した。鉄道業界ではJR各社や京急、東京メトロなどがすでに対応ポリシーの策定などを実施しており、京王電鉄でもカスハラ対策に向けたグループの体制構築を進める。
暴行や中傷、土下座の強要、性的な言動などをカスハラの対象に
京王電鉄ではカスハラの定義として、客からの要求や言動のうち「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、従業員の就業環境が害されるもの」と定めた。
その上で、カスハラの対象となる行為として次のような例を挙げている。
・身体的、精神的な攻撃(暴行、傷害、脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)や威圧的な言動
・要求の過度な繰り返し、執拗(しつよう)な言動
・拘束的な行動(居座り、監禁)
・過度な謝罪要求(土下座の強要など)
・差別的な言動、性的な言動
・従業員個人への攻撃や要求
・従業員を無断で撮影、録画、録音する行為
・従業員の個人情報などをSNSやインターネットへ投稿(写真、映像、音声の公開)
・会社または従業員の信用を棄損させる行為
・不合理または過剰なサービスの提供の要求
・正当な理由のない商品交換や金銭の要求 など
人権を侵害する言動・不当な要求・セクハラなどから従業員を守る
同社によると、一部の客から従業員の人権を侵害するような言動、不当な要求、セクシャルハラスメントなどを受け、従業員の尊厳が傷つけられる事案や、ほかの客へのサービス提供に支障が生じるケースが多く発生しているという。そこで従業員を守って心身ともに健康で安心して働ける職場環境を確保し、質の高い商品・サービスの提供を維持する目的から「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を定めたようだ。
京王グループでは今回の基本方針の制定を踏まえ、次の取り組みを進める。
・カスタマーハラスメントへの対応方法や手順の策定
・従業員への教育・研修の実施
・カスタマーハラスメントに関する報告・相談体制の整備
JR各社や東京メトロ、京急などが基本方針や対応ポリシーを策定
鉄道業界では、JR東日本(東京都渋谷区)やJR西日本(大阪府大阪市)などJR各社がそれぞれカスハラへの方針を制定して公表しており、JR九州(福岡県福岡市)も9月20日に基本方針の策定を発表している。ほかにも東京地下鉄(東京都台東区)が2024年3月に東京メトログループの対応ポリシーを発表、京浜急行電鉄(神奈川県横浜市)も同年8月に京急グループの対応ポリシーを策定している。
これに先行して2023年12月には、全国の鉄道会社が加盟する一般社団法人日本民営鉄道協会が、「民営鉄道業界におけるカスタマーハラスメントに対する基本方針」を公表しており、業界全体でカスハラに取り組んでいくための方針を策定している。
一方、航空業界では全日本空輸(ANA、東京都港区)と日本航空(JAL、東京都品川区)が2024年6月に、共同でカスハラへの対応方針を策定して発表している。
カスハラ対策「特に講じていない」企業は71.5%に
鉄道業界ではカスハラへの対策が進んでいるものの、ほかの業種も含めると対策を講じている企業はまだ少ない。
東京商工リサーチ(東京都千代田区)が8月27日に公表したカスハラに関するアンケート調査によると、企業のカスハラ対策としては、「特に対策は講じていない」が71.5%(5651社中4041社)となり、7割超の企業が対策を講じていなかった。同社では「現場の社員に対応を任せ、会社として組織的な対策は広がっていない」と指摘している。
同調査では、直近1年間でカスハラを受けたことが「ある」と回答した企業は19.1%(5748社中1103社)となり、約2割に上っている。業種別では、「宿泊業」が72.0%(25社中18社)で最多となっており、宿泊客とのトラブルなどが原因となっているようだ。次いで「飲食店」の64.8%(37社中24社)、タクシーやバスなど「道路旅客運送業」の55.5%(18社中10社)と続く。個人の客と接する機会が多いサービス業や小売業が上位を占めている。
京王電鉄の発表の詳細は同社ホームページで確認できる。