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井上尚弥vsドヘニーをデータ解析、今後はディフェンシブに戦う挑戦者が増える?

SPAIA

井上尚弥とドヘニーのインフォグラフィック,ⒸSPAIA

井上尚弥が“本気”を出す前にあっけない幕切れ

プロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(31=大橋)が3日、東京・有明アリーナで元IBF同級王者テレンス・ジョン・ドヘニー(37=アイルランド)に7回16秒TKO勝ちし、WBCとWBOは3度目、WBAとIBFは2度目の防衛に成功した。

すでに試合を観た方も多いはずなので詳細は省くが、ダウンシーンのないまま、あっけない幕切れとなった一戦。井上が“本気”を出す前に試合が終わってしまったため、ドヘニーが強かったのかどうかもよく分からないファンも多いのではないか。

SPAIAが独自に集計したデータから分析してみたい。ドヘニーはリズムを取るように盛んに手を動かしていたが、力を入れてナックルパートを相手に向けたパンチのみカウント。見極めが難しい有効打は、明らかに的確に捉えたクリーンヒットのみをカウントした。

ネリ戦の反省とドヘニーのパワーを警戒

立ち上がりは予想以上に静かだった。試合前の会見で「1ラウンド目の入り方を考え直して、父としっかり話ができている」と話していたが、やはりルイス・ネリとの東京ドーム決戦で初回にダウンを喫した反省と、ドヘニーのパワーを最大限に警戒して手数が少なかった。

それはドヘニーが攻めてこないことにも起因していただろう。挑戦者とは思えないほどドヘニーは“及び腰”。26勝(20KO)の戦績が嘘のように距離を取り、後ろ足(左足)に重心が乗っていた。両者ともクリーンヒットがほとんどないまま1回終了のゴングが鳴った。

2回も同じように井上がじわじわとプレッシャーをかけ、ドヘニーが下がる展開。井上が速いステップインで右ストレートをボディに伸ばすと、ドヘニーの上半身がロープ外にはみ出すシーンもあった。リング上に逃げる場所がなければリング外にまで逃げんばかりの徹底したアウトボクシングだ。

3回、井上はまだ仕掛けない。正面に立ってガードを固めながら手を出さず、ドヘニーのパンチ力を見極めるために敢えて打たせているように見えた。井上は21発中、有効打は3発のみ。ドヘニーは37発中8発の有効打があり、ジャッジ2人はドヘニーの10-9とつけている。

4回にはドヘニーがやや勢い付く。井上が手綱を抑え気味なのをいいことに、いきなりの左ロングフックをヒット。いつもの井上ならすぐに反撃に転じそうなものだが、警戒態勢は緩めない。試合後の会見では「多少感じましたけど、ビックリするほどではなかった」とドヘニーに一定のパワーを感じたことを認めている。

なにせ、ドヘニーの当日の体重はスーパーバンタム級リミットより約11キロ重い66.1キロだ。体は見るからに井上より大きい。この回の有効打はともに7発だったが、ジャッジ2人はドヘニーの10-9とつけた。

5回、井上は自らコーナーに詰まる。ドヘニーを誘い出し、カウンターを狙いたかったのだろう。それでも最大級の警戒を崩さないドヘニーは攻め込まない。

開始9秒に左ジャブを放った井上が、この回2発目の左ジャブを放ったのは1分25秒。1分以上も手を出さずに我慢を決め込んだが、ドヘニーの距離を取る作戦に業を煮やし、中盤以降は攻め込んだ。この回はジャッジ3人とも10-9で井上が取っている。

6回に攻勢…さあ、これからという7回に突然の“閉幕”

“眠れる獅子”を演じていた井上が目を覚ましたのは6回。これまでの試合でも何度も見せてきた力強いフックをガードの上からでも構わずに打ち込んだ。

ドヘニーも踏み込みながら左ボディーフックを打つと見せかけて、井上のガードが下がったところに右フックを顔面にヒットするなどテクニックを見せたが、井上のパンチを浴びて徐々に消耗していく。

この回終盤には“ウェルター級”の挑戦者をロープに詰めたモンスターが牙をむいた。パワフルな左右フックを顔面、ボディーに何発もヒット。攻め込んだ時の井上の強さは、もはやスーパーバンタムのそれではない。ゴングが鳴ると、ドヘニーは右腰が痛そうな素振りを見せて青コーナーに下がった。有効打はドヘニーの9発に対し、井上が30発と圧倒した。

そして7回開始早々、井上が攻め込んだところでドヘニーが足を引きずりながらギブアップ。見せ場はこれからというところで世界が注目したショーは突然、幕を閉じた。

プラン通りだった長丁場の戦い

SNSでは「ギックリ腰」がトレンド入りするほど不可解な幕切れだったが、ドヘニー陣営は「腰の神経がやられた」と説明。6回終了間際に受けた猛ラッシュで痛めたようだった。

井上は試合後、「セコンドの指示通り、丁寧に戦うことをイメージしてやった。内容的には悪くなかった」と試合展開については納得の様子だった。試合前に「KO、判定、どちらも準備しています」と宣言していたが、長丁場の戦いをプラン通りに遂行していたわけだ。

ただ、後半にかけてアクセルを踏み込もうとした途中で終わったため、消化不良になった格好。ドヘニーも両肩を抱えられながらリングを降りた様子を見ると、あれ以上の続行は不可能だったろう。今回の結果を誰も責めることはできない。

井上陣営が見込んだ通り、ドヘニーは決して弱い挑戦者ではなかった。前半は井上が反撃しなかったこともあり、パワーだけでなくテクニックや試合巧者ぶりも発揮した。

ただ、6回に打ち込まれてダメージが蓄積していたことを考えると、もし7回以降も続いていたら12回終了のゴングを聞くことなく試合は終わっていたのではないか。それでも井上と戦ってダウンしなかった事実だけが残り、ドヘニーにとってはマイナスよりプラスの方が大きいかもしれない。

井上尚弥に判定負けなら評価上がる?

井上が2022年12月に11回KO勝ちしたポール・バトラー(イギリス)や昨年12月に10回KO勝ちしたマーロン・タパレス(フィリピン)ら、最近は過剰なほどディフェンシブに戦う相手が多い。

これもモンスターの強さが世界に知れ渡っているからだが、今回の試合がモデルケースとなり、今後さらにディフェンスに重きを置いて「勝利」より「負けないこと」「倒されないこと」を目指すボクサーが増える可能性もある。28戦全勝(25KO)の井上とフルラウンド戦って判定まで持ち込めば、たとえ負けたとしても評価を上げることにつながるからだ。

井上自身が認めるように、逃げる相手をノックアウトすることは簡単ではない。それでも世界最強の男には「勝ち方」が求められる。

世界戦23連勝は世界歴代5位の記録。26連勝で歴代1位のジョー・ルイスやメイウェザーら歴史的ボクサーに並ぶ日もそう遠くない。行く道が険しければ険しいほどモンスターは楽しむだろう。ここから先は全て歴史上の1ページとなる。

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記事:SPAIA編集部

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