授業中、教室のドアを蹴ったのは「自分を守るため」!?発達障害息子の主張に先生は…
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
授業中トイレから戻ると、教室に鍵がかかってはいれない……
ある日、授業中にトイレに行きたくなったリュウ太は、先生に許可をもらい教室を出ました。トイレを済ませて教室に戻ると、ドアが開きません。いつの間にか鍵がかかっていたのです。
先生が廊下に締め出すはずがないと思ったリュウ太は「誰かが中から鍵をかけたな!」と考え、頭にきて思いっきりドアを蹴りました。
ドアを蹴った音で先生が気づき、鍵を開けてくれました。しかし、リュウ太は蹴ったことを注意されてしまいました。
それでも、リュウ太には本人なりの理由があり、みんなの前で説明しました。
「誰かがいたずらで、先生に気づかれないように鍵をかけたんだと思う。もしそんなことをされなければ、僕はドアを蹴らなかった!僕にこんなことをさせたのは、鍵をかけた人だから、僕は悪くない!」
「自分を守るため」リュウ太の考え
私は「ドアは蹴らずにノックで済ませればいいのに……」と思いましたが、リュウ太はこう言いました。
「いつもからかってくる子がいて、先生以外の人は誰が悪いか分かったと思う。このみんなの前ではっきり言えば2度とこんなイタズラをしなくなると思ったからそうした!」
リュウ太は、自分へのいたずらが繰り返されないように防ぎたかったようです。
とはいえ、ドアを蹴るというやりすぎとも言えるリュウ太の行動に先生も頭を抱えたことでしょう。それでも、リュウ太の説明を聞き、先生は彼なりの理由を理解してくれました。
この頃、リュウ太はクラスの男子によくからかわれていて、それがストレスになっていました。
リュウ太は「少しでもイヤなことが起きるのを防ぐには、“オレは弱くない!かかってこい!”という姿勢でいないとダメだった」と話してくれました。
不条理と戦うためのトラブルならば……
学童期、リュウ太はあちこちでトラブルを起こし、私はその尻拭いに謝ってばかりでした。
「問題を起こさずに学校生活を送ってほしい」と願っていましたが、このときばかりは、不条理と戦うためのトラブルならば目をつぶろうと思いました。
「自分を守るためなら、そういう方法でも仕方ないかな」そう思い、私はリュウ太を叱るのではなく、彼の考えを尊重することにしました。
最初にドアを蹴ったのはよくない行動でしたが、怒りにまかせて乱暴なふるまいを続けるのではなく、そのあと冷静に自分の意見をみんなの前でしっかり伝えられたことに、成長を感じました。
これ以降、リュウ太が教室のドアを蹴ることはありませんでした。
はい、二度とやらないでほしいと思ってハラハラ過ごしていた母でした。
執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:初川先生より)
リュウ太くんのドアを蹴ったこと、その理由についてのエピソードをありがとうございます。リュウ太くんがそれまでクラスのからかってくる子たちにとてもイライラさせられていて困っていたこと、そしてそれをいつか先生にもみんなにも伝えねばと思っていたことがよく分かる一件でした。
たしかにドアを蹴ることはよくはないですし、ノックでも済むかもしれません。ただ、リュウ太くんにとって、「今、先生に、みんなに伝えなければ」と思ったことで、そしてある意味苦肉の策だったのでしょう。自分が弱くないということを伝えるというよりも、嫌なことをされて困っているんだ、そんなことはもうされたくないと強く訴えることは大事なことです。ただ、それを当該の子たちと対峙した場面でのみ伝えてもなかなか取り合ってくれないことも(残念ながら)あるかもしれず、学校の中では先生という大人のいる場面でそれを伝えられたのはよかったと思いますし、先生も頭ごなしに怒るのではなく、理由を聞いて、みんなに説明する機会も設けてくださり、よかったですね。
学童期にさまざまトラブルを起こしたり、手や足が出たりするお子さんだと、周りの人たちも「またか……」や「粗暴な子だな……」とか、そのお子さんが悪いという前提で物事を見てしまうことが多いと思います。そして保護者の方も、とにかくもめごとを起こさずに過ごしてくれという願いを持つことでしょう。ただ、今回もそうですが、そのお子さんにはそのお子さんなりの強い思いがある場合があります。それが誤解や早合点によるものな場合もあり、話し合いながら修正する必要があることもありますが、「そう捉えたなら、そう思ってしまうよね」とお子さんの気持ち自体には理解ができる場面もあるでしょう。そのうえで、「しかし、○○したのはよくなかったかもね」と行動の話をしていただきたいなと感じます(いきなり問答無用で、「○○するのはダメでしょ!なんでそんなことしたの!」から入ると、本人の気持ちまで行きつくことなく、本人らもつらい胸の内を話そうとも思わなくなってしまうことが気がかりです)。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。