アサーションとは? 効果やトレーニング方法を分かりやすく解説
相手のことを尊重しつつ自分の意見をきちんと伝えるコミュニケーション手法である「アサーション」。心理学的行動療法として誕生し、主に教育や医療などの現場で浸透してきましたが、近年ではビジネスにおいてもアサーションの活用が注目されています。
以下の記事では、アサーションとは具体的にどのようなコミュニケーションなのか、ビジネスにもたらす効果やアサーションスキルを高める6つの方法などについて解説します。
アサーションとは
アサーションとは、アメリカの心理学者ジョセフ・ウォルピによって開発された行動療法で、主張・断言を意味する英語のアサーション(assertion)が語源の言葉です。もとは主張・断言という意味を持つアサーションですが、ただ自分の意見を口に出すのではなく、相手を尊重しながら自己主張するのが基本の考え方です。
アサーションは 相手の意見を否定したり強い口調で押し込めたりせず、お互いの価値観を認め合い、自分の意見を的確に伝える ために用いられます。日本では、主に教育や医療などの現場で幅広く活用されてきました。
企業においてアサーションが注目されている理由
アサーションが企業から注目される背景として主に3つ挙げられます。
1つ目は、企業のハラスメント防止への意識が高まっていることが挙げられます。2020年に職場におけるパワーハラスメント対策が事業主へ義務化され、多くの企業で職場改善への取り組みが行われるようになりました。
職場でのハラスメントを防ぐには、年齢や性別、立場が異なる相手に対して理解を示し、相手を尊重したコミュニケーションが大切です。
2つ目は、テレワークの普及によってコミュニケーション機会が減っていることが挙げられます。非対面のやり取りでは相手の気持ちや意図を的確に把握するのは非常に難しいため、相手へ配慮しながら自分の意思をきちんと伝えるコミュニケーションが求められています。
3つ目は、企業による従業員へのメンタルヘルスケアの重要性が挙げられます。現在職場のストレスからこころの病にかかる人が多くなっており、その結果休職や離職の増加にもつながっています。職場のストレスの原因のひとつである「対人関係」を良好にするためには、コミュニケーション能力を向上させることが必要です。
アサーションがビジネスにもたらす3つの効果
アサーションは、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、アサーションがビジネスにもたらす3つの効果について解説します。
立場が異なる人とも対等に議論できる
アサーションでは相手の意見や感情を尊重しながら、自己主張をすることが大切です。アサーションをうまく活用すれば、 年齢や立場にとらわれない対等な議論が可能となり、ビジネスにおいて効果的な意思決定 ができます。また、お互いにきちんと意見を言い合えれば、職場での不平不満が蓄積してしまうことも防げるでしょう。
自分の意見を受け入れてもらいやすくなる
ビジネスでは自分の意見を伝える際に、たとえ必要な内容だとしても伝え方を誤ると相手に意見を受け入れてもらえない場合があります。しかし、アサーションを意識して 適切な言葉選びや伝える内容の取捨選択ができれば、スムーズに自分の意見を受け入れてもらえる でしょう。結果的にビジネスでの自分のパフォーマンスの向上にもつながります。
断る場面でも相手に不快感を与えず、関係性を良好に保てる
アサーションは、相手からの依頼や申し出を断らなければといけない場面でも有用です。相手を気遣いすぎて歯切れの悪い返答をしてしまったり、自分の意見やスタンスをきちんと表明せず曖昧な返答をしてしまったりすると、かえって相手へ不快感や不信感を与えてしまいます。アサーションを実践すれば、 依頼や申し出を断ったあとも相手との関係性を良好に保てる でしょう。
アサーションにおける3つのコミュニケーションスタイル
アサーションは、プライベートからビジネスシーンにまで役立つコミュニケーションスキルです。アサーションを習得する前にまず知ってほしい、代表的なコミュニケーションスタイルについて解説します。
アサーションにおけるコミュニケーションスタイルは、大きく分けると以下の3つです。
アグレッシブ(攻撃タイプ) ノン・アサーティブ(非主張タイプ) アサーティブ(バランスタイプ)
これから紹介するそれぞれの特徴を比較して、自分に近いタイプを見つけてみましょう。
【タイプ1】アグレッシブ(攻撃タイプ)
アグレッシブは、他者に対して攻撃的な表現をしてしまいしがちなコミュケーションスタイルで、自分の意見は肯定し他者の意見は否定する傾向にあります。アニメ『ドラえもん』のキャラクターに例えると「ジャイアン」です。
このタイプは率直な自己主張はできますが、自分の意見や価値観を相手に押し付けたり他者よりも優位に立とうとしたりする場合があり、周囲と円満な関係を築けないことがあります。また、自分の意見を肯定したい気持ちの強さから反対意見に過剰に反応してしまう点もアグレッシブの特徴のひとつです。
【タイプ2】ノン・アサーティブ(非主張タイプ)
ノン・アサーティブは、自己主張は控えめで他者の意見を優先するコミュケーションスタイルで、自分のことを後回しにしがちなタイプです。アニメ『ドラえもん』のキャラクターに例えると「のび太くん」です。
他者から「穏やか」「協調性がある」と見られ大きな衝突を生みにくい一方で、自己主張が苦手なゆえに仕事上では評価をされにくかったり、否定をされることへの恐怖から曖昧な表現や言い訳が多かったりする傾向にあります。自分で相手を優先したにもかかわらず思うような見返りを得られないと不満に思うこともあり、人間関係のストレスを抱えやすいという特徴も持っています。
【タイプ3】アサーティブ(バランスタイプ)
アサーティブは、他者のことを尊重しつつ自分の意見もきちんと伝えようとするコミュニケーションスタイルで、相手や場面に応じて適切な対応が取れるといった傾向があります。アニメ『ドラえもん』のキャラクターに例えると「しずかちゃん」です。
もし意見が食い違ったとしても自分の価値観を押し付けたりすぐに譲ったりせず、お互いが納得のいく結論を出そうと相手に働きかけることができます。
このような自分も他者も否定しないコミュニケーションスタイルは、アグレッシブとは異なり人間関係をうまく構築できやすく、ノン・アサーティブのような後悔をしにくいのが特徴です。
アサーションを習得する・鍛える方法
現状でアサーションスキルに自信のない人も、訓練すれば身に付けることができます。
ここでは代表的な6つの方法を紹介するのでぜひ参考にして、アサーションスキルの習得や向上に努めてみてください。
自分のコミュニケーションスタイルを知る
自分のコミュニケーションスタイルをより詳しく把握するには、以下の「アサーションチェック」を行なってみてください。「自分から働きかける言動」および「人に対応する言動」の合計20項目に答えたら、チェックしたリストの数を集計してみましょう。
集計の判定結果
「はい」の数が10個以上であれば「アサーションが普通以上にできている」 「はい」の数が10個以下であれば「アサーションがうまくできていない」
この結果を参考にして、自分の普段のコミュニケーションスタイルを判断してみてください。
アイメッセージを活用する
「私は〜だと思う」「私は〜してほしい」などといった 「私」を主語とした主張方法を意識する こともアサーションの習得に役立ちます。アイメッセージを意識すると、「意見を押し付けられた」「自分は責められている」といった印象を感じさせないため、自分の気持ちがきちんと伝わりやすいのです。相手に不快感を与えずに自分の意見もしっかりと表明できるので、相手と良好な関係性を維持できるでしょう。
非言語的コミュニケーションも取り入れる
人はコミュニケーションをとるときに、話している内容だけではなく表情や態度、声のトーン、身振り手振りなどからも相手の感情や意図を判断しています。そのため、アサーションを習得するには ボディランゲージや表情といった非言語コミュニケーションのスキルを磨くのも大切 です。自分の意図や意見を正確にくみ取ってもらうためには、相手に敬意を払った表情や態度で話すようにしましょう。
自己開示をする
自分の強みや弱み、過去の成功体験・失敗体験、価値観など自分のありのままを他者にさらけ出す「自己開示」もアサーションスキルの向上に役立ちます。自己開示は 相手に自分のことをよく理解してもらえるだけでなく、相手が自分に対して心を開きやすくなるといった効果もあり相互理解が進みやすくなる ため、お互いのことを尊重したコミュニケーションが取りやすくなります。
アサーション権について理解する
アサーション権とは「自他の権利を侵さない限り、自己表現をしても良い」という権利です。この権利の存在を知ると、自分への信頼や他者への思いやりなどが育まれます。自分や他者へ敬意を払うことこそ、アサーションの基本なので忘れないようにしましょう。
DESC法(デスク法)も活用する
アサーションを鍛えるためには「DESC法(デスク法)」といったフレームワークの活用も効果的です。
DESC法では「描写する(Describe)」「表現する・説明する・共感する(Express/Explain/Empathize)」「特定の提案をする(Specify)」「選択肢を示す(Choose)」の4つの段階を踏みながら自分の意見を体系的に伝えます。
以下でビジネスでのDESC法の具体的な活用例を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
DESC法の活用例
<想定シーン>
チームメンバーがプロジェクトの進捗を報告しない場合
<DESC法を用いたアサーション>
・描写する(Describe)
「最近、プロジェクトの進捗状況についての報告が遅れることが多いと感じています」
・表現する・説明する・共感する(Express/Explain/Empathize)
「この状況が続くと全体のスケジュール管理が難しくなり、プロジェクトの進行に支障が出てしまうのではないかと心配です」
・特定の提案をする(Specify)
「週に一度、進捗状況を共有する時間を設けて、全員で確認し合いたいと思っています」
・選択肢を示す(Choose)
「次のいずれかの方法を選んで、報告を効率的に行えるようにするのはいかがでしょうか。」
⒈定期的なミーティングの設定:毎週決まった時間に進捗報告ミーティングを開催 ⒉オンラインツールの活用:チャットツールで週次の進捗報告を共有 ⒊進捗報告テンプレートの導入:進捗報告テンプレートを作成し、共有フォルダで管理 ⒋個別報告の実施:チームリーダーに個別に進捗を報告し、全体の状況をリーダーからフィードバック」
このようにDESC法を活用して自分の主張を伝えれば、相手と衝突せず折衷案を探りながら問題解決へと向かうことができます。
まとめ
今回は、アサーションの特徴や効果、アサーションスキルを習得・向上させる方法などについて解説しました。相手の立場や意見を尊重しながら自分の意見をきちんと伝えられるアサーションは、ビジネスパーソンとして身に付けておきたいスキルのひとつです。ぜひこの記事を参考にして、仕事の成果のアップや周囲との信頼関係の構築などに活かしてみてください。
関連記事: タスク管理術「GTD」とは?活用のコツから注意点まで分かりやすく解説! OODA(ウーダ)とは?PDCAとの違いや活用術を分かりやすく解説! 「デキるビジネスパーソンへの道」の記事一覧