「循環する家(House to House)」プロジェクトで、”家がまた誰かの家に生まれ変わる”。 廃棄物リサイクルの最前線、積水ハウスの資源循環センターを訪ねた
3万点以上に及ぶ部材を対象に。積水ハウスが「循環する家」に着手
現在、世界のあらゆる業界で課題となっている環境問題。そのひとつが、化石燃料や鉱物、水や木材など天然資源が近い将来に枯渇するという懸念だ。天然資源は生成されるまでに長い年月を要したり、再生・回復の取り組みを行わないと尽きてしまうものも多い。
限りある天然資源を人間が消費し尽くしてしまえば、私たちの日常生活や経済活動は大幅に滞ってしまう。そのようなリスクに対してEUが2015年12月に提唱したのが、「サーキュラーエコノミー」という概念だ。
廃棄物を減らし、資源をムダなく繰り返し使う取り組みである「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」。その考え方をさらに進め、持続可能な形で資源を最大限活用するのが、「サーキュラーエコノミー」だ。大量生産から大量消費、大量廃棄への一方通行だった従来の「線形経済」に対して次のような点を掲げている。
・生産段階から再利用などを視野に入れて設計し、新しい資源の使用や消費をできるだけ抑える
・あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、サービスや製品に最大限の付加価値をつけていく
・持続可能な社会をつくるとともに、経済的にも成長していくことを目指す
こうしたサーキュラーエコノミーの実現に向けて、日本の住宅業界でいち早く声を上げたのが、積水ハウスだ。2024年12月3日、「家がまた誰かの家に生まれ変わる『循環する家』Circular Design from House to House」(以下、「House to House」)と2050年までの達成目標を宣言した。
同社における家づくりでは3万点以上もの部材を用いる。この点数は、同社工場出荷部材明細における品名単位(副資材を含む)で数量を合計したもので、軽量鉄骨戸建て住宅2階建て(延床面積162m2)の場合だ。
その仕様・内容を見直し、リサイクル部材だけで家づくりを構成することと、その部材について持続可能な資源利用を目指すというのが、その主な内容だ。「つくり方から、つくりなおそう。」をスローガンに掲げ、すでに具体的な活動を進めている。
一貫したリサイクルシステムを自社で確立。廃棄物発生量も半減
実は、積水ハウスの資源循環への取り組みは今に始まったことではない。 1999年に「環境未来計画」を発表して以降、事業を通じて地球環境への負荷低減を進めてきた。
2005年には、積水ハウスの施工現場で発生する廃棄物を広域認定制度に基づき、自社施設「資源循環センター」に回収して分別したのち、100%リサイクルする独自の資源循環システム「積水ハウスゼロエミッションシステム」を実現化。新築施工現場のゼロエミッション(産業廃棄物の単純焼却と埋め立て処分ゼロ)を達成した。
現在に至るまでに、工場、新築施工現場、リフォーム、アフターメンテナンスの各分野においてもゼロエミッションを達成。こうした取り組みが環境省から高い評価を受け、2008年、業界初の「エコ・ファースト企業」に認定された。
この資源循環システムのキーとなる拠点が、資源循環センターだ。2003年に「関東資源循環センター」が設立されたのを皮切りに、全国21ヶ所に同様の自社施設を設置。積水ハウスの全国の施工現場から発生するすべての廃棄物がここに回収され、分別、リサイクルされていく仕組みだ。
そのプロセスはこうだ。
1. 全国で1日約1000件もの施工現場から、現地で27種類に分別した廃棄物を回収。
2. 約320社の協力企業によって収集運搬。
3. 全国約60ヶ所の資源循環センターに搬入。部材・素材・リサイクル先に応じて最大80種類程度にまで再分別。
4. 約400社と取り引きしているリサイクル先へ搬入。
このプロセスを積水ハウスが積極的に処理・管理しているのも重要なポイントだ。自社で一貫した廃棄物処理を行い、トレーサビリティ(追跡可能性)の高いシステムが構築されたことで、リサイクルに関するノウハウも蓄積。回収した廃棄物を分析して新築時の仕様を検討したり、施工や回収の手順などを改善したりといったことも可能になった。
こうした企業努力により、工場生産・新築施工現場・リフォーム・アフターメンテナンスにおける廃棄物の100%リサイクルのみならず、住宅1棟あたり、1999年には3トンあまり発生していた廃棄物を、2021年には約1.6トンにまで削減。
施工現場では、27種類もの分別を徹底
全国に21ヶ所ある積水ハウスの資源循環センターのうち、工場を併設したものは5ヶ所。そのうち、もっとも規模が大きく多機能な施設が、関東工場(茨城県古河市)の資源循環センターだ。今回は、実際に関東工場の資源循環センターを訪ね、積水ハウスのリサイクルの現場を見てきた。
2003年に設立された資源循環センター。当時は、焼却炉による環境汚染問題や産業廃棄物の大規模不法投棄などが社会問題となっており、分別とリサイクルによって廃棄物の埋め立てや焼却を減らすことが、各産業に求められていた。
しかし、住宅の場合、数多くの建材・部材を使用しており、その素材も多岐にわたる。廃棄物に対する法規制も厳しく、細かく分別して回収することは非常に困難だと思われていた。それだけに、積水ハウスの「House to House」プロジェクトが発表されたとき、筆者はハウスメーカーとしての「本気度」の高さを感じた。
まずポイントとなったのは、施工現場における27種類の分別だ。施工現場では、梱包材、木材の切れ端、給排水配管、樹脂のシートなど様々な廃棄物が出る。これを大工などの各職方が業務の一部として分別を遂行。当初は違う種類の廃棄物が混ざっていたりすることもあったという。
資源循環チームのリーダーを務める、ESG経営推進本部 環境推進部のスペシャリスト 村井孝嗣さんは「職方にセンターを見学して理解してもらうといった地道な努力を進めていきました」と振り返る。「当社だけではなく、建材メーカー、施工会社、輸送会社など様々な関連会社の皆さんとの連携が必要でした」(村井さん)。
回収時には、施工現場ごとに全ての袋に二次元バーコードラベルを付けて管理。回収もれや不法投棄を防ぐとともに、廃棄物の内容や量も把握できるようになっており、廃棄物の削減に役立っている。
プラスチックも細かく分けて、素材として再利用する資源循環センター
資源循環センターに搬入された廃棄物は、さらにリサイクルの効率を高めるために80種類程度に分別される。特にプラスチック類はリサイクル業者の需要に合わせて、素材の種類、柔らかさなどによって細かく分別していく。
そのような地道な取り組みの結果、回収したプラスチック類のうち90%以上を元の素材として再生利用するマテリアルリサイクルが実現できている。廃材が資源となって次の製品に循環しているというわけだ。
現在、日本国内で排出されたプラスチックごみのうち、2020年の有効利用率は710万トン、約86%に及ぶ。しかしそのうち、509万トンは焼却処理され、発生した熱を再利用する「サーマルリサイクル」という方法での再利用となっている。プラスチックは熱量が大きいので石油や石炭などの貴重な化石エネルギーの消費削減にもつながる一方、CO2を発生させてしまうデメリットも無視できない。
プラスチックごみを資源として循環させようという積水ハウスの姿勢は、これからの時代に求められるものだろう。
「搬入された廃棄物にはシールや接着剤が残っていたり、金属などの異素材が付着したままのものもあります。精度の高いリサイクルを実現するためにも、分別の手順、方法もリサイクル業者と協議して、改善を常に進めています」(関東資源循環センター シニアスペシャリスト 都築勇さん)
住宅関連の企業、研究機関との連携も進めていく
鉄やアルミ、コンクリートなどは品目ごとに社外のリサイクル業者に委託。また、木片はセンター内の施設で粉砕され、木粉に。電線などは被覆と銅線を分離する。廃樹脂は自社内でリサイクルし、瓦桟や一部の内装材などに生まれ変わっている。
太陽光パネル、畳などは手作業でパーツごとに分解される。「畳は分解するのに手間がかかっていたのですが、畳職人さんに相談したらとても効率のいい方法を教えてもらえました」(関東資源循環センター 菊池茂さん)
石こうボードの端材は卵殻と混ぜて、グラウンド用のライン材「プラタマパウダー」として再生する。近隣の小学校などでよく使われているという。
関東工場の資源循環センターでは、こうした日々の業務について周知し、リサイクルについての理解を広めるため、一般の見学も受け付けている(事前予約制。エコ・ファーストパーク見学予約申込み https://www.sekisuihouse.co.jp/request/efp/form.html)。
実際に資源循環センターを見学してみると、回収・分類された廃棄物は「ごみ」という印象は薄い。細かく分類されているせいか、「原材料」「パーツ」というイメージだ。施設内も広く、風通しがいいため、臭いやほこりっぽさはあまり感じない。
これらのものが今まではごみとして埋め立て、焼却されていたわけだ。実にもったいない。
ただし、リサイクルしやすいように細かく分別するには、ある程度の手間が必要だ。施設内でのオペレーションのさらなる効率化、分別技術の進化が求められるだろう。
積水ハウスでは、東京大学大学院との共同研究に取り組んでおり、素材ごとの再利用状況や商品のリサイクル性に対するサプライヤーの動向などの現状分析を進めている。『循環する家(House to House)』プロジェクト」を通じて、サプライヤーや研究機関など住宅関連業界の様々関係者との協働に向け、情報発信を続けていくという。
20年以上にわたる積水ハウスの「本気」は、まだまだとどまることがなさそうだ。
■積水ハウス「循環する家」特設サイト
https://www.sekisuihouse.co.jp/special/cdp/housetohouse/