高級メゾンから日本のレザーブランドも憧れる、昔ながらの製法を今に伝えるイタリアンレザーの雄を訪ねた。
高級メゾンブランドから、日本の名だたるレザーブランドまでもが憧れるイタリアンレザー。古来より、イタリアでは革作りが盛んだった。特にトスカーナ地方では数多くのタンナーが軒を連ね、今も美しい革を作り続けている。そんなイタリアンレザーのタンナーを紐解いていきたい。今回は、多くの革愛好家に愛され、世界中で称賛される「GUIDI」の魅力に迫っていく。
とにかく時間をかけて革を鞣す「GUIDI」の伝統技法
世界中のレザーファンから圧倒的な支持を受けるイタリアンレザーとは、主にイタリア・トスカーナ州で作られた革のことを指す。
トスカーナ州の皮革産業の歴史は古く、14世紀後半には多くのタンナーが存在していたという。アペニン山脈で羊の飼育が盛んだったことから原皮となる羊皮の調達が容易で、近くには清流が流れており、革の鞣しに不可欠な水も豊富にあるため、自然と皮革産業が発展していった。
現在、多くのイタリアンレザーが存在するが、イタリアンレザーの魅力、それは昔ながらの手法で作られたその風合いと美しさにある。中でもSuccessors di GUIDI & ROSELLINI(以下GUIDI)の革は、きめの細やかな質感、触った時の滑らかさ、光沢、エイジングした時の艶やかさで、多くのファンを魅了している。
GUIDIが世界の皮革の歴史に登場するのは1896年、トスカーナ州の小さな街ペーシャで産声を上げた。現在の社長であるルジェロ・グイディ氏は、創業者であるグイド・グイディから数えて4代目となる。
GUIDIの革の特筆すべき点、それはとにかく時間をかけて革を鞣していること。イタリアンレザーでよく見られる伝統技法「バケッタ製法」とは、植物タンニンをじっくり染み込ませながら鞣し、牛脂や魚脂などで革に加脂していく製法だが、GUIDIでは職人の手によってじっくりと脂を加えていく。
タンニンの配合や製法も、8世紀後半の方法で行なっているというから驚きだ。こうしたこだわりがあるからこそ、GUIDIらしい、他社とは一線を画す独特の風合いを醸し出せるのだ。
「GUIDIの革は、まず鞣した後に脂を入れ、6か月間寝かし、その後に色を付けていきます。そうすることで、しっとりとしたGUIDIらしい独特の風合いが生み出されるのです」そう話してくれたのは現社長のルジェロ・グイディ氏。自社の革を使ったブランドを作り上げ、GUIDIの革を世界に知らしめた敏腕経営者でもある。
GUIDIでは現在、カーフをはじめとする牛革、馬革、バッファローやカンガルー、シープスキンなど多岐にわたる革を手掛けている。グイディ氏の個人のお気に入りは、カーフとホースなのだとか。
「もともと、カーフやベビーカーフなどの牛革を扱っていたんですが、1990年代後半から馬革の鞣しを始めました。すべてGUIDIらしい素晴らしい革です。今後はゴートスキンを使った新しい革にも挑戦したいと思っています。現在、カーフと同じような手法を使った新しいゴートの開発をしているんです。1.8㎜くらいの厚めのゴートにも挑戦したいですね」
伝統を受け継ぎながらも、新たな挑戦を忘れないGUIDI。今後の動向にも注目したい。
GUIDIの革ができるまで
こちらはポーランド産の馬の原皮。GUIDI本社はペーシャにあるが、革の鞣しは少し離れたサンタクローチェで行っている。
馬の原皮の尻の部分をカットする。どの部分でカットするかは、タンナーによって個性が現れる。この部分がホースバットとなる。
GUIDIでは、タイコと呼ばれる回転槽によってゆっくり革を鞣していく。染色用のタイコと比べて大きいのが特徴。
タンニンの配合は企業秘密。GUIDIの革の真髄だ。「うちの革は天然由来なので、犬も食べるよ(笑)」とは代表のグイディ氏。
イタリアンレザーの伝統技法「バケッタ製法」。植物タンニンを時間をかけて染み込ませつつ鞣し、油脂分を多く入れることで、特有の風合いを醸し出していく。現在ではタイコを使って革に加脂していくタンナーが多い中、GUIDIでは職人の手によって丁寧に脂を入れていくという昔ながらの手法を採用している。こうした手間暇が、世界中のブランドからオファーの絶えない唯一無二のGUIDIの革を作り上げていくのだ。
こちらが革に擦り込んでいくGUIDI特製のオリジナルオイル。配合や成分は企業秘密だが、牛脂や魚脂を合わせたものと思われる。
一般的に植物タンニン鞣しの革は硬いというイメージがあるが、油脂分を芯まで含ませることで、しっとりとしなやかな革へと生まれ変わる。
革を鞣して油脂分を含ませ、その後6か月間寝かしていく。本当に時間のかかる製法だが、油脂分が浸透し馴染みが良くなり、特有の風合いを醸し出していくのだ。
GUIDIでは自社ブランドのアイテムも展開している。特に、GUIDIの革を使ったブーツ/シューズは人気も高い。現在、ファクトリーでは約40名の従業員が日夜汗を流している。
2014年に作られた小物用のファクトリー。GUIDIの革小物は世界中で人気を博している。白鞣しの革を裁断している。こうした細やかな職人技が、GUIDIブランドを支えている。
GUIDIのオリジナル製品は、靴やベルト、バッグなどの多岐に渡る。中には製品染めを行ったり、ヴィンテージのような質感を生み出すためにタイコで回した革を使うことも。
ブーツを丁寧に塗っていく。この小物用のファクトリーでは、製作のほかリペアなどのカスタマーサービスにも対応している。