【10/5(土)開催】下津井宵灯り ~ 約150年前の下津井を再現。江戸時代から唄われ続けた下津井節をつなぐお祭り
江戸時代、北前船の寄港地としてにぎわっていた下津井では、「下津井節」と呼ばれる民謡が北前船に乗る人々へのおもてなしとして歌われてきました。下津井節は岡山を代表する民謡として全国に広まり、毎年9月には下津井節全国大会も開催されています。
全国大会がおこなわれるほどなので、下津井節の知名度は高いように感じられますが、日本各地で民謡の後継者不足が問題視されており、下津井節も例外ではありません。
そのような下津井節を、次の世代につなげようと企画された「下津井宵灯り」というお祭りが2024年10月5日に開催されます。
民謡を受け継ぐ新たな挑戦となる「下津井宵灯り」を紹介します。
「下津井宵灯り」とは
「下津井宵灯り」は2024年10月5日(土)に開催されるイベントです。
下津井宵灯りで歌われる下津井節の歴史は、江戸時代にまでさかのぼります。
当時の下津井は、北前船の寄港地として、膨大な物流や人々の交流が生まれる場所として栄えていました。日本全国を回る北前船は、当時の流行を教えてくれる存在でもあり、乗組員と下津井の人々の間ではたびたび情報交換がおこなわれていたそうです。
そのなかで伝えられた流行歌を、下津井らしくアレンジし、乗組員をもてなすお酒の席で披露したのが下津井節の始まりと言われています。下津井節は流行を取り入れながら徐々に形になっていき、地域に定着していきました。
下津井宵灯りでは、練習を重ねた有志メンバーによる「流し踊り」と、誰もが気軽に参加できる体験型の下津井節「みんなで下津井節」を楽しめます。
「下津井宵灯り」のタイムスケジュールは、以下の画像をチェックしてください。
流し踊りのメンバーのなかには下津井の中学生も参加しており、幅広い年代の人々が下津井節を踊りつなぐようすが見られます。
会場は、むかし下津井廻船問屋と下津井町並み保存地区。どちらも昔ながらの漁師町の雰囲気が残る場所なので、下津井節の唄と踊りがあればまるで当時にタイムスリップした気分を味わえそうです。
飲食店の出店もあるので、お祭りグルメを楽しみながら下津井節を見られます。
今回初めての開催となる下津井宵灯り。どのような想いで開催に至ったのか、下津井宵灯り実行委員会の津本(つもと)ゆかりさんにお話を聞きました。
津本ゆかりさんインタビュー
下津井宵灯りの発起人である津本ゆかりさんは、岡山県津山市出身。2010年に開催された第25回下津井節全国大会で優勝したことのある民謡歌手です。
津本さんは18歳のときに民謡の世界に飛び込み、師匠から最初に教えられた唄が下津井節だったと言います。
──下津井宵灯りはどのような経緯で企画されましたか?
津本(敬称略)──
私は旅が大好きで、これまで日本全国のお祭りや、地域に根付いた伝統行事などを見に行ってきました。
行く先々で感じたのが、今は全国的に担い手が減っていて、伝統行事や文化が途絶えかけている地域が多くなってきていること。中心となって受け継いできたかたがたもご高齢で、「来年でできるかどうか」という状況が続くなかで一生懸命されていました。
そのような状況を見たときに「私の役目はなんなんだろう。いったい何ができるんだろう」と考えるようになり、まず思いついたのが、一番身近な存在だった下津井節を次世代につなげていくことでした。
富山県の「おわら風の盆」など、街中で踊るお祭りは全国に事例があります。そのようなお祭りからヒントを得ながら、下津井節を踊り流す今回のお祭りを企画しました。
下津井には当時の港町の雰囲気が残る町並み保存地区があるので、保存地区を生かして、下津井節を知ってもらいたいと思ったんです。
下津井の人たちに「街中で下津井節を踊り流すのはどうですか」とアイデアを話したときに、「それいいね」「応援するよ!」と背中を押してくださったのがうれしかったです。
──地域のかたがたも同じような課題を感じていたのでしょうか。
津本──
地域的に、下津井に住む人たちは活気があって賑やかなことが好きだと思うんです。
ただ、やはりどうしても人は減っていくし、若い人たちも少なくなってきている状況で、「地域をどう存続させていくか」という課題をそれぞれ抱えていらっしゃると思います。だからこそなのか、外からの意見を真剣に受け止めてくださる環境がありました。
私も外から来た人間ですが、下津井宵灯りの提案をしたときに「下津井を盛り上げてくれてありがとう」と言ってくださったかたがいたんです。「そういう感覚でいてくださるんだ!」とありがたく思いました。
私は民謡が専門なので、民謡の切り口から下津井の文化・伝統を受け継いでいく。各分野で、それぞれのかたが下津井を持続可能な地域にするために考えていらっしゃるように思います。
──下津井節の唄は江戸時代から受け継がれていますが、踊りの振り付けも昔ながらのものですか?
津本──
今回の振り付けは、約80年前に作られたもので、継承されているなかでもっとも古い振付で踊ります。というのも、北前船でにぎわっていた時代にも踊りはあったと思うのですが、振り付けそのものは現在伝わっていないんです。
昔は学校の運動会や盆踊りなど、みんなが集まるときには必ず下津井節を踊っていたそうです。ただ、下津井節を踊る機会も減ってしまい、つい最近まできちんと踊れるかたは5名しかいませんでした。踊りを教える機会を作っても、それを継続していくのは難しい状況だったそうです。
5名のなかには亡くなってしまったかたもいらっしゃいますし、ご高齢で足が悪くもう踊れないかたもいて、引き継ぐのがもうギリギリだと感じました。今回、「しっかりと踊りも継承しよう!」と覚悟を決めて、5名のうち、お身体が動くかたに振付をご指導いただいております。また踊るのが難しくなってしまったかたからも、私たちの踊りに言葉でアドバイスをいただいております。
下津井節に関して私を育ててくださったかたが、どんどん亡くなっているので、寂しさや危機感もありますが、とにかく今のうちに学べることはすべて吸収します。踊りも歌も、「精一杯受け継ぎましたよ」というのが少しでも伝えられたらうれしいです。
──今回の見どころについて教えてください。
津本──
下津井節の踊りは、一つ一つの振り付けに意味が込められている唯一無二の踊りなので、ここでしか見られない貴重なものになると思います。
演出の面で言うと、行燈(あんどん)にはこだわっていますね。というのも、下津井節の歌詞のなかに「街の行燈の火が招く」という歌詞が出てくるので、行燈を置いて少しでも当時のにぎわっていた港町の雰囲気を醸し(かもし)出したいです。
行燈の灯りのなかで踊り、下津井節の唄があちこちで聴こえてくる……。一夜だけでも、当時の下津井にタイムスリップしたような、幻想的な空間を再現できたらと思います。
──どのようなかたに来てもらいたいですか?
津本──
下津井の人たちにはぜひ足を運んでいただきたいです。ずっと準備をしてきたので「これを用意していたのか」「よう頑張ったな」と思っていただけるかもしれません。温かく見守っていただけたらうれしく思います。
あとは、今回の下津井宵灯りを見て、来年は参加者として関わってくれる人がいたら、ぜひ一緒に作り上げていきましょう。2年目、3年目と回数を重ねて、下津井節への愛着が年々濃くなっていけば良いなと思います。
地域の人たちが楽しそうに元気にしていたら、人って自然と集まってくると思うんです。下津井宵灯りで人を呼ぶのではなく、お祭りを楽しんでいる地域の人たちが、新たな人を呼ぶような、そのようなイベントになってほしいなと願っています。
──読者にメッセージをお願いします。
津本──
下津井について、港町というイメージをなんとなく持っている人は多いと思います。ただ、下津井の魅力はそれだけではありません。下津井宵灯りを通して、新たな下津井の良さを感じていただきたいです。
今回のお祭りは、下津井節を普及するためのひとつの通過点です。下津井宵灯りが終わっても、定期的に踊りの練習会を開催して踊り手さんを増やしていきたいですし、歌と三味線の普及にも力を入れたいと思っています。
下津井節に関わる次世代の人たちを育てていきたいので、興味のあるかたは一緒に下津井節をつないでいきましょう。
私たちの底力を見に、ぜひ下津井宵灯りに遊びに来てください!
おわりに
取材中、津本さんから「昔の民謡は、歌う人によって歌詞が違うんです。即興で作った歌詞で歌うかたもいたんですよ」と教えてもらいました。長い間、多くの人たちがアレンジを加えて自由に歌ってきたからこそ、その地域に定着し、歌い継がれてきたのだと思います。
普段の生活で民謡を聴く機会はめったにないですが、下津井宵灯りが毎年開催されるならば、下津井節がいつか身近な存在へと変化しそうです。
行燈がともる幻想的な空間で下津井節がお披露目されるのが楽しみです。誰でも参加できる「みんなで下津井節」も、ぜひチャレンジしてみたいと思います。
初めての開催となる「下津井宵灯り」、ぜひ足を運んでみてください。