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野田秀樹「一石投じたい」~長崎原爆投下を描いたNODA・MAP『Love in Action』ロンドン公演報告会レポート

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野田秀樹

劇作家・演出家・俳優の野田秀樹が、2024年11月12日にNODA・MAPの新作舞台『Love in Action』(日本での上演タイトル:『正三角関係』)ロンドン公演の報告会を東京・自由学園にて行った。本作は、ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』をモチーフに野田が生み出した「唐松族の兄弟」の物語で、松本潤、長澤まさみ、永山瑛太らが出演。国内での76公演を経て、10月31日から11月2日までロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で上演された。

NODA・MAP『Love in Action』サドラーズ・ウェルズ劇場 (c)Alex Brenner

NODA・MAP『Love in Action』サドラーズ・ウェルズ劇場 (c)Alex Brenner

会の冒頭で野田は、劇場を満席にしたことや数々の媒体に劇評が出たことなどに触れ「結果的には大盛況にして大好評だった」と振り返りながらも、「欧米の観客にもっと観に来てもらうことが今後の課題」と意欲を述べた。

(撮影:碇雪恵)

本作が長崎への原爆投下を描いたことに対し、野田と一緒に登壇した演劇評論家の内田洋一は「原爆を扱った演劇作品が海外で上演されることはかなり珍しいが、これには最初から狙いがあったのか」との質問があると、野田は執筆時からロンドン公演が決定していたことを明かした。以前同じくロンドン公演を行なった『ザ・ダイバー』(2008年)は「源氏物語」をモチーフにしたものの、現地ではその存在を知る人はほとんどおらず、日本の文化や歴史がイギリスでいかに興味を持たれていないのか如実に感じたという。それは日本における『ロミオとジュリエット』(イギリスの作家シェイクスピアの小説)の知名度とは対照的だと語り、そういった状況に「一石を投じていきたい」思いが今回の作品にもつながったという。

(撮影:緒⽅⼀貴)

また、これまでも世界情勢や歴史的な事件を作品の中で多く扱ってきたが、原爆を取り上げることは「これが最後のつもりで書いた」と述べた。それに対し記者から「第二次世界大戦を描くことも、もうないのか」と問われると、「まだわからない」と答えた上で、「自分は昭和30年に生まれて、敗戦国に育ち、すぐにベトナム戦争が起きた。若い頃は、戦争経験者たちによる悲惨な実体験をもとにした小説を読んで自分には書けないと思い手を伸ばさなかった。しかし歳をとるにつれ、戦争が遠くなり過ぎた世代が増え、自分は“戦争があった“ということを体に感じている世代としての自覚を得て、戦争を書くようになった」と語った。

(撮影:碇雪恵)

ほかに、野田は国内での動員を約束された作家でありながら、なぜ苦労してまで海外公演に挑戦するのかと記者から質問が。対して野田は「自分の置かれている演劇の現状は、国内だけに留まっていると知ることができない。(国内にずっといると)少しずつぬるま湯に浸かっているような状況に陥るので、海外に行って国内とは異なる反応や、理解されないことを肌で感じることが大事だと思う。たとえ酷い目に遭ったとしても外に出ていく必要を感じるし、役者にとっても海外で舞台に上がった上で現地の芝居に触れることには大きな意義がある」と語った。

NODA・MAP『Love in Action』サドラーズ・ウェルズ劇場 (c)Alex Brenner

また、今回のロンドン公演で感じた、演劇における世界的な危機感についても触れた。ロンドン公演の初日に催されたパーティで、日本に限らず世界的な傾向として、アニメやポップスターを中心に据えた演劇しか動員できないこと、それらが悪いわけではなく、それら以外が大きな劇場で成立しにくい現状があることを現地の演劇関係者と共有したという。

NODA・MAP『Love in Action』サドラーズ・ウェルズ劇場 (c)Alex Brenner

上記以外にも、再演ではなく新作を海外で上演することの難しさ、字幕の制作やタイトルの翻訳の裏話が披露されたほか、今後の計画としては再来年(2026年)に新作舞台の制作予定があり、その際にも海外公演を視野に入れていると明かし、「一作一作を自分の遺作だと思って創る」「『正三角関係』が60代最後の作品だったので、次作は70代最初の作品として売り出したい」と記者たちを笑わせた。

『正三角関係』東京公演収録映像は12月2日(月)正午より世界配信される(国内ではイープラスStreaming+等で鑑賞可)。

(撮影:碇雪恵)

取材・文・撮影(一部)=碇雪恵

【野田秀樹プロフィール】
1955年、長崎県生まれ。劇作家・演出家・役者。東京大学在学中に「劇団 夢の遊眠社」を結成し、数々の名作を生み出す。92年、劇団解散後ロンドンに留学。帰国後の93年に「NODA・MAP」を設立。『キル』『赤鬼』『パンドラの鐘』『THE BEE』『ザ・キャラクター』『エッグ』『逆鱗 』『足跡姫〜時代錯誤冬幽霊〜』『贋作 桜の森の満開の下』『フェイクスピア』『兎、波を走る』など、数々の話題作を発表。オペラの演出、歌舞伎の脚本・演出を手がけるなど、演劇界を超えた精力的な創作活動を行なう。また海外の演劇人とも積極的に創作を行ない、これまで日本を含む13ヶ国28都市で上演。22年9月にはロンドンで『Q』: A Night At The Kabuki を上演し、好評を博す。23年1月、舞台芸術界におけるその国際的な活動を評価され、ISPA2023で優秀アーティスト賞「Distinguished Artist Award」を日本人初受賞。09年10月、名誉大英勲章 OBE受勲。09年度朝日賞受賞。

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