『九龍ジェネリックロマンス』鯨井令子役・白石晴香さん×工藤発役・杉田智和さんインタビュー|令子を軸に見ていくと、ミステリーにも入り込みやすい
2025年4月5日(土)より、テレ東系列ほかにて放送中のTVアニメ『九龍ジェネリックロマンス』。
懐かしさで溢れる街、九龍城砦。不動産屋で働く鯨井令子は、先輩の工藤発に心惹かれていた。
ある日、令子は工藤の机の引き出しから1枚の写真を見つけ、工藤にかつて婚約者がいたことを知る。だが、その婚約者は自分とまったく同じ姿をしていた……。そして、そのもう一人の鯨井令子の存在が、令子に過去の記憶がないことを気づかせる。
『恋は雨上がりのように』の眉月じゅん先生による漫画を原作とし、イントロダクションから、多くの謎が散りばめられた本作。ミステリーとラブストーリーが同時に展開されていき、予想を裏切るストーリーにドキドキする。そんな作品について、鯨井令子役の白石晴香さんと、工藤発役の杉田智和さんにインタビューを実施した。
【写真】『九龍ジェネリックロマンス』白石晴香×杉田智和インタビュー
令子を軸に見ていくと、ミステリーにも入り込みやすい
ーー『九龍ジェネリックロマンス』を読んだときの印象をお聞かせください。
鯨井令子役・白石晴香さん(以下、白石):オーディションのお話をいただく前から読んでいた作品だったので、オーディションの話が来たときは、「嬉しいし頑張りたいけど、絶対にやりたいからどうしよう……」という気持ちでした(笑)。
原作の印象としては、ミステリーの部分とラブロマンスの部分が結びついていて、「どっちも楽しいけど、どちらも気になる!」と思いました。でも、どちらの伏線も追えば追うほどわからなくなっていくんですよね。その混乱していく感じが、楽しくて仕方がなかったです。
それと先生が描かれる画のタッチも好きで、鯨井令子の表情ひとつひとつがとても美しいですし、ストーリーもキャラクターも全てが魅力的で、すごい作品に携わらせていただけるんだな……という気持ちでした。
ーー予想を裏切られるような展開の連続ですからね。
白石:それがすごく面白かったですね。ミステリーは今まで携わることがなかったですし、あまり触れてこなかったので、「こんなに楽しいんだ!」って。新たな刺激をもらいました。
ーー舞台である九龍城砦に関してはいかがでしょう?
工藤発役・杉田智和さん(以下、杉田):九龍といえば、今は閉店してしまったゲームセンターのイメージがあります。あとは、ゲームの『サガ フロンティア』に出てくるリージョンの名前で聞いたことがあったくらい。
ーーまた、『九龍ジェネリックロマンス』はWメディア化として、実写映画の情報も同時に公開されました。これについては、いかがでしたか?
白石:話は聞いていました。
杉田:聞いていたけど、同時期だとは思いませんでした。
白石:しかもPVで実写版と共演させていただけるとは思わなかったです。資料をいただいたときに、こういう形になるんだろうなと想像はできたものの、実際に仕上がったPVが公開されたときは、自分でも鳥肌が立ちました。
それぞれが思う鯨井令子がそこにいて、それぞれが思う工藤発がそこにいる。演じている人は違うけれど、どちらの『九龍ジェネリックロマンス』もいいのだろうなと、確信しました。
杉田:こういう方式って、あまりやらないじゃないですか。どうしたって比較してしまうから。工藤の立ち回りとして一番やらないことは“比較すること”だと思っているんです。だから、「実写とアニメのどちらが好きですか?」という質問はされたくない。どちらも楽しみという気持ちです。
白石:アニメと実写、両方でより盛り上がっていけたら良いですよね。一緒に頑張っていきたいです!
ーー演じているキャラクターについてもお聞かせください。まず、九龍城砦の不動産会社に務める会社員・鯨井令子についてですが、先輩である工藤に恋をしています。
白石:普段の人柄として、楊明(CV.古賀葵)に見せる姿とかはとっても明るいんです。男女分け隔てなく、仲良くできる人なのかなと思いつつ、彼女はこのお話の中で、誰よりも変わっていく人でもあると思います。
最終話までを観たとき、最初の頃の令子ってこうだったよねって、びっくりすると思うんです。そのくらい変わるので、「この人はこういう人です」と説明するのがすごく難しくて……。あえて言うのであれば、視聴者に一番近い立ち位置であるということです。
原作を読んでいても思ったんですけど、令子を軸に見ていくと、いろんな発見があるし、ミステリーに入り込みやすかったりします。
ーー令子視点で見ていくと、いろんな驚きや発見がありそうですよね。では、演じる上では、どんなことを意識されましたか?
白石:ミステリアスで、いろんな変化がある中で、モノローグでは葛藤や動揺があるので、そこの部分を繊細に表現したいと思いました。それに、ひとつひとつの物事に対するリアクションとしては、結構豊かなんですよ。だから、やってみた結果、最初のイメージより面白い人になったという印象があります。
ーー杉田さんの演じる工藤発は、鯨井の先輩で、九龍のことを知り尽くしている存在でもあります。令子を気にかけながら、何か秘密を抱えている男性、ということですが……。
杉田:彼は本音を隠すのが上手な人なんですよ。目の前の人と話しているのに、違うことを考えている……そういうところがあるので。
そんな彼を演じる上で、一番いい位置はどこだろうなと思いながら演じていました。
ーーというと?
杉田:あまり近寄りすぎると本当のことを言わないし、離れているとどこかへ行ってしまう感じがある。キャラとの距離で、こんなに迷うことってないんですけど、今はそれでいいのかなと思っています。
アフレコの収録前に起こった出来事とは?
ーー作品は、工藤と令子の関係性が大事になってくると思いますが、掛け合いはいかがでしたか?
杉田:当日、収録現場で白石さんの令子の芝居を聞いて、何が来ても受け止められるように、そういう雰囲気を作っておくように心がけました。
白石:杉田さんは収録前、工藤さんとして連絡をくださったんです。「鯨井、明日からよろしくな」って。私のことを白石晴香としてじゃなく、鯨井として見ていて、「あ、工藤さんだ、工藤さんから連絡が来た」と思いました。
だからアフレコに行ったときも、スーッと令子になれたし、そこにいるのは杉田さんではなく工藤さんでした。アフレコに入る前から杉田さんがそういう空気作りをしてくださったので、マイク前でやり取りをするとき、その場で会話をすることに意識を向けたら、それだけで令子と工藤の2人になれたという不思議な経験をしました。だから、屋上でタバコを吸っている2人の距離が近いシーンも、何かを意識してやらなきゃ!ということはなかったです。
ーー杉田さんから見て、白石さんが演じる令子はいかがでしたか?
杉田:やっぱりあまり考えないようにはしていましたよ。どんどん令子にはなっていくんですけど、誰かと比べる行為をしてはいけないと思っていたので。支配欲、名誉欲、自己顕示欲……そういうものは一切必要がないんです。それらが演技からにじみ出てしまったら“工藤発”ではなくなるので。自然とそういうバランスを取ってくれるのが、白石さんが演じる令子で、芝居から伝わってきました。
ーー収録中はお互いで、相談などをしながら進めていくのですか?
杉田:いや、自分が話さなくても周りがずっと何かを言っている現場だったんです。だから僕からはあまり話さなかった気がします。
白石:私たち以外は、考察をしながらアフレコをしていたんです。逆に、杉田さんはそこには一切入らず。私も、途中までは入りたいという気持ちがあったんですけど、とあるシーンで、先が見えてしまっているリアクションをしそうになる瞬間があったんです。
でも令子って、それを知らないで振り回されるべき人物でもあるので、途中から原作を読み返すのも止めました。普段はそのシーンをひたすら読み込んでからアフレコに行くんですけど、あえてそれをせず。お話全体は把握しているものの、シーン展開が具体的に頭に浮かんでこないようにしていたんです。一旦フラットな状態にして、考察もストップして、自分の目の前のあるシーンに集中しようとしていきました。
ーー白石さんから見て、杉田さんが演じる工藤はいかがでしたか?
白石:すごく背中がカッコいいんですよ。すべてを背中で語ってくれるところがありました。哀愁もあるし、時にスンとして怖い瞬間もある……。でも、やっぱりついていきたくなる、頼りたくなる背中でもあるんですよね。それが画面にいる工藤さんでもあり、そこにいる杉田さんの“背中の工藤さん”でもある。そんな感じでした。
あと、杉田さんが演じられる工藤は、ユニークさもあるんだけど、何か一歩近づききれない寂しさを感じさせてくるんですよね。「知りたいのにな〜」ってもどかしい気持ちにさせてくれる、絶妙なお芝居でした。
杉田:辛くなったとき、このコメントを読み返します。こんなに自己肯定感が上がることはないですから(笑)。
ーー『九龍ジェネリックロマンス』のアニメならではの魅力は、どんなところにあると思っていますか?
白石:舞台が九龍城砦なので、それが印象的になるだろうとは思いました。この場所だからこそ、という作品ではありますし、知らないところだけど、行ってみたくなる。でも、行きたくない気持ちもあるし……みたいな感じがするんです。そういう場所が、アニメで描かれるところを楽しみにしていてほしいです。
杉田:キャッチで、「私、九龍に恋をしているの」とありますけど、恋をした最初の頃の感覚って、人によって違うと思うんです。高揚している人もいれば、恐怖を感じる人もいるかもしれない。それが、そのままアニメを観た印象になればいいなと思ってます。記憶って自分では鮮明に覚えているつもりでも、絶対に元の記憶からは変化しているんですよね。都合のいい解釈が盛られることもあれば、一箇所だけ抜け落ちている場合もある。そういう感覚を思い返すきっかけになればいいですね。
ーー最後に、最近ノスタルジーを感じたことはありますか?
杉田:何ですかっ、その笑点のお題みたいな質問は(笑)!
ーーいやいや、大喜利ではないです(笑)。本当にノスタルジーを感じたことを知りたくて。
白石:ノスタルジーですね……。実家で、小さいときに私が書いていた絵本が大量に出てきたんですよ。
杉田:絵本を描いてたっ! それはすごい才能だ!!
白石:後ろが真っ白なチラシを折って、白い部分だけが表に出るようにして、それをホッチキスで止めて、絵を描いていたんですけど、それが大量に出てきて、懐かしいなと思いました。
私、絵がとても下手なんですけど(笑)、そんな私が幼少期は絵本を描いていたんです。しかも読んでみると、物語も結構ちゃんとしていて、飼ってたワンちゃんが迷子になって、それを家族みんなで探しに行って、そこで出会った大切な友達が探してくれたという話だったんですね。「ちゃんとしてるじゃん!」って。小さい頃から、ストーリーを想像することが好きだったんだろうなと思えて、嬉しくもありました。
杉田:絵本と聞いて思い出しましたけど、どの時代も絵本ってなくならないんですよね。文化そのものが。友達に、絵本の読み聞かせをしてくれと頼まれたとき、結構ストーリーが変わっていたり、表現が変わっていたりするんだなと思いました。それをそのまま読むのも何だなと思って、勝手に付け足したりしながら読んでいたら、子供にバカ受けで。
ただそのあと、電話がかかってきまして……。子供の聞くハードルが上がりまくってしまったらしく、「なんてことをしてくれたんだ。普通の物語では満足しなくなったぞ」と。
白石:それはそうなりますよ(笑)。
杉田:それは申し訳ないなと……。でも懐かしさって、そこには改変があったり、なかったものを創作していたり、ということがあるので、そういう意味では恐ろしいなと思いましたし、それはこの『九龍ジェネリックロマンス』という物語にも通じることなのかもしれないですね。
[インタビュー・撮影/塚越淳一]