他害で孤立…発達障害息子の習い事で葛藤。トライ&エラーで学んだ習い事選び「2つの視点」
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
息子の他害で孤立……つらい思い出になった幼少期の習い事
息子のトールは今までいろいろな習い事をしてきましたが、最初の習い事を始めたのはトールがまだ1歳になる前でした。毎日のほとんどをわたしと二人きりで過ごしているトールに、何か刺激があるほうがいいのではないかと考え、まず初めにベビースイミングに通い始め、1歳を過ぎた頃には英語リトミックにも通いました。
トールが自分で動き回るようになるまでは、周りの子たちと同じように活動ができていましたが、だんだんとトールの特性が見え始め、特に他害的な振る舞いが出るようになると、肩身の狭い思いをすることもありました。私たちが近くに行くと保護者の方がサッとよけていく、子ども同士がお互いに叩き合ってしまった時にトールだけが手を出したと思われて責められるなどといった出来事が重なり、「もう習い事に連れて行くべきではないのか」「でも本当にやめてしまっていいのか」と悩み、習い事に行くことがわたしにとってつらく感じられる時もありました。
これらの習い事は2歳後半頃まで続けましたが、わたしが下の娘を妊娠したのをきっかけに、やめてしまいました。
「合わない」武道を続けた理由、子どもの本音と親の葛藤
それからしばらくは、特に習い事をすることもなく過ごしていましたが、トールが幼稚園の年中の頃、お友だちがやっているという理由で武道の習い事を始めたいと言い出しました。その武道教室の生徒は、みんなトールと同じ幼稚園に通っている園児ばかりだったので、わたしも軽い気持ちで入会したのですが、いざ通ってみると「トールには全く合っていない」と感じざるを得ませんでした。
武道ということもあり、じっと座っていることや、フラフラせずに立つことを求められるのですが、トールにはそれが全くできませんでした。静かにしなければならない場面でわざと大きな声を出して注意されることも多く、毎回ヒヤヒヤしながら通っていました。
わたしは、周りの迷惑にもなるし、本当にトールのためになっているのかと疑問にも思ったので、武道の習い事はやめさせようと思いました。しかし、トール本人はこの習い事が楽しいと言うのです。あんなに注意ばかり受けているのに楽しんでいたのか!とわたしは内心ビックリしたのですが、本人が楽しいと思って通っているのなら、無理にやめさせることはしないでおこうと思いました。
親の罪悪感を救った、周囲の温かい「受け入れ態勢」
幸いだったのは、保護者の方たちがトールに対して好意的だったことです。この武道教室では、基本的に保護者の付き添いは不要だったのですが、先生から「トール君が落ち着くまでは、お母さんが付き添ってください」と求められていました。まだ乳児だった下の娘を連れて同席するのは大変でしたが、ほかの保護者の方も一緒に付き合ってくれて、時には娘の相手をしてくれたり、娘用におもちゃを持ってきてくれたりしました。何より、トールの良いところや、少しずつできるようになっていくのを具体的に褒めてくれたりしたのです。もしそうでなかったら、「周りに迷惑をかけている」という罪悪感に押しつぶされ、わたしが耐えられなくなっていただろうと思います。この武道の習い事は、卒園・引っ越しがきっかけでやめるまで、約2年間続けることができました。
多動だけど運動は苦手……継続できている習い事は?
中学1年生のトールが今やっている習い事は、テニスとパーソナルトレーニングです。どちらも小学校低学年の頃からずっと続けています。
トールはADHD(注意欠如多動症)ですが、多動の特性があるからといって運動が好きなわけではなく、どちらかというと苦手なほうです。放課後も家で一人で遊ぶことが多いので、将来に続く運動習慣をつけてほしいと思って選んだ習い事でした。
今までの経験をふまえて、じっとしている必要がなく、トールがうまく活動できなくても周りの子に迷惑をかけないものを探しました。
団体スポーツだと、トールがうまくできないことで周りの子が不満に思うこともあるかもしれないし、トール自身も劣等感をもつかもしれないと思ったのです。その点個人競技のテニスであればそのような心配も薄いので、練習も安心して参加することができています。パーソナルトレーニングでも、トールに合わせた内容でトレーニングを進めてもらっています。おかげで苦手だった縄跳びもスムーズに跳べるようになりました。
トライ&エラーで学んだ、習い事を選ぶ際の「2つの視点」
いろいろな習い事を経験して、トールに合った場所がどういうところなのかだんだんと分かっていったような気がします。つらいと思ったこともあったけれど、1~2歳頃の習い事での孤独や、武道教室での温かい支援も含め、その時の経験が今に生かされていると感じています。「じっとしている必要がなく、周りに迷惑をかける心配が薄い個人競技」という選び方と、「親も安心して見守れる、受け入れ態勢のある環境の温かさ」。この2つの視点が、トールにぴったりの場所を見つけるための学びとなりました。これからも、この軸を大切に、トールが楽しく続けられる環境を探していきたいと思っています。
執筆/メイ
(監修:鈴木先生より)
本来ならば市区町村の乳幼児健診などで発達の遅れなどが分かった場合、地域の療育へつながることが多いのですが、トールさんは水泳・英語・武道と一般の習い事をしてよく頑張ったと思います。ある意味、インクルーシブな療育をしていたと言えるでしょう。本来の療育ではストレスに感じることもあまりないと思いますが、一般の習い事では多動やこだわりなどASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の特性からくるさまざまな問題に対して気を使わなければいけなかったことが、保護者としてもお子さんとしてもつらかったのではないかと推察されます。発達障害に対して理解があればいいのですが、理解のないところでは親子ともストレスが生じます。それを防ぐ手立てとしてはできるだけ早期に理解のある医療や保健師と連携していくことだと考えています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。