手帳、年金、口座、共済制度…障害のある子の将来に今から備える6つのチェックリスト【専門家監修】
監修:渡部伸
行政書士/親なきあと相談室主宰/社会保険労務士
この記事で分かること
障害のあるお子さんの将来のために、今からできる具体的な準備や手続きのチェックリストを確認できます。
子どもの障害者手帳や障害年金について、その種類や制度の概要、申請方法を知ることができます。
学校で合理的配慮を受けるための方法や、「個別の教育支援計画」の活用方法について理解できます。
親なきあとの備えとなる「障害者扶養共済制度」や、成人後に利用できる「障害者総合支援法」に基づく福祉サービスについて学べます。
進路の選択肢や就職支援サービス(就労移行支援など)について知り、親子で将来について話し合うきっかけが得られます。
子どもの将来のために、いつから、どんな準備を始める?
障害のあるお子さんのいるご家庭では、将来について「いつ」「どのような」準備をしたらいいかと悩んでいる保護者もいると思います。
将来お子さんが困る場面を減らすためにも、なるべく早くから準備をしておくことが大切です。今回は保護者が今からできる具体的なチェックリストを6つ紹介します。お子さんの将来の安心のためにも参考にしてみてください。
チェックリスト1.障害者手帳と年金制度について知ろう
障害者手帳とは一定の障害があることを証明する公的な証明書で、取得することでさまざまな支援や制度を活用することができるものです。取得するのに年齢制限は特に設けられていません。障害者手帳は1種類だけでなく、障害の種別によって以下の3つの種類に分かれています。
身体障害者手帳:身体障害(視覚、聴覚、肢体など)のある人が取得できる手帳
療育手帳:知的障害(知的発達症)のある人が取得できる手帳
精神障害者保健福祉手帳:精神障害、発達障害のある人が取得できる手帳
障害者手帳を持つことで以下のようなメリットがあります。
経済的な支援:相続税など税金の控除や公共料金の割引、医療費の助成などがあります。
公共サービスの割引:電車やバス、タクシーなどの運賃に割引があります。また、映画館や美術館や博物館、テーマパークなどの入場料が割引になることがあります。
福祉サービス:障害に応じた各種福祉サービスを受けやすくなります。
障害者手帳を取得するには申請が必要で、窓口はお住まいの自治体の障害福祉窓口などです。申請には医師の診断書や障害の判定などが必要となります。障害の種別や自治体によっても手続きが異なるため、まずはお住まいの自治体の障害福祉窓口や主治医にご相談ください。
障害年金とは障害や疾患などによって生活に支障が出ている場合に支給される年金のことです。年金というと高齢者が受け取るものというイメージがあるかもしれませんが、障害年金は要件を満たせば若年者でも受け取ることが可能です。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、それぞれ公的年金(国民年金・厚生年金)加入者が対象です。しかし、障害基礎年金の場合は国民年金加入前に障害などがあった人も対象となることがあります。
具体的には20歳前に初診日(その障害で初めて受診した日)がある人が、20歳に達した時に障害の状態が1級または2級と認められる場合に支給されます。この制度は20歳前の傷病による障害基礎年金と呼ばれています。なお、この障害年金の等級は障害者手帳の等級とは別のものです。
障害年金もそのほかの要件を満たして申請し、認められる必要があります。詳しいことは日本年金機構や主治医にご相談ください。
チェックリスト2.合理的配慮について学校で話し合い、「個別の教育支援計画」に記載しておこう
合理的配慮とは学校生活などで困難がある生徒に対し、困難を解消するための配慮を行うことです。合理的配慮は生徒や保護者から申し出をし、学校側と話し合ったうえで過度の負担とならない範囲で提供されます。
合理的配慮は生徒の個別の教育支援計画に記載され、定期的に見直しが行われます。教育支援計画に書かれた合理的配慮はその学校に通っている間だけでなく、受験などにおいて合理的配慮を希望する場合にも使用することが可能です。
合理的配慮は生徒・保護者側から申し出ることが基本ですが、その際は担任の先生以外にも特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーなどに相談することもできます。また、生徒・保護者側と学校側で意見が一致しない場合には個別支援会議の開催や校内委員会での話し合いも検討されることになっています。
チェックリスト3.子ども名義の銀行口座の作成と管理の練習を始めよう
銀行口座は就職した際の給与や障害年金などの受け取りに必要となります。保護者が代理で開設することができますが、銀行によって代理でつくることができるお子さんの年齢などが異なっています。18歳を超えると保護者が代理で作成できなくなったり、15歳以上はお子さん本人の手続きが必要になる場合が多いようです。
また、年金などの受け取りだけでなく、お子さんの年齢に合わせてお小遣いの管理や積立などを考えている方もいると思います。その際も保護者がすべての手続きをするのではなく、お子さんと一緒に行うことで将来のお金の使い方の練習をしていくことも、自立した生活を送るための大切な一歩となるでしょう。
チェックリスト4.進路の選択肢を知り、親子で話し合おう
義務教育が終わる中学校を卒業した後の進路についても、今のうちからお子さんと話しておくといいでしょう。そのためにも、どのような選択肢があるのかを知っておくことが大切です。ここでは、中学校卒業後の選択肢として高等学校卒業資格(高卒資格)が得られる学校を紹介します。
【高等学校卒業資格を得ることができる学校】
普通科高校(公立・私立)
専門高校(実業高校)
単位制高校
定時制高校
通信制高校
チャレンジスクール(4年制)
通信制高校など、3年間校舎に通い続ける以外にも高卒資格を取得できる学校があります。お子さんの特性や中学校までの通学状況なども踏まえてより良い選択肢を選んでいけるといいでしょう。
先ほど紹介したように、受験に際しても合理的配慮を受けることができます。受験における合理的配慮は以下のようなものがあります。
出願用紙のパソコンでの作成
別室での試験受講
試験時間の延長
テスト用紙の拡大
読み取りソフトの使用 など
また、入学後にもさまざまな支援や配慮を受けることができます。以下に一例を紹介します。
教室内の座席の調整
履修登録の支援
実技試験の配慮
専門家によるカウンセリング
提出物の期間延長
就職などキャリア支援 など
学校によって行っている支援などは違いがあります。詳しいことは受験を希望する学校にご相談ください。
進路について今はまだ具体的に考えられなくても、興味関心などをもとに早いうちから「将来はこんな大人になりたい」という漠然とした自立のイメージを持っておくことが、学校選択のモチベーションにもつながります。保護者とお子さんで話す時間を持ったり、職業体験に参加する機会を意識しておくといいでしょう。
チェックリスト5.親なきあとの備えとして「共済制度」を知ろう
保護者が亡くなったあとのお子さんの生活が心配という方もいるでしょう。ここでは、いわゆる親なきあとにお子さんの生活を支えるための「障害者扶養共済制度」について紹介します。
障害者扶養共済制度とは、保護者が毎月掛け金を納めることで保護者が亡くなった時などに障害のあるお子さんに一生涯の年金を支給する公的な制度のことで、しょうがい共済とも呼ばれています。掛け金は保護者の年齢と加入する口数で変わります。口数は1口と2口があり、受け取れる年金額は1口で毎月2万円、2口で毎月4万円です。
加入するためには保護者、お子さんがともに要件を満たす必要があります。まずは保護者の要件を紹介します。
加入する都道府県または指定都市に住んでいること
加入時点で65歳未満であること
特別な病気などがないこと
障害のある子どもに対して加入できる保護者は1人のみ
次にお子さんの要件を紹介します。
障害等級が1~3級または同程度と認められること
お子さんの年齢は問われません。また、加入後に障害の程度が該当しなくなっても、引き続き加入し続けることができます。
加入の手続きは自治体の福祉事務所や障害福祉窓口で行います。その際は申込書や住民票の写し、障害の程度が確認できる書類(障害者手帳や年金証書など)が必要となります。手続きを行ってから1~2か月で可否の結果が送られてくるようです。
チェックリスト6.成人期に活用できるさまざまな社会資源や支援制度を知ろう
18歳までは主に児童福祉法に基づく支援を受けることになりますが、18歳以上は基本的に障害者総合支援法に基づく支援に切り替わります。そのため、お子さんの成長段階に応じて利用できる支援や制度を知って、切れ目なく活用していくことが大切です。
ここでは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの中で代表的なものを紹介します。
就労移行支援: 一般企業への就職を目指す方に、職業訓練や職場実習、就職活動のサポートなどを提供するサービスです
就労継続支援(A型・B型): 一般企業で働くことが難しい方に、就労の機会や生産活動の場を提供するサービスです
共同生活援助(グループホーム): 障害のある方が少人数で共同生活を送り、日常生活を送るうえでの支援を受けることができるサービスです
短期入所(ショートステイ): 保護者の急病・冠婚葬祭の際や、レスパイトなどのために、一時的に施設で預かるサービスです
居宅介護(ホームヘルプ): ヘルパーが自宅を訪問し、入浴や食事などの介護、家事の援助などを行うサービスです
生活介護: 日中の食事・入浴・排泄等の介護と共に、創作活動や生産活動の機会を提供するサービスです
障害福祉サービスを利用するには自治体へ申請する必要があります。利用を検討している方は現在利用している支援があればそのスタッフ、そのほか自治体の障害福祉窓口、児童発達支援センター、相談支援事業所などと一緒に検討していくといいでしょう。行政でも切れ目のない支援を目指しているため、未成年のうちから相談することができます。
高校や大学を卒業したあとに、就職をサポートする支援として就労移行支援があります。就労移行支援のプログラムは多岐にわたり、障害理解や体調管理、業務に関する知識やスキルを身につけるための訓練、実際の職場で仕事を体験する職場実習などがあり、一人ひとりの特性や就職の希望に合わせた個別支援計画を作成して支援を実施しています。
また、適正に合わせた職場探しや就職活動自体のサポート、長く働き続けるための職場定着支援も提供しているなど、障害のある人が働くための幅広い支援を行っている点が特徴です。
利用には自治体に申請し受給者証の交付を受ける必要があります。申請には障害者手帳は必須ではなく医師の意見書などでも行うことができる場合もあります。気になる方は障害福祉窓口や就労移行支援事業所などに相談してみるといいでしょう。
将来を見据えて「今からできる」ことはたくさんある
障害のあるお子さんの将来に不安があっても、何をしていいのか分からない……という方も少なくないかと思います。しかし、障害者手帳の取得や銀行口座の開設など、将来を見据えて今からできることはたくさんあります。それらを一つずつこなしていくことで、将来の不安も和らげることができるでしょう。
決して焦る必要はありませんが、お子さんの成長段階に合わせて今からできる準備をしていくことが大切です。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。