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細野晴臣が日本の音楽シーンに与えた影響 ⑤ ごった煮のチャンキー・ミュージックを追求

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1973年06月25日 細野晴臣のセカンドアルバム「トロピカル・ダンディー」発売日

細野晴臣が日本の音楽シーンに与えた影響 ④

「ハイサイおじさん」をきっかけに見えてきたアルバムのコンセプト


ファーストソロアルバム『HOSONO HOUSE』を1973年5月25日にリリース後、細野晴臣はキャラメル・ママ〜ティン・パン・アレーの活動に移行したため、セカンドアルバムの制作は1974年10月に入ってからとなった。

当時の細野は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンや、チャールズ・ライト&ワッツ・103rd・ストリート・リズム・バンドやタワー・オブ・パワーなどのオークランドファンク、ドクター・ジョンなどのニューオーリンズサウンドにのめり込んでいた。そのため、ファンキーなサウンドを作ろうとデモを録音したが、彼のヴォーカルはファンク色の強いサウンドには合いそうになかった。そんなとき、沖縄旅行をしていた久保田麻琴が訪ねてきた。

久保田は、喜納昌吉&ザ・チャンプルーズの「ハイサイおじさん」のシングルをお土産に持ってきていた。そのころ細野はニューオーリンズ音楽をきっかけに辺境の音楽に興味が広がっており、その流れからマーティン・デニーやレス・バクスターなどのエキゾチックサウンドなどが浮かび、久保田との “細野さんはトロピカル・ダンディーだ” という会話から、それまで整理のつかなかったアルバムのコンセプトが見えてきた。

異国情緒が絡み合う「トロピカル・ダンディー」


翌日、ヤマハ音楽振興会が刊行していた『ライトミュージック』編集部で、当時ジャーナリストだった田中唯士(S-KEN)からは “チャイニーズ・エレガンスはいいですね” と言われる。それらを手掛かりに、トロピカルとチャイニーズとエレガンスという言葉がコンセプトとなり、さまざまなリズムやサウンド、異国情緒が絡み合うセカンドアルバム『トロピカル・ダンディー』が、1975年6月25日にPANAMレーベル(日本クラウン)からリリースされた。

ハリウッド風のチャイナサウンドやバイヨンを取り入れた「北京ダック」、ラウンジーな「ハリケーン・ドロシー」、サンバ風のラテン・ポップな「チャタヌガ・チュー・チュー」など、“チャンプルー = ごった煮”なサウンドで彩られた作品となり、それらは “ソイ・ソース・ミュージック” と名付けられた。「三時の子守唄」は、ティン・パン・アレーが音楽を担当した映画『宵待草』の劇伴「冬の出逢い」に歌詞をつけたもので、西岡恭蔵、松たか子、アン・サリーなどがカバーしている。

“チャンキー・ミュージック” がコンセプトの「泰安洋行」


1976年7月25日にはPANAMレーベルからサードアルバム『泰安洋行』をリリース。『トロピカル・ダンディー』のエキゾチックサウンドにニューオーリンズのリズムを掛け合わせたサウンドで、ソイ・ソース・ミュージックを更に推し進めた “チャンキー・ミュージック” がコンセプト。これは “ちゃんこ鍋”と “ファンキー” をかけたものだ。

特に注目すべきものは「Pom Pom蒸気」の歌詞にも登場する “おっちゃんのリズム” だ。1950年代以前のドラマーは、スウィング時代の跳ねるリズムを叩いていた。そこにスクエアな8ビートのギターが合わさると、跳ねているようで跳ねていないリズムが生まれる。いわば、ポリリズムのように2つのビートが一緒になることによって、得も言えぬ味わいを生み出す。この “おっちゃんのリズム” を細野は “一拍子のノリ” と称した。

ほか、「蝶々-San」「Roochoo Gumbo」など、ニューオーリンズ、沖縄音楽、ドドンパ、エキゾチックサウンド、ブギウギ、ハワイアンなどをまとめてチャンプルーした楽曲が並んだ。ティン・パン・アレーで培ったプロデュースワークの豊富なアイデアを自らの作品で実証した重要作品となっている。

同1976年の5月8日に横浜中華街の中華料理店 同發新館で行われたコンベンションライブ『ハリー細野&TIN PAN ALLEY IN CHINATOWN』は、彼のトロピカル時代を象徴するライブ。2007年にリリースされた『ハリー細野クラウン・イヤーズ1974-1977』の中の1枚として聴くことができる。

YMOの3人が初めて顔を合わせた「はらいそ」のレコーディング


1978年4月25日には、アルファレコードより『はらいそ』をリリース。“細野晴臣&イエロー・マジック・バンド” 名義ながら、事実上4作目のソロアルバム。『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』に続く、“トロピカル三部作” の最終作で、チャンキー・ミュージックをさらに洗練を推し進めた作品となった。

前作までの、中南米、ニューオーリンズ、沖縄などに加えて東京を取り込み、「東京ラッシュ」や「はらいそ」などが収録された。「ファム・ファタール〜妖婦」では、細野、高橋幸宏(ds)、坂本龍一(key)の3人が初めて顔を合わせた。その後、細野宅で3人は会合を行い、新たなグループであるイエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)を結成することとなる。

YMOのデビューアルバムにつながる「COCHIN MOON(コチンの月)」


同1978年のの9月21日には、キングレコードより『COCHIN MOON(コチンの月)』をリリース。細野晴臣&横尾忠則名義だが、事実上5作目のソロアルバム。当初は横尾がレコード会社から依頼されていた作品だが、細野が横尾を含む7名でインド旅行に出かけたのがきっかけで、楽曲制作を細野に依頼。

横尾は、細野にクラウトロックでテクノポップの先駆者であるクラフトワークや、現代音楽のレーベル、オブスキュア・レコードを紹介するも、ジャケットのアートワークとサジェスチョンのみの作業となった。本作では、シンセサイザー・プログラマーとして松武秀樹が参加。初めてコンピュータを音楽に使用したという面では、翌年のYMOのデビューアルバムにつながる重要な作品となっている。そして、細野はメンバーに横尾を誘い、YMOの構想を推し進めていった。

参考文献:
細野晴臣『地平線の階段』(八曜社 / 1979年)
前田祥丈:編『音楽王細野晴臣物語』(シンコーミュージック/ 1984年)
細野晴臣『レコード・プロデューサーはスーパーマンをめざす』(徳間書店 / 1984年)
北中正和 編『細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING』(平凡社 / 2005年)
細野晴臣『アニエント・ドライヴァー』(マーブルトロン / 2011年)
門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』(文藝春秋 / 2020年)

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