【 漫画家塚田ゆうたさん「RIOT」第1巻】 「野暮なこと言うなよ」「コーヒー飲みながら黙って、紙をめくるのがいいんじゃねぇか」
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は12月3日に初版発行(奥付)された漫画家塚田ゆうたさん(静岡県出身)の「RIOT」第1巻(小学館)を題材に。
「月刊!スピリッツ」2024年7月号で始まった連載が早くも単行本化。静岡県松崎町をモデルにしたとおぼしき田舎町を舞台に、男子高校生「シャンハイ」「アイジ」が「ZINE(ジン)」の制作を始める。
単行本を冒頭から読むと、この作品の幹にある思想が第1話で明瞭に言語化されていることに思い至る。
喫茶店で向かい合って雑誌(POPEYEなど)を読みふける「シャンハイ」と「アイジ」。同級生のかえでが言う。「思ったんだけどさ、雑誌読むならタブレットでよくない? 紙だと嵩張るじゃん」
アイジが答える。「お前…野暮なこと言うなよ…コーヒー飲みながら黙って、紙をめくるのがいいんじゃねぇか…!!」
原稿をスマホのメモに打ち込んでプリントアウトし、他の雑誌の写真を切り抜き、コラージュ的な手法で構成した「ZINE」の創刊号。レイアウトや写真の重要性を徐々に学ぶ二人は、「専属カメラマン」に仕立てるべく、写真部の部員に白羽の矢をたててアタックする。
周囲の友人がスマートフォンの小さい画面をのぞきながら「スイカゲーム」にいそしむ中、「シャンハイ」と「アイジ」のやっていることはアナログ的であり、手間がかかることであり、「コスパ」「タイパ」とは無縁の行為だろう。
だが、彼らの価値観は、「お前…野暮なこと言うなよ…コーヒー飲みながら黙って、紙をめくるのがいいんじゃねぇか…!!」から全く揺るぎがない。
王道的な青春物語の着地点が「ZINE」というニッチな世界であるところも美点。「ZINE」プロジェクトの欠けたピースがどのように集まるのか、またプロジェクトの外部にどれだけの支持者が集まるのか。(は)