西ドイツが築いた美の方程式 ― 「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」(取材レポート)
今では懐かしい響きに感じられる、西ドイツ。ドイツは第二次世界大戦の敗戦に伴い、国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)政権下のドイツ国が消滅。冷戦の影響などを受け、1949年にドイツ民主共和国(東ドイツ)とドイツ連邦共和国(西ドイツ)が建国されました。
戦後の西ドイツにおけるグラフィックデザインの発展とその魅力を紹介する展覧会が、東京都庭園美術館で開催中です。
東京都庭園美術館「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」
1950年代末には「経済の奇跡」と称されるほど急成長した西ドイツ。ポルシェ、BMW、ライカ、アディダスなど、世界的に有名なブランドを生み出し「職人の国」としての確かな技術と品質、優れたデザインが高く評価されました。
西ドイツの精緻な美しさや機能性は、プロダクトデザインだけでなくグラフィックデザインにも表れています。オリンピックや「ドクメンタ」「キール ウィーク」などの国際イベントにも、西ドイツのグラフィックデザインは貢献しました。
序章「西ドイツデザインへようこそ」
序章「西ドイツデザインへようこそ」
「幾何学的抽象」の章では、グラフィックデザインが「文字」と「イメージ」の二つの要素から成ることを説明し「イメージ」の一形態である幾何学的抽象に注目します。
これは1920年代にカンディンスキーやモンドリアンらが探求した抽象芸術の一種で、グラフィックデザインにも影響を与えました。
バウハウスに関わったモホイ=ナジやアルバースによって戦後も発展し、円や矩形、線などを用いることで独特のリズムとバランスのある画面構成が生まれます。
「幾何学的抽象」
タイポグラフィは、活版印刷とともに発展した、文字の視認性や読みやすさを追求する技法です。
グラフィックデザインにおいて文字は直接的な情報伝達手段として重要な役割を果たし、効果的なコミュニケーションを実現します。
第一次世界大戦後の国際的な需要やバウハウスでの実用的な書体研究が、タイポグラフィの進化と可能性を広げました。
「タイポグラフィ」
イラストレーションは情報伝達の基本的な手段として、写真が登場しても多様な表現力と自由さにより引き続き利用されています。
戦後、映画ポスター制作では写真がより多く用いられるようになっていった一方、西ドイツでは芸術性を重視したイラストレーションも高く評価されました。
ハンス・ヒルマンやハインツ・エーデルマン、セレスティーノ・ピアッティらの作品が紹介され、イラストレーションの独自の可能性が再認識されています。
「イラストレーション」
「イラストレーション」
展覧会をしめくくる最後の章は、写真です。写真は1830年代末に西欧で誕生し、フランスとイギリスが主要な役割を果たしました。
20世紀に入るとアメリカ、ドイツ、ソ連が台頭し、前衛芸術運動の中で実験的な表現が追求され、バウハウスではラースロー・モホイーナジがフォトグラムを考案しました。
戦後は広告やフォトジャーナリズムの隆盛と共に、写真はグラフィックデザインの重要な表現手段として幅広い分野で活用されるようになりました。
「写真」
「写真」
デュッセルドルフ在住のグラフィックデザイナー、イェンス・ミュラー氏とカタリーナ・ズセック氏が収集した、日本初公開となる「A5コレクション デュッセルドルフ」から、貴重な資料を展示する本展。モダニズムの精神を受け継ぎながら、新たな表現を模索したデザイナーたちの軌跡をご覧ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年3月7日 ]
※全てA5コレクション デュッセルドルフ蔵