【野球ごはん⑥】水分補給について≪令和版≫
なぜ、練習中に水分補給が必要なのか?
私たち「ヒト」は、体温を一定に保つことができる動物です。練習などで体を動かすと、体温が上がります。体温が上がると、私たちは汗をかいて、体温が上がりすぎないように調整します。体温が上がりすぎると、頭痛、けいれん、意識を失ってしまうからです。汗の材料は、体の水分です。汗をかけば、体水分量は減ります。体水分量が減りすぎると、汗をかけなくなります。このため、私たちは汗の材料となる水分を補給し、体温を調整します。
体重から約2~3%の水分を失っただけで、運動能力が低下すると考えられています。また、食欲が出にくくなったり、疲れを感じやすくなったりします。
練習中にこまめに水分を補給していても、足りているのか、足りていないのか、分かりにくいと思います。そこで、練習前、練習後に体重をはかってみましょう。この差は、ほとんど汗によって失われています。この差が、練習前の体重の2%以内になるように水分補給量を調整します(例1)。
発汗量は環境や個人差が大きいです。練習前後に体重測定することで、体調を確認しやすくなると思います。
起床時から水分補給は始まっている
気温が上がると、「練習中、水分をこまめに補給しているのに、体がつります。これ以上飲むと、お腹がタポタポで気持ち悪くなります。どうしたらいいですか?」という相談が増えます。私は選手に、「朝起きてから、練習が始まる前までにどのくらい水分をとっていますか?」と、質問すると選手から「食事でお茶をコップ1杯飲んでいる。食事以外では飲んでいない」と答えます。選手からよく聞く回答です。普段の水分補給量が少ないように私は感じます。
個人差がありますが、起床時(睡眠中に)にコップ1杯~2杯分の水分(汗・尿)を失っていると考えられています。つまり起床時は、少し脱水しているのです。水分補給は、食事の時だけでなく、授業の合間などこまめに水分をとらないと、体水分が回復しません。結果、練習前から少し脱水している状態で練習を始めることになります。この状態で、練習中に水分を補給しても体水分の回復が追いつかない、脱水状態を解消できず、体がつったり、しびれたりします。
(表1)の通り、練習中の水分補給は目安量が示され、練習中の水分補給はうまくできるようになっています。しかし、練習中に水分をとれていても体がつるのは、起床後から練習が始まる前までの水分補給量が足りないために、体がつってしまうのではないかと思います。
練習中の水分補給は、水? スポーツドリンク?
汗をなめると少し塩の味(しょっぱい味)がしますね。汗、つまり体の水分は水だけでなく、ナトリウム、カリウムなどの電解質を含んでいます。汗の材料となる水分を補給する時は、水だけでなく、電解質もいっしょに補給する必要があります。スポーツドリンクは、水と電解質を含んでいますので、練習中に利用したいドリンクです。
補給したスポーツドリンクは、腸から吸収されまず。つまり、速やかに体内へ吸収するには、胃から腸への移動を速やかに行わなければなりません。理想の濃度は、塩分0.1~0.2%です。多くのスポーツドリンクは、電解質だけでなく、エネルギー(炭水化物)も同時に補給できるように考えて作られています。速やかに吸収できる炭水化物(糖質)濃度は、3~8%です。多くのスポーツドリンクは、これらの塩分、糖分濃度になっています。ドリンクのラベルには、(例2)のように表記されています。選手によっては、薄めたい場合もあると思いますので、薄めすぎないようにラベルをみて、濃度を調整してください。
また、ドリンクは冷えている方が胃から腸への移動が速いです。冷蔵庫に入れて冷えている温度(5~15度)が目安です。冷えているとお腹を壊しやすい選手は、冷やしていなくても結構です。体調に合わせてください。
スポーツドリンクは、水、砂糖、塩を混ぜ合わせて作ることができます。(例3)を参考にしてください。
ただし、作ったその日のうちに飲み切ってください。余っても、もったいないからといって翌日も使うのはやめてください。雑菌が増えて、下痢などを起こしやすくなるからです。
水分だけでなく、野菜、いも、海そう、果物もとりましょう
「練習中にスポーツドリンクをとっているけれど、体のつりが解消できない。授業の合間も水分をとっている」と相談を受けることがあります。私は「野菜や海そう、果物を食べていますか?」と、聞くと、「食べていない、食べる量が少ないかも知れない」と選手は答えます。
汗は、水分だけでなく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛なども含まれています。これらは、野菜、いも、きのこ、海そう、果物などに多く含まれています。水分をとるだけでなく、これらの食品から栄養素を補給することも大切です。
(表2)は、1日の体内の水分の摂取、排出量です。
摂取の項目に「食物の水分」と書かれています。食物にもたくさんの水分を含んでいますし、カリウム、カルシウムなどの栄養素も含んでいます。水分補給は、「水分をとる」ことだけではなく、「食べることも水分補給」です。
豚汁やミネストローネなどの具だくさん汁や、バナナジュース、スムージーなどを利用すると、水分と一緒に野菜や果物などをとることができます。
上村香久子
(うえむら・かくこ)
管理栄養士、調理師。1974年、京都府生まれ。中学生の頃にプロ野球ファンになり、スポーツ現場で働く栄養士を目指す。現在、中学、高校、大学野球をはじめ、サッカー、バスケットボール、バレーボール、駅伝チームなど全国各地のスポーツ選手たちへ栄養指導、レシピ提供などを行っている。また、公益財団法人全日本柔道連盟科学研究部員として合宿、オリンピックに帯同し、柔道選手をサポートしている。神奈川工科大学客員教授。