能登半島地震 被災地の復興を願いタスキドール チャリティービュッフェ開催 24年10月号
フランス料理のシェフたちの団体“クラブ・デュ・タスキドール”。技術の継承とともに、フランス料理を通した社会貢献にも取り組むタスキドールが6月末、チャリティービュッフェを開催。11名のシェフたちが腕をふるった。
「タスキドール」すなわち「金のたすき」と名乗る団体、「クラブ・デュ・タスキドール」。たすきを繋ぐように、過去・現在・未来へとフランス料理の技術と哲学を継承するとともに、日本各地の生産者とシェフ達を繋いでいこうという思いも名前に込められている。そんな理念を掲げて2019年に設立されて以降、さまざまな地方の食材をテーマにした食事会や講習会を開催してきた。過去には石川県とタッグを組んだこともあった。
こうした経緯もあり、1月の能登半島地震で、縁のある生産者を含む多くの人達が罹災したことにタスキドールのシェフ達はひときわ心を痛めてきた。そして会長の上柿元 勝さんが、「できる人が、できることを、できるタイミングでやろう。炊き出しに行ける人は行く。行けなければ仲間とイベントを開き、集めたお金を寄付すればいい」と牽引。チャリティイベントを早い時期から企画し、4月には大阪のリーガロイヤルホテルで大規模なディナーを開催した。
充実の料理でもてなす特別なビュッフェスタイル
今回紹介する6月末開催のチャリティービュッフェは、それに次ぐ被災地応援イベントだ。参加した11名のシェフたちは若手から大ベテランまで年代は幅広いが、フランス料理の技術の確かさは皆、折り紙つきである。
会場は大阪の中之島美術館1階に立地する「ミュゼカラト」。同店のオーナーシェフで、今回の仕切り役を務めた唐渡 泰さんによると、来場者は146名。チケットは発売2日で売り切れたという。
唐渡さんの料理。「野菜の大遊園地」と名付けら
れた、彩りも美しいさまざまな野菜と、石川県産牛ロース肉のローストビーフ。野菜を多く添えるのは「野菜の美食」を謳う唐渡シェフのスタイル。たっぷりの野菜が盛られた銀盆は圧巻の存在感。
そんな高い期待を抱いて集まったお客様達が、「予想を遥かに上回る」と驚き喜んだのが、シェフ達それぞれ1品ずつ担当した料理。どの料理もコースの一品としても通用する完成度と手のかけ方だった。当日は各店からマネージャークラスのサービススタッフも多数集結。ドリンク提供や皿類の下膳でスマートに動き、快適な空間を維持。「こんなに楽しくておいしいビュッフェは初めて」とお客様の満足を引き出した会になった。
らスズキのパイ包み焼き(林 啓一郎さん)。
コーンとフォワグラ(小霜浩之さん)。
パテ・ド・カンパーニュとフォワグラ(佐々木康二さん)。来場客全員が全品食べて大丈夫な量の料理を、各シェフは用意した。
「行動すること、結果を出すこと、そして継続することが大事」と上柿元さん。タスキドールはこれからも能登半島地震チャリティーイベントを続けていく。
ビンゴ大会は大盛り上がりを見せた。自社の製品や縁のある素材など、シェフ達がさまざまな景品を持ち寄り、50名以上のお客様が何らかの品を獲得できた楽しい時間。最後は会長の上柿元さんとのジャンケンで、今回参加したシェフ達全員のサイン入りの額の当選者が決められた。
イベントでは能登半島の野菜、肉、魚、お酒、調味料が用いられた。
公益財団法人いしかわ農業総合支援機構の奥谷内文子さんも駆けつけて登壇。能登半島の産地の現状の説明や、産物のアピールを行なった。
ゲストを魅了したシェフたち渾身の11品
会長の上柿元さんのほか、関西から8人、東京から2人のトップシェフたちが参加した今回のイベント。名だたる実力派シェフ達が、「ビュッフェ形式だけれども、店で実際に出しているのと同等のクオリティの料理を」という意気込みのもと料理を作った。その内容は、王道クラシックあり、モダンな仕立てありと、実に多彩。どれも手の込んだ、かつそれぞれのシェフらしさが発揮されたものだった。
当日は、シェフ達自らブースに立ち、お客様と会話を交わしながら料理を手渡すスタイル。素材や料理の見どころに加え、能登半島への想いを共有しながら、料理を楽しむ場になった。
上柿元 勝 クラブ・デュ・タスキドール
牛肉の赤ワイン煮込み ポンムピュレ添え
フランス料理の継承を重視するタスキドール会長らしく、上柿元さんは「これぞフランス料理!」と呼ぶべき一品を準備。じっくり煮込んだ鹿児島県産の牛頰肉と、フォンと肉の旨み、ワインの酸味が立体的な味を作るソースの組合せに、誰もが笑顔になる。ごく軽くカレー粉を香らせたマッシュポテトと共に。
小峰敏宏 アトリエ・ド・コンマ
大阪産“兎龍月夜”と初夏の野菜レモン風味
野菜料理の名手として知られる小峰さん。カブ、ミニニンジン、スナップエンドウ、ソラマメ、ズッキーニ……色とりどり、味わいも多彩な時季の野菜を繊細に加熱し、風味しっかりとを引き出す。大阪で飼育されている食用ウサギ「兎朧月夜」は、しっとりとした仕上がり。コクのあるジュが野菜とウサギをまとめる。
太田昌利 リーガロイヤルホテル
石川県阿岸の七面鳥とドライフルーツのバロティーヌ トリュフのビネグレット
輪島市の阿岸(あぎし)地区で大村正博さんが育てる七面鳥は、ストレスのない環境での飼育を反映し、肉の旨みが豊かで伸びやか。太田さんは前々からこの七面鳥を好んで使ってきた。今回は罹災した大村さんから特別に仕入れ、フランス料理伝統のバロティーヌ仕立てに。渾身の一品で能登へエールを送った。
佐々木康二 プレスキル
パテドカンパーニュと鴨のフォアグラコンフィ デュカの香り
パテ・ド・カンパーニュとフォワグラのコンフィを重ね、四角く切り出した一品。肉の凝縮した旨みと、フォワグラの上質なコクを一緒に楽しむ贅沢な仕立てで、佐々木さんの高い技術が光る。クミンやコリアンダーを合わせた中東のミックススパイス「デュカ」のエキゾチックな風味が、主役を引き立てる。
渡辺雄一郎 ナベノイズム
プロヴァンス風ガスパチョ カフェフランセ風
フリーズドライフランボワーズとサフラネしたライスパフ、能登いしりでマリネした炙りアオリイカを浮かべて
夏の定番ガスパチョを豪華に仕立てた渡辺さん。サフラン風味のライスパフを浮かべたのは、パエリヤのイメージ。フリーズドライのフランボワーズの華やかな風味と酸味がアクセントとなる。能登のイカの魚醤「いしり」で味付けしたアオリイカもトッピングされた、ガストロノミックなガスパチョ。
唐渡 泰 リュミエール
石川県産牛ロース肉のロティ バターを使わない現代風ベアルネーズソース
野菜の大遊園地とご一緒に
普段から「野菜の美食」を掲げる唐渡さん。スペシャリテである、たっぷりの温野菜を盛り合わせた「野菜の遊園地」を、石川県産の牛肉のローストビーフを組み合わせた。軽やかなベアルネーズと、色鮮やかな野菜のピュレを添える。
滝本将博 ラ ビオグラフィ
冷製青豆のクレーム ジャガイモヴルーテ ロイヤルキャビア
軽やかで洗練されたフランス料理で知られる滝本さん。今回は季節感あふれる、口あたりなめらかな料理を作った。器の底に、青々とした風味が魅力の青豆のクレームを盛り、ジャガイモのヴルーテを流し入れる。ジュンサイとキャビアを仕上げにのせ、青豆の枝を飾り付け。見た目も味も、上品で奥行きある一品。
小楠 修 ルポンドシエル
ヒラマサの薪火焼き スパイス香る人参のクーリー
大阪が誇るグランメゾン、ルポンドシエルを率いる小楠さん。コース料理で提供するような、モダンで美しい皿を披露。しっとりと火入れしたヒラマサは、薪で燻した香りが魅力。ここに、スパイスをきかせたニンジンのクーリをかけて覆う。キウイとセロリのチャツネを添えた、フルーティーな仕立ても印象的だ。
小霜浩之 真白
京都 舞コーンのプリンとフォワグラのかき氷
花火、あるいは大輪の花を思わせる美しいビジュアルは、能登の皆様に元気を出してほしいという小霜さんの思いから。京都産の真っ白いコーン「舞コーン」のプリンに、フワフワなフォワグラのかき氷をのせた。フォワグラが口の中で溶け、上質なコクが広がったところに、コーンのみずみずしい甘さが重なり、まさにここでしか体験できない味を生む。
大東和彦 シナエ
サクラマスを詰めた花ズッキーニ
ズッキーニの花にサクラマスのムースを詰め、フライにする。そこにケンサキイカのタルタルを盛り付けた、美しくおいしい一皿。大東さんが毎年初夏に提供しているスペシャリテだ。ムース入りズッキーニは会場で一つずつ丁寧に揚げて、サクラマスの香りが立ち上る最高の状態でお客様に提供する。
林 啓一郎 フォションホテル京都
能登スズキのアンクルート 柚子の香る海藻バターソース
林さんが手掛けたのは、まさに古典的フランス料理の王道、スズキのパイ包み焼きとバターソース。今回は能登のスズキを用い、能登のワカメをソースに入れ、さらに能登のイカで作る魚醤「いしり」を味付けに活用。ソースはユズでも風味づけしており、しっかりとしたコクの中で、和の酸味が爽やかな印象を作り出す。
text: Cuisine Kingdom photo: Katsuo Takashima
関連記事
フランス料理5団体 座談会 連帯して未来を拓く 24年8月号
日本のフランス料理界をつなぐ「クラブ・デュ・タスキ・ドール」の総会・懇親会開催!
被災地のシェフが、仲間と共に考える復興「輪島と能登のこれから」。「ラトリエ・ドゥ・ノト」池端隼也さん
大ピンチを大チャンスに。料理人が描く「復興」に向けて「一本杉川嶋」川嶋亨さん