川崎区桜本 在日高齢者、2年ぶり交流 京都・ウトロから 農楽や民謡
在日コリアンが集住する京都府宇治市のウトロ地区に住む「オモニ(お母さん)」と呼ばれる高齢女性らが5月21日、同じく在日が多く住む川崎区桜本を訪問。市ふれあい館の高齢者学級「ウリマダン」に集う在日コリアンのハルモニ(おばあさん)と交流を深めた。
2023年6月、桜本のハルモニがウトロ地区を訪れ、「ウトロ平和祈念館」や21年夏に発生した放火現場などを見学したのが交流の始まり。その際、差別や苦労を互いに分かち合い、「負けないで生きていきまょう」と声を掛け合った。別れ際「必ずまた会いましょう。今度は桜本で」と約束し、2年ぶりの再会が実現した。
交流施設「みんなの家」で行われた交流会に、桜本のハルモニは民族衣装チマ・チョゴリを着用して出迎えた。「待ってました」「ようこそ」と歓迎の言葉を掛けた。石日分(ソクイルブン)さん(94)は、86歳までパチスロの景品交換で働いていた半生や高齢者クラブ「トラヂの会」との出合い、桜本のハルモニを追った映画「アリランラプソディ」に出演できた喜びなどを原稿にしたためて読み上げた。
ウトロ側はそろいのTシャツ姿で交流会に出席。あいさつを行った金真木子(キムチルモッチャ)さん(84)は「人生で第3の青春を迎えている。小中学校9年間で2年しか学校に行くことができなかった。生きている中で修学旅行ができた。ふれあうことができてうれしい」と笑顔を見せた。
ともに極悪な生活環境の中、同胞同士で助け合いながら生活してきた歴史を持つ。ウトロは太平洋戦争中、京都飛行場建設のために集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成。88年まで上水道もなく、地下水をくみ上げて生活を送っていた。立ち退きも迫られ、裁判で敗訴しながらもまちを守り抜いた。3年前にオープンしたウトロ平和祈念館をめぐっては会館前に放火で展示予定品が焼失した事件が発生したが、オモニたちは「正しい歴史を伝えることが大事」との思いを強め、開館を後押した。
桜本は隣接する池上町に在日コリアンが集まり生活をはじめ、入江崎では旧正月に農楽のパレードが行われていた。指紋押捺拒否運動や金融機関の住宅ローン差別などに声を上げ権利を獲得。88年の市ふれあい館の開館にもつながった。ハルモニたちが戦争反対デモを行ったことを機にヘイトデモが行われたが、ハルモニたちが現場の最前線で対峙。ヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の条例制定につなげた。
交流会は、ウトロ農楽隊による伝統芸能・プンムルノリ(農楽)や桜本のハルモニたちによる朝鮮民謡、踊りで和やかな空気に包まれ、ともに再開を誓った。