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EVへの移行とエンジン部品の今(4)燃料チューブ

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EVへの移行とエンジン部品の今(4)燃料チューブ

本連載では電気自動車(EV)では不要となる、エンジン車特有の部品事業を取り上げている。4回目は燃料チューブに焦点を当てる。国内市場はマルヤス工業、臼井国際産業、三桜工業の3社が占める。生き残りに向け、新規事業と既存事業を強化する動きが活発になっている。

燃料チューブは3社による寡占市場

燃料チューブは、燃料タンクとエンジンをつなぐ役割があり、万が一漏れが生じれば人命にかかわるため耐食性と耐漏れ性が求められる重要部品だ。

図は燃料チューブの2022年の国内市場シェアを示している。マルヤス工業、臼井国際産業、三桜工業それぞれが3~4割を占める寡占市場だ。

トヨタとの取引が多いマルヤス工業

マルヤス工業がわずかにリードしているのは、国内生産台数が最も多いトヨタ自動車向けのシェアが高いためだ(トヨタ向けの比率は、マルヤス工業:臼井国際産業:三桜工業=8:1:1)。

マルヤス工業のグループ売上高は1316億円(2023年6月期)で、単体売上高の7割がトヨタ自動車向け。燃費向上に寄与するエンジン部品「EGRクーラー」が主力製品で、同製品の国内シェアは5割超と、こちらでも首位となっている。

臼井国際産業と三桜工業は配管が主力

日産自動車、ホンダ、スズキ、SUBARUなどの燃料チューブは、臼井国際産業と三桜工業の2社で分け合っている。

臼井国際産業は売上高1651億円(2023年12月期)、三桜工業は売上高1568億円(2024年3月期)とほぼ同じ規模。両社とも、自動車配管(燃料チューブだけでなく、ブレーキチューブ、燃料噴射管などを含む)が主力製品で、独立系サプライヤーでもあり、特定の完成車メーカーに依存しないバランスの取れた取引構成をとっている。

燃料タンク同様、素材の転換が進む

本連載2回目で取り上げた燃料タンク(EVへの移行とエンジン部品の今(2)燃料タンク)では、スチール製から樹脂製という素材の転換に対応するか否かで明暗が分かれ、市場シェアに変動が起きた。

燃料チューブについても金属から樹脂という素材の転換が起きている。車両軽量化につながるため、欧州ではすでにほとんどの車の燃料チューブが樹脂化されており、アメリカでも進んでいる。日本は遅れて樹脂化が広がっているようだ。日本で樹脂化が遅れている理由は、安全性重視や規制が関係しているとの指摘がある。

3社はいずれも金属を主力にしてきたが、今は樹脂チューブを製品群に取りそろえている。三桜工業は2013年に、樹脂チューブを手がける独ガイガー・オートモーティブを買収している。欧州自動車メーカーの取引拡大だけでなく、樹脂射出成形技術を取り込むのが狙いだ。

3社とも素材の転換に対応しており、燃料タンクのような市場シェアの変動は燃料チューブ市場ではほとんど起こっていない。

給湯器、FCV、データセンター……新規事業強化

EV化が進めば燃料チューブそのものの市場が縮小するため、それを埋め合わせようと3社は新規事業を強化している。

マルヤス工業は、自動車の吸排気系や燃料系部品で培った熱交換技術を応用し、太陽熱を活用した給湯システムを開発、今春に住宅向けに発売した。臼井国際産業は2018年に、中山アモルファスのトルクセンサー事業と燃料電池事業を譲り受けたほか、トヨタの燃料電池車(FCV)「MIRAI」には高圧水素配管を供給しており、次世代車への対応を強化している。三桜工業は成長が見込まれるデータセンター向けの水冷冷却装置など配管技術を生かした新規事業の創出を図っている。

三桜工業は既存事業を強化する戦略も

三桜工業は、既存事業の強化も打ち出す。自動車配管の既存市場に踏みとどまり続けることで取引優位性を獲得するとして「サンオー・ラストマン・スタンディング戦略」を2020年から掲げている。市場拡大が見込まれるインドやタイ、メキシコで生産能力を増強するほか、アメリカのビッグスリーとの取引を拡大し、自動車配管市場のグローバルシェアを拡大する方針で、残存者利益を狙っている。

文献
・総合技研「2023年版 自動車部品の納入マップの変化と現状分析」

・「自動車の製造と材料の話」広田民郎著(グランプリ出版)

・フォーイン「日本自動車部品産業年鑑2018」

・2024/03/25日本経済新聞電子版「車部品のマルヤス工業、太陽熱の給湯システム一般販売」

・2019/04/17日経クロステック「【ニュース解説】日本のクルマも樹脂配管で軽量化を ダイセル・エボニック、網干工場に多層樹脂チューブ押し出し機導入」

・2023/10/11日刊工業新聞「車部品各社、非車分野で多角化」

・2018/10/22日刊自動車新聞「〈インタビュー〉マルヤス工業 山田泰一郎社長」

・自動車部品 | マルヤス工業株式会社 (maruyasu.co.jp)

・集中配管 | 臼井国際産業株式会社 (usui.co.jp)

・・集合配管 | 三桜工業株式会社(sanoh.com)

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 池田 勝敏

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