3人の現役女性アイドルが語る松田聖子「青い珊瑚礁」まだまだ気づいてないたくさんの魅力
「青い珊瑚礁」には、まだまだ気づいていない魅力がたくさん
声量豊かでかつ、天に突き抜けるように伸びて行く松田聖子の声。
ああ〜〜
私の恋は〜〜
南の〜〜
風に乗って走るわ〜〜
サビ頭で始まるインパクト抜群のセカンドシングル「青い珊瑚礁」が世に出て、今年(2025年)の7月1日でちょうど45年になる。松田聖子はオリコン最高2位を記録したこの曲でブレイクを果たし、次曲「風は秋色」(1980年)から「旅立ちはフリージア」(1988年)まで、24作連続オリコン1位という記録を打ち立てた。
そう、80年代女性アイドル歌謡は、この曲から始まったと言っても過言ではない。
「青い珊瑚礁」
これまで数え切れないほどの評論・分析がなされてきたし、語り尽くされた感もある。しかし、まだまだ気づいていない魅力がたくさんありそうだ。
New JeansのHANNI(ハニ)が東京ドーム公演で「青い珊瑚礁」をカバー
そう感じたのは昨年(2024年)6月、K-POPグループ・New Jeansのハニ(HANNI)が東京ドーム公演でこの曲をカバーして大きな反響を呼んだときだ。ハニが「♪ああ〜」と歌い出した瞬間、ドーム全体がどよめき、盛り上がりは最高潮に達した。その余波はものすごく、韓国の主要音楽チャートでも「青い珊瑚礁」が検索1位になったという。40年以上も前の曲なのに、だ。
ハニは2004年生まれで、現在20歳。そういえば、FM番組『Flip The Records〜B面でも恋をして〜』で私と共演している元BEYOOOOONDSの島倉りかさんも、今年6月、日本武道館で行われた卒業公演で「青い珊瑚礁」を歌うシーンがあり、やはり客席からは大歓声が上がった(私も上げた)。聖子ファンの島倉さんは2000年生まれ。現在24歳で、彼女が生まれる20年前の曲だ。
10代・20代の女性たちにもよく知られていて、今なお現役アイドルたちもカバーしている「青い珊瑚礁」。なぜこの曲は半世紀近い年を経ても古びず、若い女性たちにも支持されているのだろうか?これはもう、直接リサーチしてみるしかない。
3人の現役女性アイドルが語る「青い珊瑚礁」の魅力
ということで今回、3人の現役女性アイドルにお願いして「青い珊瑚礁」および “アイドル・松田聖子” の魅力について語ってもらった。3人とも「青い珊瑚礁」をステージなどで歌った経験があり、80年代は生まれる遙か前、リアルタイムでは知らない世代だ。令和の女性アイドルはこの曲にどんなことを感じているのだろうか?
① 西城海音 さん
2023年8月にデビューした、完全王道アイドル路線を歩むユニット “リュミエールONE+” (通称:リュミワン)のセンター・西城海音(さいじょう まりん)さん。グループは現在、新展開を目指して一時活動を休止しているが、海音さんはソロでSNSでの動画発信を続けている。もともとアイドルが大好きで、ライブに通っているうちに自分もアイドルになってしまったという海音さん。この春大学を卒業したばかりの20代だ。
ーー「青い珊瑚礁」をステージで歌ったのはいつ?
去年、私の誕生日に “生誕祭ライブ” をやったんですけど、そのときに歌わせてもらいました。私の名前(海音)にちなんで、生誕祭のコンセプトが “海" だったんです。「青い珊瑚礁」は海が舞台の曲ですし、王道アイドルソングの代表なので。
ーー この曲はどうやって知ったんですか?
私が小さい頃、母がよく口ずさんでたんですよね。母は50代半ばで、聖子さんよりちょっと下なんですけど、よくテレビで昔のアイドル特集とかあるじゃないですか。そういうときに必ず出てくる曲ですし、母が当時の映像を観ながら一緒に歌うんです。それで自然と覚えちゃいました(笑)。あとこの前、友達と海に行ったんですけど、彼女も海辺でずっとこの曲を歌ってました。カラオケで歌う子も多いですよ。
ーー 実際に歌ってみて感じたことは?
音域的には簡単そうに感じるんですけど、実際に歌うと、細かいところがすごく難しくて。語尾のビブラートとか、母音と子音で音が変わるところとか、あと表現がすごく難しかったです。聖子さんの歌を聴くと、歌ってるんですけど、まるで語ってるように聴こえるんですよね。すごいなと思いました。
ーー この曲でいちばん好きなところは?
サビ前の「♪あなたが好き」っていうところですね。そのストレートさはすごく新鮮に感じます。今の曲って、わりと歌詞が多めで、比喩も多いじゃないですか。情報が多いので “それで、言いたいことって結局なんだっけ?” って(笑)。でもこうやってストレートに「♪あなたが好き」って言い切る歌詞って、歌っていても気持ちいいですし、なんか自分が若くなったような気がするんですよね(笑)
ーー 今でも十分若いのに?(笑)
もっと若いとき、少女の頃に戻った気がするんですよ。恋愛に対する、すごくピュアな気持ちを思い出させてくれる曲ですね。今でもそういう気持ちを込めて歌える聖子さんは、アイドルとして本当に尊敬します。
② 小林萌夏 さん
“会いにいけるオーケストラ・愛に生きるオーケストラ・アイドルオーケストラ” をキャッチフレーズに活動するユニット、“アイオケ” でボーカルを担当し、今年3月に卒業した小林萌夏(こばやし もか)さん。この春からはソロで活動中だ。1980年代のアイドルも大好きで、7月に出演するライブでは彼女にそっくりないとこ・ASNAも登場し、中森明菜の曲をカバーするという。もちろん聖子ソングも大好きな2001年生まれ、今年24歳だ。
ーー「青い珊瑚礁」はよく歌うんですか?
私の場合は、けっこうオーディションで歌うことが多いですね。歌ってて楽しいし、気持ちいいんですよ。冒頭の「♪ああ〜」のところからもう気持ちいい(笑)。自分の良さが出せるというか。
ーー この曲はどうやって知りました?
NHKの朝ドラ『あまちゃん』ですね(2013年4月〜9月放送)。挿入歌の「潮騒のメモリー」(註:劇中で小泉今日子、能年玲奈(現:のん)& 橋本愛らが歌唱)がすごく流行ったじゃないですか。あの曲って、私たちの世代が80年代のアイドルソングや、聖子さんの曲に触れるようになった大きなきっかけになったと思います。
ーー「青い珊瑚礁」の曲自体については、歌う側から見るとどうですか?
音数がわりと少ないイメージがありますね。最近の曲はめっちゃ音数が多くて、ラップみたいで歌いづらかったりするんです。だから最近は歌ってて気持ちいい曲って少ないんですけど、「青い珊瑚礁」はシンプルだし、私にとっては歌いやすくて、気持ちいい曲ですね。
ーー この曲で、特に好きな部分は?
サビの最後のところ、「♪ああ〜〜 青い風 切って走れ」の後の “♪チャーチャチャ” ってあるじゃないですか。あの部分が好きです(笑)。そこでひと呼吸置いて、力をためてから「♪あの島へ〜〜」とロングトーンで締めるのがまた爽快なんですよね。ここで “さあ行くぞ!” みたいな心構えができますし。ちゃんと息継ぎできるところもあるし、本当に歌い手のことをよく考えて作られた曲だな、って思います。
ーー 今もこの曲を “アイドルとして” ステージで歌っている聖子さんは、現役アイドルの萌夏さんの目から見ると、どう映りますか?
めちゃめちゃカッコいいし、綺麗だし、憧れですよね。そういえば聖子さんって、大学で学び直しをして卒業されたんですよね(註:2024年、中央大学法学部の通信課程を卒業)。常に夢があったり、やりたいことがある人って、いつまでもキラキラして美しいんだなって。私もそんなアイドルになりたいです。
③ 文坂なの さん
キャッチフレーズは “平成生まれ・昭和育ち”。懐かしくも新しい楽曲を歌うフリーランス・セルフプロデュースソロアイドル、文坂なの(あやさか なの)さん。事務所には入らず、マネジメントも自分自身。地元・大阪を拠点に全国各地でライブ活動中で、今年2月にはクラウドファンディングも使って、念願の1980年代アイドルのカバーアルバム『Lost & Found vol.1』をリリース。岡本舞子の曲など通好みの選曲に唸った人も多く、オリジナルの新曲も発表するなど、今注目のアイドルだ。
ーー「青い珊瑚礁」はステージでよく歌います?
ライブでも歌いますし、カバー動画もYouTubeにアップしています。
ーー 文坂さんはこの曲を歌ってみて、どこに魅力を感じますか?
昭和のアイドルソング全般に言えることだと思うんですけど、“切なさ” っていう部分がすごく私は好きで、その “切なさと甘さ” に魅力を感じます。歌詞とかも結構シンプルだと思うんですけど、ひとつひとつのフレーズが結構繊細なんですよね。ときめきと不安とか、ノスタルジーみたいな感じがすごくいいなって思います。
ーー 歌詞がシンプルで繊細なだけに、表現力も要求される曲ですよね。
そうですね。歌い出しの「♪私の恋は〜」とか、Aメロとかもシンプルな分、ちゃんと気持ちを込めて歌わないと伝わらないんですよね。そこは歌っていて結構難しいな、と思いました。でもメロディーラインとか、すごく美しいんですよね。いろいろ計算されて作られてるな、って感じました。
ーー “曲の完成度がすごい” というのは、1980年代のシティポップを聴いた若いリスナーもよく口にする言葉ですけど、文坂さんも80年代のアイドルソングに同じことを感じますか?
正直、技術的には今の方が機材が発達していますからいろいろなことができますし、いい曲もいっぱい生まれてますけど、やっぱりシンプルだけど胸に残るのは80年代の曲なんですよね。なんか、ないものねだりみたいなところがあって、私は80年代とか昭和の時代に生まれていなかったので、憧れとリスペクトみたいな感じで(その時代を)ずっと追い求めてるんです。でも、見たことがない世界のはずなのに、なぜか懐かしさを感じたりすることがあって。
ーー それは面白いですね。曲の中にあるノスタルジーに、文坂さんが共感しているからかもしれないですね。
ただ懐かしいだけじゃなくって、聖子さんの曲や、同じ時代のアイドルソングを歌ったりするときに、まだ見ぬ世界に触れる感動、みたいなのもありますね。
ーー リアルタイムで見てきた立場から言うと、1980年に山口百恵さんが引退して聖子さんが登場した時点で、アイドルシーンって明らかに様相が変わったんですね。で、今のアイドルって、その源流をたどっていくと聖子さんに行き着くんじゃないかと思うんですよ。文坂さんはどう思います?
本当にそうだと思います。私は明菜さんも大好きなんですけど、聖子さんはアイドルの代名詞というか “ザ・アイドル” って感じますね。
ーー 聖子さんの歌を聴いていて、何か思うことはありますか?
聖子さんってすごく軽やかに歌ってるのに、全部の音にちゃんと感情がこもっていたりとか、可愛さだけじゃなくて、しっかりと芯がある歌声にすごく憧れますね。あとなんだろう… “無重力感” みたいな? どんな声もスッと出せるのがすごいなって思います。
未来のアイドルにも歌い継がれる「青い珊瑚礁」
3人の話を聞いて改めて感じたのは、「青い珊瑚礁」が楽曲として非常に完成度が高い曲だということ。そして、松田聖子という歌手の魅力を最大限引き出すために作詞家・作曲家・編曲家(三浦徳子・小田裕一郎・大村雅朗)と制作スタッフがありったけの知恵を絞り、聖子もそれに期待を上回る高いレベルでその思いに応えたということだ。だからこそこの曲は、45年経っても聴き継がれているのだろう。
そして時代がいくら変わろうと、好きな男性に対して「♪あなたが好き」と思うピュアな女性心理に変わりはない。リリースから100年後=2080年にも未来のアイドルがこの曲を歌っている画が私には見える。この目で確かめたいので、誰かタイムマシンか不老長寿の薬を作ってください(笑)
Information
▶ 西城海音(リュミエールONE+)
X:https://x.com/_marin0818
▶ 小林萌夏
7月4日(金)サマーアイザワールド2025 @新宿NINE SPICESに出演
チケット情報:https://t.livepocket.jp/e/vlxly
▶ 文坂なの
80年代アイドルカバーアルバム『Lost & Found vol.1』好評発売中
公式サイト:https://ayasaka-nano.bitfan.id