Yahoo! JAPAN

京都旅に出る前に読みたい本、お供にしたい本 ~本のプロが厳選「京都本大賞」「京都ガイド本大賞」とは~

京都観光Naviぷらす

京都を題材にした本や雑誌はこれまでも多数出版されてきましたが、近年一層高まる京都人気に伴い、その刊行数は増加の一途。今や書店に設けられた“京都本コーナー”も当たり前の光景となりました。


そんな京都本に毎年「京都本大賞」が贈られていることをご存知でしょうか。


今回は「京都本大賞」、そして「京都ガイド本大賞」「京都ガイド本リピーター賞」について掘り下げていきます。SNSを駆使して旅の情報を集めることが主流となりつつある昨今ですが、紙のページをめくり、綴られた言葉がかもす古都の空気感、京都の個性をうつしたページデザインからイマジネーションを膨らませるのも楽しいものです。「京都本大賞」受賞作を携えて新たな京都旅の魅力を探ってみませんか。


「京都本大賞」は本が好きな一般読者も投票できる


「京都本大賞」は京都府内の書店や出版業界の活性を目的に2013年からスタートしました。主催は京都府書店商業組合の委員である「ふたば書房」「大垣書店」「恵文社」などの書店や、出版社、出版取次会社の有志による「京都本大賞実行委員会」です。



選考基準は主に3つ。前年4月からその年の3月までの1年間に出版された本であること、京都を舞台にした小説(フィクション)であること。そして心に響くおもしろい本であることです。


「出版社と書店をつなぐ、いわゆる“取次さん”が、候補作品を集めてきてくれます。そこから歴史小説やノンフィクションなどを除くと35冊くらいになるのですが、毎年これだけの数が集まる都市は、東京を除いて他にないと思います。京都には不思議な魅力があるんでしょうね。」と話すのは、京都本大賞実行委員会 委員長・洞本昌哉さん。京都本の刊行数が多いからこそ「京都本大賞」が継続できる、とも語ります。


2024年、最終ノミネートに残った3作品。

候補作品は、実行委員会で手分けして読み、6作品に絞ります。それをさらに読み込んで最終ノミネートの3冊を選定します。9月上旬にこの3作品を発表し、一般読者の投票を募ります。


投票方法は2通りあり、書店の店頭にある投票用紙に書く方法と、京都府書店商業組合のWebサイトから投票する方法です。前者は5ポイント、後者は1ポイントとして、最もポイント総数が多かった作品に大賞が贈られます。


2024年「京都本大賞」は『スピノザの診察室』


2024年「京都本大賞」に選ばれたのは『スピノザの診察室』(夏川草介著、水鈴社刊)です。


『スピノザの診察室』表紙には白川に架かる石橋と柳。自転車が走る様も京都らしい。

京都市内の小さな病院で働く主人公が終末期の患者と向き合う日々を通して、人の幸せのあり方を問う物語です。全体に重いテーマではあるものの難解な内容ではなく、むしろ大学病院の凄腕医師という経歴をもちながら京都の餅菓子に目がないという主人公の飄々とした性格に親しみをもちます。また、彼をとりまく個性豊かな同僚医師たち、同居する甥と育まれるゆるやかな絆がストーリーに心地よい彩りをもたらしています。


著者は2009年『神様のカルテ』でデビューした夏川草介さん。今も現役医師として命を見つめ続ける著者ならではの言葉、表現も読みどころです。


受賞した夏川さん(右)に、盾を授与する委員長の洞本さん(左)

「京都本大賞」の特筆すべきは京都を舞台にした本の多さもそうですが、最終選考の審査が一般読者にあるということではないでしょうか。
「本屋大賞」や「マンガ大賞」、ご当地ものであれば「広島本大賞」「大阪ほんま本大賞」など、数ある本大賞のほとんどは書店員や業界関係者が作品を選考する中で「京都本大賞」は“みんなで選ぶ”がモットー。全国の本好きが京都人に読んでほしい作品を選ぶ“読者参加型”が嬉しいところです。


投票してみたい! という方は例年9月、京都府内の書店店頭や京都府書店商業組合Webサイトにご注目ください。

京都府書店商業組合 https://books.gr.jp


ガイド本から読み解く京の魅力


小説(フィクション)だけでなく、全国の書店には京都のグルメ、名所の情報を満載したガイドブックも多数並びます。そこで「京都本大賞」のスピンオフとして2014年に生まれたのが「京都ガイド本大賞」です。さらに、翌年、何度も京都を訪れる方に読んでほしいガイド本として「京都ガイド本リピーター賞」も誕生しました。


「京都ガイド本大賞の選考基準は、京都に初めて来る人が読んでもわかりやすいこと。基礎編に近いですね。京都ガイド本リピーター賞は、あるテーマについてより詳しく解説・掲載した、いわゆる応用編のようなものです。内容の良さはもちろん、地図の表記など間違った情報が掲載されていないかなどもチェックしています」と洞本さん。各書店員は“自信をもっておすすめしたい1冊”を意識して投票するそうです。

2024年「京都ガイド本大賞」は、『POPEYE特別編集 僕が京都で行くところ。』


『POPEYE特別編集 僕が京都で行くところ。』表紙にはあの名店のコーヒーが。

2024年「京都ガイド本大賞」に選ばれたのは『POPEYE特別編集 僕が京都で行くところ。』 (マガジンハウス刊)です。


同誌は、月刊誌「POPEYE」に掲載された京都特集に、新たな記事をプラスし、再編集された別冊版。164ページにもわたって“京都のいい店、うまいもん”が詰め込まれたシティガイドです。


「女性をターゲットとしたガイド本が多い中で、“僕”を主人公に展開したところがポイントだと思いますね」と洞本さんはコメントします。


確かに同誌には「スイーツ」や「かわいい物」といった類は影を潜めていますが、そのぶん京都の庶民的な食、住まう人、日常に息づく伝統やカルチャーにフォーカスし、テーマごとに深掘りしたような誌面です。


「下見、取材、撮影など、トータルで約1ヶ月間京都に滞在し、くまなく歩いてセレクトしました」と話すのはマガジンハウス 編集者・柳澤耕平さん。その言葉通り、何気ない風景写真からは暮らす人の目線が感じられる、穏やかな空気をまとった情報誌です。


2024年「京都ガイド本リピーター賞」は、『京都昼の100選 最新版』


カバンにも入れやすいコンパクトサイズの『京都昼の100選 最新版』

「京都ガイド本リピーター賞」受賞の『京都昼の100選 最新版』を制作したクリエテ関西 編集者・足立琴音さんも“京都の空気感”は意識したといいます。


「本の冒頭に京都在住の小説家・いしいしんじさんのエッセイを掲載し、日々、京都で過ごしている方の“肌感覚”のようなものを表現しました。これまでの100選シリーズとは少し異なる、カジュアルさが出せました」と語ります。


『京都昼の100選 最新版』は、グルメ月刊誌「あまから手帖」編集部が毎年刊行する「100選シリーズ」の1つ。懐石料理の名店から人気の京都中華、洋食やイタリアン、そしてカレーや昼飲みができる店まで、“京都の昼”にスポットをあてた珠玉の100軒が掲載されています。


同編集部のこだわりは「実際に食べた店のみを掲載する」こと。取材前にきちんと足を運び、実際に食べ、接客などを見て掲載店を検討します。素性は明かさず、あくまで一客として訪れ、店のありのままの姿を見て吟味します。


そうして選ばれた100軒ですから、「あまから手帖」編集部のお墨付きと言っても過言ではなく、これさえあればもう京のランチは迷わない心強い1冊なのです。


おもしろい街におもしろい書店あり。書店員との交流も楽しんで


“活字離れ”と言われて久しいのですが、この3賞に選ばれた本・雑誌は、発表後売れ行きが上がるといいます。


「本の売り上げが伸びるだけでなく、制作時には取材等で必ず京都を訪れてくれるし、本ができあがってからも読者が聖地巡礼で訪れる。さらに映画化、アニメ化となればその限りではありません。京都本をきっかけに京都の大学へ進学したという学生もいましたよ。本によって広がる世界、影響力は底知れず、だからこそ書店は京都本大賞を通じておおいにPRしていかないと!と思っています」と洞本さんは力強く話します。


京都本大賞実行委員会 委員長・洞本昌哉さん。授賞式を終えて。

京都は古くから本好き、読書好きを支えてきた土壌があり、ユニークな書店も多いといいます。


「京都は大学の街ですから、先生や学生向けに本や教科書を売る小さな書店が今も多い。そうした本屋さんは、お客さんの個性に合わせた品揃えですから、おのずと書店も個性が出てきますね。どの本屋へ行っても似たような本棚があるのではなく、そのエリアの、お客さんに合わせたオリジナリティ溢れる書店や古書店です。これも京都の魅力です。
そうした店で本と出合うだけでなく、ぜひ書店員とも話してほしいですね。読みたい本が見つからない方はなおのこと聞いてみてください。京都本大賞も話題にしてもらえたら嬉しいです」と洞本さんは微笑みます。


京都はそこかしこに歴史や伝統が深く刻まれた小さな街ですが、日々、学生や若い職人などの新しい感性が生まれ行き交う場所でもあります。そうした環境でおのずと書店や売り手も個性が磨かれていくのでしょう。おもしろい街に、おもしろい書店あり。京都を訪れたら、本屋さんにも足を運んでみてください。


主催である実行委員会のメンバー。京都本大賞を機に仲間が増え、情報交換も活発に。


記事を書いた人:五島 望


東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. モバイルSuicaなど様々なデジタルサービスのIDを統合 JR東日本

    鉄道チャンネル
  2. 本を読もうとしたら、犬が…書見台ならぬ『書見犬』になる光景が可愛すぎると2万いいね「湯たんぽ機能付きw」「うちにも欲しい」羨望の声も

    わんちゃんホンポ
  3. 落第忍者乱太郎のデザインマンホールを探しに!由来となった『久々知須佐男神社』も参拝 尼崎市

    Kiss PRESS
  4. 組織への貢献意識で20歳代と40歳代以上に「年代の壁」 世代間ギャップが浮き彫りに 民間調査

    月刊総務オンライン
  5. 「結構エアコン使って」前年と比べて上がっていた電気料金を公開「1月2月はヤバそうです」

    Ameba News
  6. Palette Parade、新たな挑戦への一歩を踏み出した<パレちゃレ!4 PART1>

    Pop’n’Roll
  7. 不安障害治療において不安をめぐる「思考と行動の悪循環」から抜け出すのが目標なワケ【心の不調がみるみるよくなる本】

    ラブすぽ
  8. 神戸須磨シーワールドで『海の生きもの』について家族で学ぶイベントが開催されるみたい。シャチ・イルカ・ペンギンなど

    神戸ジャーナル
  9. 【新宿駅西口】藤子・F・不二雄先生も通った純喫茶「ピース」のホットケーキとブレンド珈琲 / 駅前の気になる店に行く

    ロケットニュース24
  10. ふれあい囲碁・将棋大会 睦合西公民館で1月26日

    タウンニュース