感情の間の「つなぎ」に使う?「いら立ち」が物語にもたらす人間らしさとは【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】
NO.09 いら立ち【いらだち】[英:Annoyance]
【意味】
思い通りにいかず、気をもむこと。
【類語】
焦り 鬱憤 焦燥 短気 むしゃくしゃ 不服 鬱積など
体(フィジカル)の反応
冷たい態度をとる体に力がこもる鼓動が速くなるこめかみが痛いいら立ちのあまりわななく耳鳴りがしてくる眉間にしわが寄るじっとしていられない胸のあたりに苦しさを感じる手元が狂う表情が険しくなる舌打ちする鼻息が荒くなる鋭い目つき歯ぎしりをする頭に血が上る
心(メンタル)の反応
ふてくされる思い通りに物事を動かしたい虫の居所が悪い冷静さに欠ける反発心を抱く焦りを感じる不満が募るもの足りなさを感じるすべてを投げ出したいような気分気持ちが逸る威圧感が増す興が冷める余裕がなくなる心が荒むいじけて拗ねる前向きに考えられない
決定的なエモーションに到達するまでの小道具として
「喜び」や「怒り」に比べると、「いら立ち」は微細な感情の動きです。劇的に人を豹変させるような喜怒哀楽とは明らかに一線を画します。「歯ぎしりをする」「冷静さに欠ける」「いじけて拗ねる」と、心身の反応も何だか地味です。
それゆえに見逃しがちな感情語彙ではありますが、プロの書き手は「いら立ち」の使い方に長けているもの。
その用途はズバリ、感情変化の〝予兆〟や〝つなぎ〟です。怒る前の段階的な感情の昂りにおいて、まず「いら立ち」を導入として描けば、激怒までの流れが自然になります。繰り返し些細な「いら立ち」を募らせて、最終的には諦めるというのも、人心のたどるメンタルパターンとして納得できます。
つまり決定的なエモーションに到達するまでの小道具として使えば、登場人物に人間らしい臨場感をもたらすことが可能となるのです。ひと手間加えた「いら立ち」表現を意識してみてください。
自分の日常の「いら立ち」場面を研究しよう
【出典】『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑』著:秀島迅