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赤ワインの銘産地「AOCメルキュレー」が制定100周年を迎え、記念夕食会を開催。その歴史を振り返る

ワイン王国

赤ワインの銘産地「AOCメルキュレー」が制定100周年を迎え、記念夕食会を開催。その歴史を振り返る

ブルゴーニュ、コート・シャロネーズを代表するワイン産地「メルキュレー」がアペラシオンの権利を獲得して100年を迎えたことを記念し、3月8日、約300人の関係者が出席して記念夕食会が開催された。会場に選ばれたのはボーヌから車で15分ほど南下したサン・ルー・ジェアンジュ村にある「ドメーヌ・ド・ラベイ・ド・マジエール」。マジエール修道院の伝統を受け継ぐ催事場兼宿泊施設で、2ヘクタールの敷地内に美しい庭園と庭がある。

古代ローマ人が持ち込んだブドウ樹を使ってメルキュレーでブドウ栽培が始まったのは9世紀ころと言われているが、現在のアペラシオン・メルキュレーの歴史は1923年5月29日にシャロン・シュル・ソーヌの裁判所が下した画期的な判決によって始まった。

フランスのAOC制度が確立されたのは1935年に「フランス国立原産地呼称機構」(INAO)が設立されてからであり、それ以前はアペラシオンの概念や権利が明確ではなかった。そのような状況下で、メルキュレー村のワイン生産者エドゥアール・ド・シュールマンとサン・マルタン・スー・モンテギュ村のアントワーヌ・ルソーが、近隣のリュリーやジヴリーの生産者がメルキュレーの名を不当に使用していると訴えた。裁判所はこの訴えを認め、同時にメルキュレーのアペラシオン(原産地呼称)の区画を正式に決定。これはブルゴーニュのアペラシオンの先駆的事例となり、その後のフランスのアペラシオン制度全体の発展に大きな影響を与えた。この時に定められたアペラシオンの範囲は現在も維持されている。

メルキュレー村とサン・マルタン・スー・モンテギュ村の2カ村にまたがるAOCメルキュレーのテロワールは極めて多様だ。ブドウ畑は北北東から南南西にかけて広がり、大きな谷で二分されていて、それぞれがさらに四つの小さな谷によって分割されている。このような地形の細分化により、区画が互いにかなり離れ変化に富みながらも類似した土壌が散在しているという特徴がある。

ジュラ紀に形成された多様な堆積物からなる土壌は、特徴的な下層土により5種類の主要な地質と10種類の石灰岩に区分される。第一のグループは深さ1.2メートル以下のコンパクトな石灰岩で、北部と南部に広がり、約270ヘクタールを占める。第二のグループは浅い石灰岩の礫で覆われた泥灰土が基盤で、約190ヘクタールに及ぶ。第三のグループは泥灰土や石灰岩の混合土壌で、深さ40センチから2メートルの間に広がり、赤や茶色の土壌である。第四のグループは粘土で構成され、深さ1.5メートル以上で石灰岩を含まない。残りのグループは深くて石灰岩を含まない土壌で、谷の両側に位置し、斜面の侵食によって形成されている。

総面積649ヘクタールの畑は、標高230メートルから320メートルの緩やかな斜面に広がっている。この地形がブドウに理想的な日照条件を与え、完熟したブドウを生み出し、同時に、冷涼な大陸性気候がブドウにフレッシュさと凝縮感をもたらす。

ピノ・ノワールが全体の85パーセント(543.17ヘクタール)を占め、シャルドネが15パーセント(105.83ヘクタール)。この比率が、メルキュレーが赤ワインの産地として特に有名である大きな理由だ。

メルキュレーの特筆すべき特徴として、全体の約25.58パーセントを占める166ヘクタールがプルミエ・クリュ(一級畑)に格付けされている点が挙げられる。プルミエ・クリュは赤ワインが約9割、148.22ヘクタール、残り白ワインが17.79ヘクタール。プルミエ・クリュに格付けされたクリマには、「クロ・ド・パラディ」「クロ・デ・バロー」「クロ・デ・グラン・ヴォワイヤン」「クロ・デ・ミグラン」「クロ・マルシイ」「クロ・トネール」「クロ・ヴォワイヤン」「グラン・クロ・フォルトゥール」「グリフェール」「ラ・ボンデュ」「ラ・カイユート」「ラ・シャシエール」「ラ・ルヴリエール」「ラ・ミッション」「ル・クロ・デュ・ロワ」「ル・クロ・レヴェック」など、32の畑が含まれる。

メルキュレーのブドウ園は1981年と1983年の暴風雨で、家屋や地下熟成庫が浸水し、アクセス道路が崩壊、ブドウ畑は土砂崩れに見舞われ、収穫は壊滅的な打撃を受けた。この危機的な状況を救うには単に土壌浸食を防ぎ、排水溝を整備し、農地へのアクセス道路を改善するだけでなく、ワインの品質向上を目指せるような土地再編を含む総合的な対策が必要とされた。しかし、メルキュレーのブドウ園は、数多くの所有者に細分化されており、それぞれの所有者が異なる利害関係を持っていたため、その再編には、所有者間の合意形成、複雑な法的手続き、そして多額の資金が必要とされた。

このため、1984年に町長、ワイン生産者組合、農協、地元の農業者、専門家などの関係者を集めた再編委員会が設立され、再編の目的、対象地域、具体的な計画などを決定。その後、土地所有者との協議や住民説明会を繰り返し行なった。最終的に、再編計画に基づく具体的な工事内容が決定されたのは1986年、ブドウ園の再編が終わったのは1989年だ。再編により、一部の栽培家は撤退を余儀なくされたが、ブドウ畑の規模が拡大し、これにより、経営の効率化が進み、ワイン生産量の増加につながった。また、土壌の浸食が防止され、排水溝が整備されたことにより、ブドウ畑の土壌が保護され、ワインの品質が向上した。さらに、農地へのアクセス道路が改善され、これにより、農作業の効率化が進んだ。

多くの時間をかけて行われたメルキュレーのブドウ園再編は、単なる土地の再編成ではなく、ワイン産地全体の活性化を目的とした、非常に重要な取り組みで、再編の成功は、メルキュレーの住民たちの強い意志と団結、そして数々の困難を克服する創意工夫によって支えられた結果だ。この貴重な経験は、他のワイン産地でも参考にされている。

メルキュレーはブルゴーニュの他のアペラシオンと同様、伝統的なワイン造りの技術に各生産者の知識と個性が加わり、同一アペラシオン内で多彩なワインが生み出されている。赤ワインは十分な濃さと構造を持ち、若いうちは赤い果実の香りが支配的だが、熟成するにつれてスパイシーな風味やなめし皮のニュアンスを帯びる。タンニンはきめ細かく、しなやかで果実味豊かな味わいが特徴だ。そしてエレガントな酸と果実味が見事なバランスを保っている。

白ワインはフレッシュな酸とミネラル感が特徴的で、柑橘やリンゴ、白い花の香りを持つ。まろやかでバランスの取れた味わいが魅力で、樽熟成されたものは、ヴァニラやトーストの香りが加わり、複雑性を増す。

2020年のAOCメルキュレーの生産量は、アペラシオン・ヴィラージュとプルミエ・クリュを合わせて、白ワイン665000本、赤ワイン2280000本。2021年は白ワイン298000本、赤ワイン1761000本。2022年は白ワイン777600本、赤ワイン3627600本。ブルゴーニュの一アペラシオンのワインとしては生産量が多く、フランスの多くの有名レストランのワインリストに名を連ねている。さらに安定した品質と個性によって世界中の愛好家に親しまれている。特に2000年以降、多くのドメーヌが品質を向上させ、ボトル詰め製品の販売を開始したことで知名度が高まった。

メルキュレー生産者組合会長のアモリー・ドゥヴィラール氏は、記念ディナーのスピーチで「次の100年に向け、伝統を守りながら常に進化を続けてワインの品質を高め、メルキュレーの名声を守り抜きたい」と意欲を語った
ルキュレーのワイン同胞団「La Confrérie de la Saint-Vincent et disciples de la Chante Flute Mercurey」のタスキを掛けた重鎮達が一堂に会した

昨年から続く100周年を祝う数々の記念行事の締めくくりとなった「ドメーヌ・ド・ラベイ・ド・マジエール」での記念夕食会は、メルキュレーの100年の歩みを祝うとともに、未来への展望を語り合う貴重な機会となった。このディナーの料理を担当したのは、地元の三ツ星レストラン、「ラムロワーズ」のエリック・プラ氏と二つ星レストラン、「ラマリリス」のセドリック・ビュルタン氏。彼らの創作料理とメルキュレーのワインのマリアージュは、このアペラシオンの素晴らしさを如実に示すものとなった。

シャニーにある3ツ星レストラン「ラムロワーズ」のシェフ、エリック・プラ氏(左)、サン・レミにある2ツ星レストラン「ラマリリス」のシェフ、セドリック・ビュルタン氏。名シェフの凝った4品のアミューズブーシュに合わせて「Domaine Patrick Guillot」の『Mercurey blanc Les Morins 2022年』と「Domaine Faiveley」の『Mercurey 1er Cru rouge Clos des Myglands 2022年』がアペリティフとして提供された

メニューは、地元の食材とメルキュレーのワインの個性を巧みに引き出すよう綿密に構成され、例えば「マリネしたイワナ、キノコを使ったブイヨンとマスの卵」には、「ドメーヌ・ジャンヌ・エ・フランソワ・ラキエ」の『メルキュレー・ブラン・ヴィエイユ・ヴィーニュ2022年」を、「ブレス鶏のファルシ、モルヴァンのノワゼットとサフラン風味のソース」には、「シャトー・ド・シャミレ」の『メルキュレー・ルージュ・オール・リーニュ2022年』が供された。これらの料理とワインのペアリングは、メルキュレーのテロワールの多様性と、そこから生まれるワインの品質の高さを印象づけるものとなった。

大広間で行われた夕食会のメニューは以下の通り。 前菜:「マリネしたイワナ、マス卵、キノコ風味のブイヨン添え」に『Domaine Jeanne et François Raquillet Mercurey blanc Vieilles Vignes 2022年』、「ホタテ貝のソテー、バターナッツ、クリスタル・キャビア」に『Domaine de Suremain Mercurey 1er Cru blanc En Sazenay 2022年』 メイン:「ブレス産鶏肉、モルヴァン産ヘーゼルナッツとサフランのソース」に『Château de Chamirey Mercurey rouge Hors Ligne 2022年』 チーズ:「コンテとエポワス、リンゴとセロリ添え」に『Domaine Michel Juillot Mercurey 1er Cru blanc Clos des Barrault 2022年』と『Château Philippe le Hardi Mercurey 1er Cru rouge Les Croichots 2019年』 デザート:「カシス風味のチョコレート、クリーミーなカカオニブのソルベ、カシスペッパー添え」に『Domaine Jeannin-Naltet Mercurey 1er Cru rouge Clos des Grands Voyens 2020年』

翌9日は、村の中心に2011年に開設されたメルキュレー村の共同カーヴ、「カヴォー・ディヴァン(Caveau Divin)」を訪れた。ここにはアペラシオン・メルキュレーの90パーセントが集められており、ワイン愛好家が試飲を通してメルキュレーのテロワールの多様性を一度に体感できる場として重要ぱな役割を果たしている。特に興味深いのは、細かな温度管理と不活性ガスを使ったワインの酸化防止機能を備えた高機能のワインディスペンサーが多数設置されていることだ。カードを購入後、少量ずつメルキュレーのほとんどの生産家のボトルを試飲できる。

「カヴォー・ディヴァン(Caveau Divin)」訪問後、教会の礼拝堂を改装して作られた村の試飲施設でプロフェッショナル向けの試飲会が開催された。赤、白あわせて約60本を試飲したが、特に古いミレジームに興味深いボトルがあった。昼食を終えた後、典型的なメルキュレーの5カ所のテロワールを四輪駆動車で巡るツアーに参加した。メルキュレーの複雑な地形と多様な土壌を実際に目にし、実感できる非常に興味深いものだった。

今回の催しを企画したのはメルキュレーのアペラシオンを管理する「ODG(原産地管理機関)メルキュレー」で、70人の畑のオーナーと40の生産者で構成されている。品質の維持と向上、需要拡大に尽力しており、特に1962年、1985年、2017年に、10万人を集める一大イベント「サン・ヴァンサン・トゥルナン」を主催し、メルキュレーの名を広く知らしめた。

近年のメルキュレーでは、持続可能な農業やビオディナミ農法の導入、最新の醸造技術の採用など、品質向上のための取り組みが活発に行われており、また、大きな課題となっている気候変動に対応して、新しい栽培技術の研究や、より耐性のある品種の模索なども始まっている。

今回の100周年の記念行事は、メルキュレーのワインが持つ魅力と可能性を改めて世界に示すとともに、これからの100年に向けた新たな出発点ともなった。

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