約7割がビジネスケアラー支援に課題あり。対象者がいないために対応を先送りにしているとの声も
『月刊総務』は、全国の企業を対象に「両立支援に関するアンケート調査」を実施し、148人から回答を得た。
・調査結果 概要
・約7割がビジネスケアラー支援に課題あり
・育児や介護による休業や退職、雇用形態の変更は、男性より女性の方が多い傾向
・約3割の企業で、育児との両立のために雇用形態を変更した女性社員あり
・導入している支援制度は「育児休業制度」が最多
・両立支援制度の利用、昨年調査時より男女差が縮まる傾向
・育休は女性の方が取得しやすさを感じている傾向。男性の3割以上が取得しにくいと回答
・介護休業の取りやすさは、男女で実感値に大きな差はなし
・介護休業の取得目的は「直接介護をする必要があるため」が最多
・休業者の業務は「現場のメンバーによる分担」が8割超
・通知・促進の手段は「社内報等での発信」「相談窓口の設置」が上位
・両立支援の課題は「現場社員の負担増」が最多
・実態把握の方法は「本人からの申し出」が最多
・社員の介護の可能性を「十分に把握している」は6.1%にとどまる
・2025年改正法への準備、項目により対応状況に大きな差
・両立支援の自社評価は、育児よりも介護で低水準
約7割がビジネスケアラー支援に課題あり
「ビジネスケアラー」への支援に課題意識があるかについて尋ねたところ、「とてもある」が24.3%、「ややある」が45.3%で、合わせて69.6%の企業が何らかの課題を感じていることがわかった(n=148)。
※ビジネスケアラー:働きながら家族の介護に従事する人を指す。
<ビジネスケアラー支援の課題/一部抜粋>
・育児サポートより、圧倒的に情報が少ない。
・育児はある程度予定が立つが、介護は突然やってくることもあり、先が見えない。
・突発的な事由に左右される事態が育児より多い。
・まだ介護に直面する社員が出てきていないため、先送りにしているのが現状。
・社員一人ひとりのニーズは異なるため、個々の状況に応じたサポートを提供するのに、柔軟性と創造性が求められている。
育児や介護による休業や退職、雇用形態の変更は、男性より女性の方が多い傾向
この2年間に、育児や介護を理由に退職・休職した社員がいたかについて尋ねたところ、育児では「休職した女性社員がいた」が35.8%、介護では「休職した女性社員がいた」が24.3%でそれぞれ最多となった(n=148)。
約3割の企業で、育児との両立のために雇用形態を変更した女性社員あり
両立のために雇用形態の変更をした社員がいるかについて尋ねたところ、育児では女性社員がいた企業が29.7%、介護では18.9%だった(n=148)。
導入している支援制度は「育児休業制度」が最多
両立支援のために実施している制度について尋ねたところ、「育児休業制度」が85.8%で最多、次いで「介護休業制度」81.8%、「時短勤務」73.0%と続いた(n=148)。
両立支援制度の利用、昨年調査時より男女差が縮まる傾向
両立支援制度を利用している社員の男女比について尋ねたところ、介護では約7割が「男女差はない」と回答し、育児では約6割が「女性が多い」と回答した(n=148)。育児は「男女差はない」の回答が前回調査時(2024年2月)より12.1ポイント増加した。(前回の結果はこちら)
育休は女性の方が取得しやすさを感じている傾向。男性の3割以上が取得しにくいと回答
育休が取りやすい文化だと思うか尋ねたところ、女性の方が制度を利用しやすいと感じている傾向があることがわかった(n=148)。
介護休業の取りやすさは、男女で実感値に大きな差はなし
介護休業が取りやすい文化だと思うか尋ねたところ、育休と比べて男女差は少なく、男性の58.7%、女性の66.2%が取りやすい文化だと回答した(n=148)。
介護休業の取得目的は「直接介護をする必要があるため」が最多
介護休業の取得目的について尋ねたところ、「直接介護をする必要があるため」が81.0%で最も多く、次いで「ケアマネジャーなどとの打ち合わせのため」40.5%、「介護サービスを選定するため」35.7%と続いた(n=42)。
休業者の業務は「現場のメンバーによる分担」が8割超
休業した社員の業務の調整方法について尋ねたところ、育児・介護ともに「現場のメンバーによる分担」が最も多く、育児で81.4%、介護で82.9%となった。派遣社員・契約社員の採用は、介護よりも育児において実施されていることがわかった(n=70/育児や介護を理由に退職・休職した社員がいる企業)。
通知・促進の手段は「社内報等での発信」「相談窓口の設置」が上位
両立支援制度の通知・取得促進について尋ねたところ、「社内報等での発信」が育児で45.9%、介護で39.2%、「相談窓口の設置」が育児で41.9%、介護で41.9%と上位となった(n=148)。
<育児>
・社内報等での発信:45.9%
・相談窓口の設置:41.9%/li>
・経営陣からの発信:21.6%
・研修・勉強会の実施:16.9%
・定期的なアンケートの実施:9.5%
・何もしていない:23.6%
<介護>
・相談窓口の設置:41.9%
・社内報等での発信:39.2%
・経営陣からの発信:17.6%
・研修・勉強会の実施:13.5%
・定期的なアンケートの実施:11.5%
・何もしていない:25.7%
両立支援の課題は「現場社員の負担増」が最多
両立支援に関する課題について尋ねたところ、「現場社員の負担増」が育児70.9%、介護68.9%で最多となり、「給与や待遇の低下」「上司や同僚の理解不足」が続いた(n=148)。
<社員に対するフォローを行っていない理由/一部抜粋>
・そのために人員増加した場合、復帰後の仕事割り振り等に苦慮するため。
・見通しが立たないため、一時的な補充が難しい。
・あまり対象者が頻繁に出ないのもありますがコストをかけるのはなかなか難しい。
・仕事が問題なく回っているから。
<その他課題/一部抜粋>
・対象社員が少ないことで、制度を利用すると不公平と捉えられる。
・総務からの適切な社員教育ができていない。
・社内文化(空気感)の醸成の手法がわからず、困っている。
実態把握の方法は「本人からの申し出」が最多
育児・介護の実態把握方法について尋ねたところ、「本人からの申し出」が育児で85.8%、介護で81.1%と圧倒的に多く、企業側が積極的に情報を取得する仕組みは限定的であることがわかった(n=148)。
<育児>
・本人からの申し出:85.8%
・1on1などでの聞き取り:29.1%
・相談窓口の設置:28.4%
・定期的なアンケートの実施:6.1%
・何もしていない:6.1%
<介護>
・本人からの申し出:81.1%
・相談窓口の設置:30.4%
・1on1などでの聞き取り:26.4%
・定期的なアンケートの実施:6.1%
・何もしていない:7.4%
社員の介護の可能性を「十分に把握している」は6.1%にとどまる
潜在的な介護の可能性の把握状況について尋ねたところ、「十分に把握している」は6.1%、「やや把握している」が37.2%で、合わせても4割程度にとどまった(n=148)。「あまり把握していない」「全く把握していない」が過半数を占め、企業における把握の不十分さが課題となっている。
2025年改正法への準備、項目により対応状況に大きな差
育児・介護休業法の改正に関する準備状況について尋ねたところ、項目により対応状況に大きな差が見られた。特に、テレワークに関する項目は、育児・介護ともに全く準備していない企業が3割を超えている一方で準備が完了している企業もあり、全社としての制度の有無も関係しているのかもしれない(n=148)。
両立支援の自社評価は、育児よりも介護で低水準
自社の両立支援の推進状況について尋ねたところ、育児は68.9%、介護は50.0%の企業が推進されていると回答した(n=148)。特に介護に関しては「あまり推進されていない」「全く推進されていない」との回答が過半数に迫っており、今後の課題といえる。
<自社の両立支援についてフリーコメント/一部抜粋>
・中堅以上の社員の育児休業等に対する理解が進まず、現場を優先させるため取得をあきらめた若手社員がいたと聞いた。
・育児に関する制度は女性が利用していることが多いが、男性による利用も少しずつみられるようになってきた。とはいえ、相談できない男性社員が困っているようすを見たこともあり、育休経験者によるネットワーク構築も必要ではないかと思った。
・介護や治療で休業したいと会社にいえない、または男性の役割ではないと考えている社員が多い。
・介護休業・休職と治療休業・休職については、完全に個人の問題とされる風潮が強く、組織としての支援が少ない。
総評
今回の調査では、企業の両立支援制度に対する実施状況や現場への影響など多角的な実態が明らかとなった。育児・介護いずれの両立支援にも一定の制度導入は進んでいる一方で、「現場の負担増につながっている」「取得実態を把握できていない」といった課題が浮き彫りとなった。特に、制度の利用や取得しやすさについては性別や立場による認識の差が残っており、真の意味で“使われる”制度にするためには、企業文化とマネジメントの在り方が問われている。
また、介護支援においては潜在的なニーズの把握不足や制度利用のハードルが依然高く、育児支援と比べて遅れが見られる。2025年の改正法対応においても、育児関連は一定の進捗がある一方で、介護に関する施策、特にテレワークなど柔軟な働き方の整備は後手に回っている状況だ。これらは単なる制度の整備ではなく、「両立できる環境」そのものを企業がどう設計し、どう現場に落とし込むかという組織力の課題といえるだろう。
総務部門は、制度運用の担い手としてだけでなく、現場の声を吸い上げ、制度の設計・浸透・改善のハブとなることが求められている。両立支援は、個人のライフイベントを支えるだけでなく、企業の持続的な成長に直結する投資であるという認識が必要だ。
【調査概要】
調査機関:自社調査
調査対象:『月刊総務』読者、「月刊総務オンライン」メルマガ登録者ほか
調査方法: Webアンケート
調査期間:2025年2月6日〜2025年2月13日
■調査結果の引用時のお願い
※本調査内容を転載・ご利用いただく場合は、出典元の表記をお願いします。
例:「『月刊総務』の調査によると」「『月刊総務』調べ」など