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『NEGORO 根来 — 赤と黒のうるし』がサントリー美術館にて開催!日本を代表する「漆の美」に出会う、特別なひととき。

イロハニアート

堅牢な下地を施した木地に、黒漆を中塗と朱漆を重ねた漆器を指す「根来」(ねごろ)。長年の使用によって生まれた古色を帯びた表情や、その独特で力強いかたちは、現代においても多くのコレクターたちの心をとらえています。

サントリー美術館で11月22日より開かれる『NEGORO 根来 ― 赤と黒のうるし』では、中世の漆工品を中心に、その前後の年紀を有する品や伝来の確かな名品を一堂に公開。日本を代表する「漆の美」を紹介します。

江戸時代以降、広く「根来」と呼ばれるように


瓶子 一口 サントリー美術館 【通期展示】

まず「根来」という言葉の意味を改めて確認しておきましょう。本展では、根來寺で生産された朱漆塗漆器を「根来塗」、根來寺内で生産された漆器の様式を継承した漆器、または黒漆に朱漆を重ね塗りする技法そのものを「根来」と称しています。

中世において和歌山県の根來寺は大寺院として隆盛を誇り、そこで作られた上質な朱漆器は特に「根来塗」として尊ばれてきました。堅牢な下地を備えた木地に、黒漆の中塗と朱漆を重ねるという漆器の制作自体は、古くからから各地で行われていましたが、江戸時代以降、この技法や意匠が「根来」という名で広く知られるようになります。

これらの漆器は寺社などの信仰の場で用いられただけでなく、民衆の暮らしの中にも浸透し、大切に使われてきました。

根来の源泉から周辺、そして回帰と新境地へ。展覧会の構成とは?


それでは各章に沿って展覧会の内容をご紹介します。

【第1章 根来の源泉】


重要文化財 瓶子 貞和2年(1346)銘 一対二口のうち一口 惣社水分神社 写真提供:宇陀市教育委員会事務局 文化財課 【通期展示(入替あり)】

赤や黒の漆で彩られた木製品は、先史時代から人びとに重宝されてきました。その歴史は、今日、「根来」と呼ばれる漆器よりもはるかに古く、現在の研究によれば、およそ7500年前までさかのぼることが分かっています。

赤は太陽や生命を象徴する神秘的な色とされ、呪術的な意味も担っていました。縄文時代には、櫛や腕輪、器などに赤い漆が塗られています。また黒はすべてを包み込む闇の色として、赤とは対照的でありながらも、どちらも色という概念が生まれる以前から人々の感覚に深く根ざした、原初的な存在といえるでしょう。

赤い漆に用いられる顔料は多様で、鉄を主成分とする弁柄(べんがら)、水銀を主成分とする朱、鉛を主成分とする鉛丹(えんたん)、さらにそれらを混合したものなど、実に豊かです。なかでも「まそほ(真赭・真朱)」として特別視された天然の辰砂(しんしゃ)を含め、これらを用いた朱漆器は、極めて貴重なものとされました。

こうして生まれた朱漆塗の漆器(朱漆器)は、神仏への供物として奉げられる一方、権力や威信の象徴としても重んじられます。第1章「根来の源泉」では、赤と黒の漆工品の中から、「根来」という呼称が定着する以前の時代に生み出された名品を中心を紹介します。

【第2章 根来とその周辺】


重要文化財 布薩盥 二対四口のうち一口 寛正3年(1462)〜天文8年(1539)頃 水戸大師 六地蔵寺 撮影:山崎兼慈 【展示期間:12/17〜1/12】

「根来」を語るうえで欠かせないのが、和歌山県の根來寺の存在です。平安時代末期、高野山の学僧・覚鑁(かくばん)上人(1095〜1143年)によって開かれた根來寺は、新義真言宗の聖地として栄えました。豊臣秀吉の焼き討ちを受ける天正13年(1585)直前の最盛期には、山内に数千もの塔頭が立ち並んでいたと伝えられます。

宣教師ルイス・フロイスの『日本史』には、「彼らの寺院なり屋敷は、日本の仏僧寺院中、きわめて清潔で黄金に包まれ絢爛豪華な点において抜群に優れている」と記されていて、当時の根來寺がいかに繁栄していたのかを伺い知ることができます。

「根来」という名称は、この根來寺で朱漆塗の漆器が作られたという伝承に由来します。ただし同様の様式をもつ漆器は、根來寺以外の各地でも生産され、時代を経るにつれて宗教儀礼の場から人々の暮らしの中へと広がっていきました。

「第2章 根来とその周辺」では、根來寺坊院跡の発掘調査や聖教などの寺院資料を通して、根來寺とその周辺の様相を紹介するとともに、同時代に各地で生み出された「根来」の名品を一堂に展示します。

【第3章 根来回帰と新境地】


輪花盆 一枚 黒澤明旧蔵 北村美術館 【通期展示】

天正13年(1585)に根來寺が衰退してほどなく、江戸時代初期には早くも朱漆塗の漆器としての「根来」が注目され、後の時代にも大きな影響を与えました。その影響は、銘のある古作の蒐集や古例の研究・模写にとどまらず、「根来」の歴史的変遷そのものをたどる試みにまで及びます。

江戸時代後期の『紀伊国名所図会』には、かつて根來寺一帯で朱塗の椀や折敷(おしき。食器を載せる盆)が作られていたことが記されており、明治時代には黒川眞頼(まより)や高木如水といった知識人たちが、「根来」の足跡を積極的に探し求めました。

生活の中に息づく「根来」の中に美を見出し、これを愛でる動きは、大正15年(1926)に柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らが提唱した民藝運動とも共鳴し、戦後には確固たる評価を得るに至ります。「根来」は実用品であると同時に、根來寺への憧憬や追慕の象徴として、さらには鑑賞すべき美術工芸品として位置づけられるようになりました。

「第3章 根来回帰と新境地」では、白洲正子、松永耳庵、黒澤明といった名だたる文化人が蒐集し、日々の暮らしの中で愛用した「根来」の名品を中心に、その奥深い魅力を掘り下げていきます。

使われることで輝きを増し、過ぎた時の温もりまでも映し出す


湯桶 一合 サントリー美術館【展示期間:11/22〜12/15】

今や本来の用途や鑑賞の枠を超え、より純粋で精神的な美の世界を表現する存在へと深化した「根来」。僧たちの祈りの場から、人々の日々の暮らしへと受け継がれた「根来」は、使われることで輝きを増し、過ぎた時の温もりまでも映し出す器です。

何度も手に触れられ、使い込まれるうちに、朱がやわらかく透け、下の黒が顔をのぞかせる。時間とともに美しさを深め、不思議な魅力をもつ「根来」の魅力を、サントリー美術館の『NEGORO 根来 ― 赤と黒のうるし』にて味わってください。

展覧会情報


◆『NEGORO 根来 ― 赤と黒のうるし』 サントリー美術館

【開催期間】2025年11月22日(土)〜2026年1月12日(月・祝)
 ※作品保護のため、会期中展示替を行います。

【所在地】東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階

【アクセス】都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩約3分。(東京ミッドタウン[六本木]まで)

【開館時間】10:00~18:00
 ※金曜日および1月10日(土)は20時まで
 ※いずれも入館は閉館の30分前まで

【休館日】火曜日(1月6日は18時まで開館)、12月30日(火)〜1月1日(木・祝)

【入館料】一般1,800円(1,600円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生1,000(800)円、中学生以下無料。
 ※( )内は前売券。販売期間:11月21日(金)まで

【美術館HP】https://www.suntory.co.jp/sma/

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