運動会や発表会などの行事を嫌がるわが子。欠席する?練習だけ参加?悩むときの対応のポイントは【公認心理師・井上雅彦先生にきく】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
行事を嫌がるわが子。無理させたくないけれど……
園や学校では、運動会や学習発表会、音楽発表会、参観日、遠足など、さまざまな行事があります。行事に向けて毎日みんなで練習をしたり、日課が変更になるなどのイレギュラーが続いたりすることもあるでしょう。
行事を楽しみにしているお子さんもいれば、慣れない場面での不安などで行事が苦手という場合もあります。行事を嫌がるわが子に、どう対応したらいいか悩んでいるご家庭も多いのではないでしょうか。
発達ナビのQ&Aコーナーでも、行事の参加についての質問が複数寄せられています。
運動会には出たいけど、みんなと一緒にできない&やりたくなくて本人も辛いと思うのですが…私も嫌がる事は無理強いさせたくない反面、嫌な事はやらなくていいと学習させてしまわないか心配です。
本当に苦痛で嫌な事は仕方ありませんが、できるけど面倒な事もサボってしまわないかと。https://h-navi.jp/qa/questions/108641
週末、息子が学校行事の中で1番苦手な学習発表会があります。
聴覚過敏があるので体育館での群読、合唱、劇などなど、なかなか耐え難い内容です。
練習して頑張ろうとしていますが、耳触りと口歪め、ダブルチック症が出てます…。
「もうやらなくていいよ、学校休もう」って私が言いたくなってしまいます。どこまでやらせるかの見極め、皆さんはどうしてますか?
https://h-navi.jp/qa/questions/77205
伺いたいのですが、本人がいやがる行事など(今回は合同遠足)は嫌がっても行かせたほうが良いでしょうか?
https://h-navi.jp/qa/questions/165078
今回は、わが子が行事への参加や練習を嫌がるときの対応について、鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生にお伺いしました。
園や学校での行事を嫌がるとき、どうしたらいい?
A:子どもが行事への参加を嫌がっているときに、少し無理やりにでも参加を促したほうがいいのか、無理させないほうがいいのかというお悩みかと思います。
お子さんによっては、自分のペースではなく集団で一斉に動くこと自体が苦手な場合もあります。今回いただいた行事に参加したがらないというご相談は、特に保育園や幼稚園から小学校低学年くらいまでによくある大きな悩みの一つかもしれません。
「本人が嫌がっているのに参加したところで子どもにとって意味があるのだろうか」という保護者のお気持ちをお聞きすることもあります。子どもの背中を押したほうがいいのか、無理せず休んだほうがいいのか、とても悩ましいところだと思います。
お子さんが行事を嫌がる場合の対応ポイントとしては、「行事に参加する・しない」の2択ではなく、行事の一連の流れを次のような3つに分けてみることです。
①本人が自分でできること
②少しサポートがあればできること
③サポートがあっても難しいこと
そのうえで、一番最後の「サポートがあっても難しい」場面については無理をせず、「自分でできる・少しサポートがあればできる」場面で参加できたらまずは十分である、という風に考えていきます。
「少しサポートがあればできる」という場面については、
・スケジュールや手順を見える化する
・タイマーなどを使って“終わり”を明確にする
・待つ時間が苦手なときは休憩スペースを作る、役割を作る
・感覚過敏性に配慮する
・部分的に参加する
・(集団練習ではなく)個別練習の時間を作る
などがよく取り入れられる工夫の例です。
お子さんが部分的にでも参加できた場面については、本人と先生やご家族みんなで喜び合って、お互いの成功体験にしていけるといいですね。
初めから「行事にすべて参加できる」を目指すというよりは、「本人が自分でできる・少しサポートがあればできる」場面を少しずつ増やしていけるといいでしょう。お子さんにとって良い体験で終われることが、次につながっていきます。
行事の練習への拒否感が強いときは?
A:練習への参加は、本番への参加よりも対応の優先度を下げるのも一つの考え方ですが、練習せずに本番に臨むというのも本人にとって大変ですよね。
そこで練習では、まずはほんの一部分参加する、先生がしっかりサポートする(支援の量を増やす)などから始めるといいかもしれません。どの場面でどんな支援があれば安心して参加できそうかお子さんと一緒に対話をしながら進めていくこともいいと思います。
毎日行事のことばかり話題になったり練習をしすぎたりすると、かえって不安が高まる場合もあります。その子に合わせて、本番に備えて控えめにしておくという対応もあるでしょう。
練習がお子さんにとって嫌な経験になってしまうと、やはり本番にも影響するかもしれません。できるだけ本人にとって楽しく練習できたという経験を積み重ねて、本番に備えられるといいですね。
例えば、まずは一部分、お子さんが現時点でも無理なくできる場面から練習に参加し、参加できたことを認めたり褒めたり一緒に喜んだりしていきます。そこから少しずつ参加できる部分を増やしていけるといいと思います。
毎年の行事については、学年が上がるとともに参加できる幅が広がっていくお子さんも多いものです。毎年経験するうちに、流れの見通しを持てるようになったり、本人がとれる対応の選択肢が増えたり、自分なりの参加の仕方が分かってきたりするためです。その意味では、やはり就学前から小学校低学年くらいが、親子共に大きいお悩みになっていることが多いかもしれませんね。
お子さんも成長していきますので、次につなげるためにも無理をしすぎず「良かった・楽しかった」で終われることを優先してみてもいいのではないでしょうか。
まとめ
お子さんによっては、普段と違う慣れない状況そのものが不安だったり、感覚特性により集団活動の負担が大きかったり、活動のルールが分からず参加しづらかったりすることもあります。
行事や練習への参加を嫌がる場合には、「参加する・しない」の選択というよりは、嫌がる理由を聞いて、参加しやすい工夫を考えていくことが大切です。先生と連携しながら「少しサポートがあればできること」の幅を少しずつ増やしていけるといいでしょう。
支援や工夫がないままに“無理やり”参加ということになると、お子さんにとっては「嫌だった経験」となり、次の行事も前向きに考えにくくなるかもしれません。環境調整やさまざまな工夫をすることによって参加しやすくなることや、部分的な参加でも「良かった・楽しかった」経験になると、お子さんの自信につながります。
園や学校での行事は、やはり先生との連携も必要になってくるため、お子さんの嫌がる様子がみられるときには、家庭だけで抱えずに先生に相談することも大切です。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。