【高知グルメPro】1万軒以上訪ねて確信した『会いたい人がいる店が、いい店なのである』土佐市「WA BAR KIRI 桐」食いしんぼおじさんマッキー牧元の高知満腹日記
会いたい人がいる店が、いい店である。
これまで長い時間をかけ、1万軒を超える店に訪れて、この真実に出会った。
店名の「桐」は、こちらの店主が昔行っていた、気のいい女将さんの店からとったという。
もちろん、私はその店は知らない。
だが、現店主の女将さんは、その店の空気を受け継いでいるのではないか、そう感じた。
女将さんの足達和世さんは、土佐市観光協会に就職したのを機に高知市から引越し、定年退職前に辞めて店を始められた。
正直、なにかを始めるには遅すぎるタイミングである。
そのことを話すと彼女は言った。
「この街にはバーがないからこういうお店を始めたら、きっと喜ぶ人がいると思いました。そうしたらいい物件があるという話が来て、気に入ったので決断しました。3月末に退職して、4月には開店しました」。
決断が早い。
しかし、この街に住み、街の人たちの気質を知っていたから、そのニーズも感じ取っていたのだろう。
日本酒バーと名乗っているように、土佐市の酒造「亀泉」の銘柄を数多く置いている。
早速その薄濁りをいただきながら、突き出しをいただく。
近隣の豆腐屋「青木食品」の「すまき入りおから」や、
「いぶりがっこポテサラ」をつついていると、早くも酒がぐいぐいと進み始めた。
おからはその甘辛さが酒を呼び、ポテサラはいぶりがっこの燻製香がじゃがいもの甘みにからんで、箸が進む。
今日のメニューからまず選んだのは、「若鮎の甘露煮」である。
山椒の実と一緒に炊かれた「有馬煮」である。
甘みを山椒がキリリと引き締め、その中で鮎の滋味がほろりと崩れていく。
こりゃあ燗酒だと、注文する。
「甘さ加減がいいですね、甘みにコクがある」。
そういうと女将さんは、嬉しそうに笑いながら、
「きび砂糖を使って作ってます。実は私は鮎が食べれんのに作ってみたが。おいしい?よかった」。
可愛らしい人である。
「他につまみは何がありますか?」
「ちょっと待ってね。探してみたら何かあるかもしれん。そうや、シイラのフライはどう?」
「いただきます」。
しっかりした身の白身魚フライで、ほんのり甘い。
そして、上にかかったタルタルソースが良かった。
らっきょうのタルタルだという。
ラッキョウの甘酸っぱさが、マヨネーズの甘酸味の中で光っている。
なるほどこれは、ピクルスの役目だな。
続いて「ピーマンの肉詰」も頼んでみた。
ガブリと噛めば、ピーマンの青々しさがはじけ、詰めた肉のうまさが追いかける。
何か、友達の家でご馳走をいただいてる気分になってきた。
「今日はないけど、角煮やスジの煮込みもあるんですよ。毎日、自分の晩酌用のアテを作るがね、大体5品くらい。栗焼酎のダバダ火振を2杯くらいに、亀泉やワインを飲んで」。
やったことのない素人が居酒屋をやるというのは大変だろうに、全く肩に力が入ってない。
のんびりと、楽しんでやってらっしゃる。
その気分がこちらに伝わってきて、のほほんとなる。
日常にひとしずくの非日常をたらし、日ごろの憂さから解放してくれる時間がここにある。
「また来よう」。
「また女将さんに会いに来よう」。
勝手にそう思っていた。
最後の締めに、甘いトマトを使ったカッペリーニをいただきながら、もう一度自分に誓った。
やはり間違いない。
会いたい人がいる店が、いい店なのである。
高知県土佐市高岡町甲2090-5「WA BAR KIRI 桐」にて