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子育て誤情報「赤ちゃんのK2シロップは添加物だらけで危険」はウソ! 新生児・乳児への安全性と重要性〔医師が解説〕

コクリコ

子どもに多い病気やケガへの対処法の最新知識を伝える連載「令和の子どもホームケア新常識」第7回。「K2シロップは添加物だらけで危険」という誤情報について、小児科医・森戸やすみ先生が解説。

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【誤情報】K2(ケイツー)シロップは添加物だらけで危険。子どもに多い病気やケガへの現代の正しい最新対処法を、小児科医・森戸やすみ(もりと・やすみ)先生が解説する本連載【令和の子どもホームケア新常識】。

第7回はSNSを中心に広まっている「K2シロップは添加物だらけで危険」という誤情報について伺います。

不安になるのは「よく知らないから」

ビタミンK2(ケイツー)シロップ、いわゆるK2シロップ。今年(2025年)2月、SNSで「K2シロップは危険だ」とするポストが投稿され、話題になりました。

小児科医・森戸やすみ先生によると、SNSではK2シロップの危険をあおる投稿が不定期的に繰り返されているといいます。

なぜ、こうした情報が拡散されるのでしょうか。K2シロップの安全性と重要性について、森戸先生に伺います。
───
ビタミンK2シロップとは、赤ちゃんの出血を防いでくれるビタミンKを含んだシロップ剤です。日本では赤ちゃんの口から摂取させますが、アメリカなど海外では生まれてすぐにビタミンKを注射する国も多くあります。方法は違えど、ビタミンKは赤ちゃんを守るために世界中の国々で投与されているものです。

安全性が認められていて、赤ちゃんにとって必要なものなのに「K2シロップは危険だ」という誤情報を鵜吞(うの)みにしてしまうのは、おそらく「よく知らないから」ではないでしょうか。「みんなに伝えなきゃ」といった、善意や正義感から拡散している方がほとんどだと思います。

また、K2シロップに限らず「危険だ」と不安をあおる情報は広まりやすい一方、「安全だ」「危険というのはデマだった」という情報はあまり広まりません。そのため、一度「危険だ」と信じてしまった人には、正しい情報が届きにくくなります。

では、実際に拒否する親御さんが大勢いるのかというと、そんなことはありません。私は大学病院やNICU、産婦人科病院の小児科部門に勤務していた時期がありますが、K2シロップを拒否された親御さんはいませんでした。拒否する親御さんがいたという話も聞いたことがありません。

助産師さんたちによるていねいな説明もあったのでしょうが、ほぼ100%の親御さんが、赤ちゃんにK2シロップを飲ませていました。SNSでK2シロップを問題視する人はごくごく少数なので、そういった意見で不安になる必要はないでしょう。

ビタミンKの欠乏で出血しやすい状態に

では、なぜK2シロップを飲ませる必要があるのでしょうか。

前述のとおり、K2シロップにはビタミンKが含まれています。ビタミンKは胎盤を通りにくく、胎内でお母さんから赤ちゃんへ移行する量はわずか。

ビタミンKを産生する腸内細菌がまだ大腸にいないため、赤ちゃん自身が体内で作ることもできません。また、母乳に含まれる量も十分ではないことがわかっています。

ビタミンKは、血管が傷ついたとき血液を固めるために必要な物質です。ビタミンKが欠乏して「ビタミンK欠乏症」になると、出血を止めることができず、全身で出血しやすい状態になります。

このビタミンKの欠乏による「ビタミンK欠乏性出血症」は、生後7日以内に起こる「新生児ビタミンK欠乏性出血症」、生後3週から3ヵ月の間に起こる「乳児ビタミンK欠乏性出血症」に分けられます。

出血しても新生児は症状が少ない

「乳児ビタミンK欠乏性出血症」は8割以上が頭蓋内(ずがいない)、要は頭の中で出血を起こし、治療しても麻痺などの後遺症が残ったり、死亡する例もある重篤な病気です。

「新生児ビタミンK欠乏性出血症」は、150~300人にひとりの割合で起こると推定されています。特に新生児は症状が少なく、気づいたときには手遅れという恐れも。だからこそ治療より予防が大切で、生後すぐの赤ちゃんにK2シロップを投与しなければならないのです。

日本では長い間、「3回法」(①哺乳確立時 ②産科退院時または生後1週 ③1ヵ月健診時)が主流でしたが、2021年に日本小児科学会、日本産科婦人科学会など16の団体が「新生児と乳児のビタミン欠乏性出血症発症予防に関する提言」を出し、「3ヵ月法」(①哺乳確立時 ②産科退院時または生後1週以降、生後3ヵ月まで週1回投与)を推奨しています(※1)。

ミルク栄養や混合栄養の場合、育児用ミルクにはビタミンKが含まれているため、1ヵ月健診以降は医師の判断で投与しない場合もあります。

K2シロップの添加物は安全

SNSにK2シロップに関する不安や疑問の声がありましたので、お答えしたいと思います。

▼新生児に添加物が入ったK2シロップを飲ませても大丈夫?

「添加物は体に悪い」と、誤解されている方が多いようです。K2シロップには添加物が含まれていますが、それらはビタミンKの安定と保存、効果を最大限に高めるために必要な成分で、不要なものは一切入っていません。

新生児に安全に使用できる添加物の量は決まっていますし、K2シロップ1回分の量は1ml(2mg)ですから、添加物の量もごくわずかです。K2シロップのような医薬品は、使用される前に厳しい試験をクリアしていて、安全性が担保されています。

「無添加は安心・安全」と思われがちですが、食品でも無添加ゆえに腐敗したり、カビが生えたりと、かえって危険をおよぼすことがあります。決して「添加物=悪」ではありません。正しく理解していただきたいと思います。

また、海外にはオーガニックのビタミンKのサプリメントがあるようです。有機栽培された植物由来のビタミンKということでしょうか。医薬品は厳しい試験により安全性が確かめられている一方、日本で栄養補助食品として販売する場合は、こうした試験を受けることなく販売できます。

医薬品のような効果はもちろん、自然の植物由来とはいえ、安全性も保証されていないことを知っておくとよいでしょう。

▼K2シロップは保険適用外。製薬会社が儲けるために飲ませているのでは?

治療のために処方される薬には保険が適用されますが、K2シロップは予防のための薬ですから、保険適用外となり自費扱いです。

ただ、ケイツー(K2シロップの商品名)の1回分の薬価は、2025年3月時点で「24.6円」。3回で約74円、10回でも約250円と、自費扱いとはいえ非常に安価です。製薬会社の利益は、ほんのわずかだと思います。

さらに、日本で現在K2シロップを作っている製薬会社は、驚くことに1社のみです。新生児には確実に投与するのですから、儲かるのであれば、もっと多くの製薬会社が作っているのではないでしょうか。

▼ビタミンK欠乏症は稀(まれ)な病気。すべての新生児に飲ませる必要はある?

たしかにすべての新生児・乳児に起こるものではありませんが、「新生児ビタミンK欠乏性出血症」は150~300人にひとりの割合で起こると推定されています。仮に300人にひとりとした場合、2024年に生まれた新生児72万人のうち、2400人の赤ちゃんに起こる可能性があったということです。決して少ない数字ではないですし、起きてしまっては大変です。

もし高価な薬であれば新生児全員への投与は難しいかもしれませんが、K2シロップは非常に安価な薬です。費用対効果が高く、安全に安く、赤ちゃんの命を守ってくれています。

▼母親が食事からビタミンKをしっかり摂っていれば、母乳で補えるのでは?

母乳に含まれるビタミンKの量は少ないですが、お母さんがビタミンKを多く含んだ食品を摂ると、母乳中のビタミンK濃度が高くなることがわかっています。代表的なのは卵黄、ホウレンソウやブロッコリーなどの緑黄色野菜、チーズやヨーグルトなどの乳製品、肉類などで、中でも納豆はビタミンKが豊富な食品として知られています。

ただ、母乳中のビタミンK濃度の増加には個人差がありますし、いずれにしても食事だけでビタミンK欠乏症を予防することはできません。K2シロップでしっかりと必要な量のビタミンKを摂取していただきたいです。

大事なお子さんのことですから、心配になるのは当然です。もし、K2シロップに不安や疑問があるようでしたら、ぜひ担当医や医療従事者に聞いてほしいと思います。

受けるべき正当な医療行為を受けられないと、危険な目にあうのは子どもたちです。それは本当に避けなければいけないことですので、私はこれからもK2シロップの必要性を積極的にお伝えしていきたいと思います。

【子どものホームケア 正しい情報 その7】
K2シロップはビタミンK欠乏症を予防し、赤ちゃんの命を守るために必要なもの。添加物は安全性が認められているので、安心して飲ませてよい。

取材・文/星野早百合

●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数。

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