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24歳で引退馬の馬主に。グラビアアイドル続けながら、中山競馬場ではたらく理由。

スタジオパーソル

日本を代表する競馬場の中山競馬場と東京競馬場で、 今、ひときわ注目を集める女性がいます。「ウィナーズレディ」の姫野みなみさんです。

ウィナーズレディとは、レースに勝利した馬と騎手が記念撮影をする「口取(くちとり)式」で撮影を共にしたり、出走馬がレース前に歩くコース「パドック」で観客と交流したりして、競馬場を華やかに盛り上げる仕事。現時点では姫野さんを含めて国内に数人しかいない、希少な存在です。

姫野さんはウィナーズレディのほか、グラビアアイドル・テレビ信州のアシスタントMC・実業家など、4つ以上の仕事を兼業しています。もともとは異なる夢を抱いていたそうですが、なぜ、このようなはたらき方を選んだのでしょうか。

姫野さんに、自分らしくはたらくヒントを聞きました。

個性を消したアナウンサー時代。「私は何者になら、なれるんだろう」

──もともと異なる夢をお持ちだったそうですね。

小学生のころ、TBS系『朝ズバッ!』を見てみのもんたさんに憧れていました。アナウンサーとして率直に物事を伝える姿勢や、記者として被災地などいろいろな現場を取材する姿が、かっこいいと思っていたんです。

学校で新聞制作の授業があった時は、みのもんたさんを意識して取材・発表したりもしました。報道の仕事は特に、「意義のあるお仕事だな、やってみたいな」と思っていましたね。

──憧れの対象がみのもんたさんだったというのは、意外です。

少し話が逸れるのですが、幼少期に乗馬を始めたんです。学校で配られたチラシを見て興味を持ったのがきっかけでした。

馬って、「ホースセラピー」という言葉があるように、人を癒す力があるんです。私は動物は全部好きですが、馬は人馬一体になれるのが魅力で、しなやかなボディや目の輝きも美しい。私にとって特別な存在になりました。

大学時代、乗馬クラブの知人と初めて競馬場を訪れました。そうしたらもう、面白くて面白くて。

競馬はギャンブルの印象が強いと思いますが、臨場感や躍動感を感じられるスポーツなんです。それに、数百万円の馬が数億円の馬に勝った瞬間や、その裏側にある関係者やファンの方々の想い……一つひとつのエピソードにドラマがあります。

アナウンサーを夢見ながらも、「競馬にかかわる仕事がしたい」と思い、周囲にもそれを伝えるようになりました。

特に、競馬のキャスターやリポーター、馬の出産の取材などをしてみたいと思っていましたね。

──大学卒業後は、どんな風にはたらいたのでしょうか。

競馬番組のリポーターの試験や競馬関連のお仕事がしたくて面接を受けたのですが、どれも落ちてしまいました。

中国語を5年間勉強していたのもあり、その後事務所のすすめで約1年間、中国でアナウンサーをしていました。でも、仕事の内容上、朝から深夜まではたらくのは当たり前。現地で求められるレベルは高く、ダメ出しをされ続けて、気付いたら円形脱毛症が3つできていました。

日本では被災地の取材も担当しましたが、実力不足で芽が出ず、アナウンサーとしての仕事数も月2本ほど。実家を手伝いながら生活していて、焦りやプレッシャーから、数ヶ月間引きこもり状態になったことも。

今ではSNSに、ウィナーズレディの仕事や競馬について、300字以上の熱心な投稿をすることが多い姫野さん

アナウンサーは中立的な立場が求められる仕事なので、基本「個性を消すこと」を指導されてきました。SNSもほとんどやっておらず、自分を知ってもらう機会が少なかったせいか、ファンの方も増えなかったんですね。

「私は何者にだったらなれるんだろう?」「どんな分野なら、自分らしさを活かせるのかな?」と悩んでいました。

「引退馬」を引き取るほど馬が好き。発信が仕事につながった

──なぜキャリアを転向しようと思われたのですか?

2021年にグラビアアイドルのお仕事をいただいたんです。

私は漫画が好きで、昔から『週刊少年マガジン』などの巻頭グラビアで、小倉優子さんや南明奈さんを「素敵だな……」と拝見していました。でも、もともとお尻が大きいことがコンプレックスでしたし、自分にできるのかどうかは不安でしたね。女性ファンの方が離れてしまう怖さもありました。

それでも、事務所でグラビアのDVDや雑誌を2時間近く見ながら考えているうちに、「こんな風に、同じ女性から見ても憧れるくらい綺麗に撮ってもらえるのなら、私もやってみたい」と思ったんです。

実際にやってみると、最初はめちゃめちゃ恥ずかしかったですが、レビューを参考に「こういう魅せ方のほうがいいかな?」と研究するようになりました。今でもグラビアのDVDは、研究のために年間100本ほど観ています。

──なぜ、ウィナーズレディを兼業されるようになったのでしょう。

グラビアアイドルとして活動しながらも、SNSで馬への愛を発信し続けていたんです。

というのも私は、2022年から、引退した競走馬(引退馬)を支援する活動しているんですね。

もともと競走馬の“引退後の余生”に興味があったのですが、本や映画で、実は暗黙の了解で安楽死させられたり、食用にされたりする引退馬が多い現実を知って。

SNSで、新潟県に引退馬が暮らす養老牧場があると知り、迷わず自分から「引退馬のことが知りたいので、伺いたいです」と代表者の方に連絡しました。

その後、約2ヶ月に一度、引退馬の実態を伺ったり馬の飼育のお手伝いする中で、引退馬「トキメキシオン」の馬主になり、一生面倒を見ることを決めました。

──「馬主」というと、かなりお金がかかるイメージがあります。

そうですよね。ただ引退馬は、競走馬ほど高額ではなく、その馬が暮らす牧場に毎月10万円前後の預託料をお支払いして、その馬が亡くなるまで面倒を見てもらうケースが多いのではないかと思います。私自身は一人で支払っていますが、預託料を数人でシェアするシステムもあります。

決して安い額ではないのですが、一生懸命はたらいてでも引き取りたくて。馬への想いを行動で示したいと思ったんです。

そうした活動をSNSで発信したり、「競馬の仕事がしたい」と周囲に発言していたところ、中山馬主協会の関係者の方から「良かったらやってみない?」と紹介いただいたのがウィナーズレディの仕事です。

──率直に、どんな心境でしたか?

「夢が叶った!」と思いました。

競馬にかかわる仕事には、キャスターやリポーター・MCなどいろいろありますが、ウィナーズレディは、口取り式という特別な場で、喜びの瞬間を間近で見られる素敵なお仕事なんです。

中山競馬場では15年以上の歴史があるという「ウィナーズレディ」

2022年9月、それまでのウィナーズレディの方から、私がバトンタッチを受けた形です。今では東京競馬場でも活動が始まり、ウィナーズレディの人数も増えました。

現在は、ほかのお仕事と比べても、ウィナーズレディの仕事の割合が一番多いですね。シフトのない日も、プライベートで競馬場を訪れています。

──ウィナーズレディのやりがいはなんですか?

「競馬場に華はいらない」というご意見もありますが、「ウィナーズレディがいるから競馬に興味を持った」と言っていただけるのがやりがいです。

競馬場って、テーマパークみたいだなと思います。イベントごとが充実しているし、レースを見る以外にも楽しみがあって。女性専用のカフェもありますし、女性の方にもどんどん訪れてほしいです。

同じくらい好きなものがあったら、ライバルが少ないほうを極めてみる

──2024年7月には、クラフトビールの醸造会社「株式会社GATE」を立ち上げたそうですね。

グラビアアイドルやウィナーズレディは正直、どれだけ好きでも、一生務められる仕事ではないと思うんです。そう考えた時に、一生涯の仕事として「会社をやってみたい」と思いました。

じゃあ、自分に何ができる?と考えていたら、信頼できる知人に“味覚の鋭さ”を褒めてもらって。私はお酒が好きなのに唯一ビールが苦手でしたが、クラフトビールに出会ってその概念が覆り、自分でもつくってみたいと思いました。

GATEでは、売り上げの3%を養老牧場に寄付し、引退馬の支援に充てています。

──なぜ積極的に、新たなキャリアへの一歩を踏み出せるのでしょうか。

『キングダム』や『BLUEGIANT』、『ROOKIES』のような主人公が成長していく漫画が好きなので、少なからず影響は受けているかもしれません。

あとは、どれも好きなことなので毎日が苦じゃないんです。私は毎日同じことをするより、ワクワクすることがしたい。将来は自分のブルワリーを立ち上げて、養老牧場を併設したいとも考えています。

──現状のキャリアにぼんやり不安を覚えつつ、安定を重視して一歩踏み出せない人は多いです。

すごく分かります。今の仕事を辞めずに、趣味や生きがいを見つけてそのために仕事を頑張ることもできますが、むずかしいですよね。

ちなみに私だったら、今の仕事を辞める選択肢も持ちます。

年齢を重ねるほど、その後の生活を考えて決断しにくくなると思うし、私自身も、アナウンサー時代「もっと自分を活かせる分野に行きたい」と思ったからこそ今があると思うからです。

その一歩の幅が大きいこともよく分かります。でも私は後悔したくない一心で諦めませんでした。だから、一歩踏み出す勇気を持ってほしいですね。

──スタジオパーソルの読者である、はたらく若者に伝えたいことはありますか?

夢を語るのは恥ずかしいことじゃないです。前向きに頑張っている人は魅力的だし美しいし、愚痴を言うより100万倍かっこいいと思います。

だからこそ、応援してくれる仲間を見つけてほしいですね。私にとっては、事務所の社長やマネージャー、牧場や醸造所の方、一緒にはたらく仲間がそうです。“揺るがない仲間”がいると、すごくいい人生になるんじゃないかな。

私が人とのつながりで大切にしているのは、誠実さです。うそをつかず正直でいること、やりたいこと・やりたくないことを伝えること。自分が誠実でいれば相手もそうしてくれるんです。

その人たちに、自分がどれだけ本気かを分かってもらうことも大切だと思います。

──最後に、「はたらく」を自分らしく、楽しくするためのアドバイスをお願いします。

一番の近道は、好きなことをどんどん極めること、オタクになること。

もちろん、なりたくてもなれないことだってあります。でも、私が自分らしいはたらき方に出会えたのは、“ライバルが少ない分野”を見つけられたからだと思うんです。

実は私は、馬やお酒と同じくらいファッションやメイクが好きです。だから美容関連の会社を立ち上げたい気持ちもありましたが、ライバルの多さから「今じゃないな」と思いました。

でも、馬が好きで、ビールをつくっているグラビアアイドルは、私が調べた限りではいなかったんですよね。

そして、言霊を信じて、「こういう仕事がしたいです」と周囲に伝えることが大事。私も、諦めずに一生懸命発信してきて良かったと思っています。

(取材・文 原由希奈 写真提供:姫野みなみさん)

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