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特養の協力医療機関との連携体制構築は進んでいる?現場データから見る連携のポイント

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

特養における協力医療機関との連携体制の現状と課題

特養の協力医療機関連携の実態~最新データから読み解く~

2024年度の介護報酬改定により、特別養護老人ホーム(以下、特養)における医療連携体制の構築が重要な課題となっています。福祉医療機構が実施した最新の調査によると、特養の協力医療機関との連携体制の現状には大きな課題が浮き彫りになっています。

特養の入所者が急変した時など、施設内で対応可能な医療の範囲を超えた場合に、協力医療機関との間で速やかに相談・診療・入院受け入れが行えるなど、実効性のある連携体制を構築することが義務付けられました。

以下は協力医療機関との連携体制の構築状況を表したグラフです。

特に注目すべきは、連携体制の3つの基準における「連携済」の割合です。急変時の相談対応体制は61.5%、診療体制の常時確保は55.0%、入院受入体制は49.2%と、いずれも十分とは言えない状況です。特に入院受入体制については、半数以上の施設がまだ整備できていないことが明らかになりました。

また、「調整中」の施設が各基準で23.5%~28.1%存在し、「未着手」の施設も15.0%~22.8%あることから、多くの特養が連携体制の構築に苦心している実態が見えてきます。この背景には、特に地方部における医療機関の不足や、夜間対応の困難さなど、地域特有の課題が存在することが指摘されています。

特養における医療連携体制の構築は、2024年度から3年間の経過措置期間が設けられていますが、この期間内に確実な体制構築が求められます。調査結果からは、現在「調整中」または「未着手」と回答した施設のうち、約7割が「目途が立っていない」または「見通しが厳しい」と回答しており、多くの施設が具体的な対応に苦慮している実態が明らかになっています。

さらに注目すべき点として、医療機関側の受け入れ態勢の問題も浮上しています。同機構が医療機関側に実施した調査では、協力医療機関となっていない理由として「介護保険施設等から依頼がなかったため」が46.2%を占めており、特養側と医療機関側の間にコミュニケーションギャップが存在することも明らかになっています。

このような現状を踏まえると、特養側は早期に医療機関との対話を開始し、地域における医療・介護の連携体制を構築していく必要があると考えられます。

特養の協力医療機関に求められる3つの施設基準

特養における協力医療機関との連携において、2024年度の介護報酬改定で定められた3つの重要な施設基準について解説します。

第1の基準は、「急変時の相談対応体制」です。これは、入所者の病状が急変した場合などにおいて、医師または看護職員による相談対応体制を常時確保することを求めています。具体的には、24時間365日、協力医療機関の医師や看護師に連絡が取れる体制を整備する必要があります。

第2の基準は、「診療体制の常時確保」です。入所者に診療の必要性が生じた場合、速やかに診療を行える体制を整えることが求められます。これには、協力医療機関の医師による定期的な往診体制の確保や、必要時の臨時往診への対応なども含まれます。

第3の基準は、「入院受入体制」の確保です。入所者の容態が悪化し、入院が必要と判断された場合、原則として入院を受け入れる体制を整えることが必要です。この基準は、特に夜間や休日の緊急時における対応を想定しており、事前の受け入れ態勢の確保が重要となります。

重要なポイントとして、これらの基準は必ずしも1つの医療機関ですべてを満たす必要はありません。複数の医療機関と連携することで、それぞれの基準を満たすことも可能です。例えば、診療所と病院を組み合わせることで、相談・診療体制と入院体制を確保するといった柔軟な対応が認められています。

特養と協力医療機関の連携における課題と対応策

福祉医療機構の調査から見えてきた特養と協力医療機関の連携における具体的な課題について、現場の声をもとに分析と対応策を考えていきましょう。

多く挙げられた課題は、「協力医療機関の選定と要件確認の困難さ」です。特に地方部では「医療機関が少なく対応できる病院がない」という声もあります。また、「一つの医療機関が複数の施設と契約をしなければならない状況で、現実的に不可能」といった意見も目立ちます。この課題に対しては、地域の医療機関の機能や特性を事前に調査し、複数の医療機関と役割分担しながら連携する方法が有効です。

次に大きな課題として、「夜間・休日の対応体制の構築」が挙げられています。調査では「昼間の連携は取れるが夜間は厳しい」という回答もありました。夜間対応が可能な医療機関を優先的に確保することはもちろんですが、それが困難な場合は、ICTを活用したオンライン相談体制の整備や、救急搬送時の受入れ優先枠の確保など、代替手段の確保が重要となります。

さらに、「医療機関との協議・調整方法の不明確さ」も重要な課題として浮かび上がっています。「どの医療機関にどのように依頼の話をすればいいのかわからない」という声は、特に新規開設や体制構築の経験が少ない施設から多く聞かれます。この課題に対しては、地域の介護保険施設連絡会や医療・介護連携推進会議などの既存のネットワークを活用し、先行事例や具体的なアプローチ方法について情報収集することが有効です。

特養における配置医師と協力医療機関の役割分担と体制構築

特養の配置医師緊急時対応体制の現状分析

特養における医療体制の要となるのが、配置医師と協力医療機関の適切な役割分担です。2024年度の介護報酬改定では、配置医師の緊急時対応に関する評価が見直され、新たに日中の対応区分が追加されました。

福祉医療機構の調査によると、配置医師緊急時対応加算の届出状況は、「今次改定前から届出している」が21.5%、「今次改定に合わせて届出」が8.8%、「今後届出する予定」が11.7%となっています。一方で、「届出する予定はない」という回答が58%と過半数を占めており、多くの特養で緊急時対応体制の構築に課題を抱えていることが分かります。

届出していない理由として最も多かったのは「緊急対応が可能な配置医師がいない」(41.6%)で、次いで「救急搬送で対応できている」(38.1%)となっています。これらの回答からは、特に地域によって往診対応可能な医師の確保が困難な実態が浮かび上がってきます。

また、日中の時間帯における緊急時対応の新区分追加により、約2割の施設が新たに加算の届出を行う、または予定していることは注目に値します。この変更は、より柔軟な医療提供体制の構築を後押しする効果が期待されています。

特養の医療連携における配置医師と協力医療機関の連携モデル

実効性のある医療連携体制を構築するためには、配置医師と協力医療機関それぞれの強みを活かした連携モデルの確立が重要です。このモデルは、入所者の状態に応じた適切な医療提供を実現するための重要な要素となります。

具体的な連携モデルのポイントとして、まず「日常的な健康管理」と「緊急時対応」の2つの場面を明確に区分することが挙げられます。日常的な健康管理については配置医師が中心となり、定期的な診察や健康状態の評価、投薬管理などを担当します。一方、緊急時対応については、配置医師と協力医療機関の双方が状況に応じて対応できる体制を整えることが求められます。

医療連携体制の効果的な運用には、以下のような段階的なアプローチが有効です。

第一段階:配置医師による初期対応 看護職員からの報告を受けての指示出し 必要に応じた臨時往診の実施 協力医療機関への紹介判断 第二段階:協力医療機関との連携対応 専門的な診察・検査の実施 入院の必要性の判断 治療方針の決定と共有 第三段階:継続的なケア体制の維持 定期的なカンファレンスの開催 医療・介護記録の共有 退院時の受入れ調整

このような段階的な連携体制を整備することで、入所者の状態変化に応じた適切な医療提供が可能となります。ただし、これらの体制は定期的な見直しと改善を行い、現場のニーズに合わせて柔軟に発展させていくことが必要です。

特養の協力医療機関確保と連携強化の実践的アプローチ

特養における協力医療機関の選定基準と探し方

協力医療機関の選定は、特養の医療連携体制構築の成否を左右する重要な要素です。選定にあたっては、施設の特性や入所者のニーズ、地域の医療資源の状況などを総合的に考慮する必要があります。

効果的な選定のための重要なポイントとして、まず「地理的なアクセス」があります。緊急時の対応を考慮すると、できるだけ施設から近い医療機関を選定することが望ましいですが、地域によっては選択肢が限られる場合もあります。その場合は、通常の診療体制と緊急時対応を分けて、複数の医療機関と連携することも検討しましょう。

協力医療機関を選定する際は、まず医療機関の診療体制を詳しく確認することが重要です。24時間対応が可能か、必要な診療科目が揃っているか、そして救急対応の実績があるかなど、具体的な医療提供体制を評価します。

次に、医療機関の連携実績や対応姿勢を確認します。他の介護施設との連携実績があり、介護施設における医療ニーズへの理解が深く、日常的なコミュニケーションが円滑に取れる医療機関であることが望ましいでしょう。

さらに、受け入れ体制の柔軟性も重要な判断基準となります。緊急時の円滑な受け入れ体制が整っているか、夜間や休日の対応が可能か、そして何らかの事情で対応できない場合のバックアップ体制が確保されているかなど、様々な状況に対応できる体制を確認する必要があります。

これらの選定基準を総合的に評価しながら、施設の特性や入所者のニーズに最も適した医療機関を選定することが重要です。また、選定後も定期的な連携状況の評価を行い、必要に応じて体制の見直しや強化を図ることが、長期的な連携関係の構築には欠かせません。

特養と協力医療機関の効果的な情報共有の仕組みづくり

医療と介護の連携において、最も重要な要素の一つが効果的な情報共有の仕組みづくりです。福祉医療機構の調査によると、退所時情報提供加算の算定状況は「算定している」が16.9%、「今後算定する予定」が37.8%となっており、今後さらなる情報連携の強化が期待されています。

情報共有の基本となるのは、入所者の日常的な健康状態や生活状況の記録です。特に重要なのは、バイタルサインの変化、食事・水分摂取量、服薬状況、ADLの変化など、医療的な判断に関わる情報を的確に記録し、必要時にすぐに提供できる体制を整えることです。

また、情報共有の方法としては、従来の書面による記録に加え、ICTを活用した情報共有システムの導入も積極的に検討すべきです。特に夜間や緊急時の連絡体制においては、オンラインでの情報共有や相談が可能な体制を整備することで、より迅速な対応が可能となります。

さらに、定期的なカンファレンスの開催も重要です。特養の職員と協力医療機関の医師・看護師が一堂に会し、入所者の状態や課題について話し合う機会を設けることで、顔の見える関係づくりが進み、緊急時の連携もスムーズになります。

特養と協力医療機関のトラブル事例と未然防止策

医療連携におけるトラブルを未然に防ぐためには、過去の事例から学び、適切な予防策を講じることが重要です。特に多いトラブルとして、緊急時の連絡体制の不備、情報共有の不足、役割分担の不明確さなどが挙げられます。

具体的な予防策として、まず緊急時の連絡体制については、平時からの訓練や連絡網の定期的な更新が欠かせません。協力医療機関の当直医や救急外来との連絡方法を明確化し、施設職員全員が迷わず連絡できる体制を整備する必要があります。

また、入所者の状態変化に関する判断基準を施設と医療機関で共有しておくことも重要です。どのような状態変化があった場合に連絡が必要か、どの程度の緊急性があるのかなど、具体的な基準を設けることで、不要な連絡や対応の遅れを防ぐことができます。

長期的な連携関係を維持するためには、定期的な振り返りと評価の機会を設けることも大切です。発生したトラブルや課題について率直に話し合い、必要に応じて連携体制の見直しを行うことで、より良い協力関係を築くことができます。

このように構築された医療連携体制は、入所者の安全で快適な生活を支える重要な基盤となります。2024年度の介護報酬改定を機に、さらなる体制の充実を図ることが求められています。

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