桃井はるこさん 8年ぶりのニューシングル「NewGame+」インタビュー|環境を変えて“レベル1”になっても、これまでの経験=プレイ時間は残っている。自身を奮い立たせる意味も込めた表題曲への想いと、デビュー25周年イヤーの展望を語る
声優、シンガーソングライターとしての活動をはじめ、多方面で活躍し、“元祖アキバ系女王”として知られる桃井はるこさん。
2025年はデビュー25周年イヤーとしてさまざまな企画が展開されており、10月14日(火)には約8年ぶりとなるニューシングル「NewGame+」が発売となります。
今回、待望のニューシングル発売を記念し、インタビューを実施! 収録楽曲に込めた想いや、25周年イヤーの中でやりたいこと、オタク文化の変化を感じる点などを語っていただきました。
【写真】桃井はるこ 8年ぶりのシングルに込めた経験値/インタビュー
環境を変えても経験はちゃんと身に付いているという意味を込めた「NewGame+」
――今回のシングルの表題曲「NewGame+」はどのようなイメージで制作されたのでしょうか?
桃井はるこさん(以下、桃井):今回、8年ぶりにCDを出させてもらえることになり、ありがたいことに「桃井さんが好きなことをやっていいよ」と言われたので、今の私がやりたいものを素直に出しました。
今の音楽を否定しているわけじゃないんですが、最近イントロがない曲が多いじゃないですか。なので、イントロからA・Bメロ、そしてサビにいく、自然とテンションが上がるような王道をやりたいなと思いました。私たちの世代ってそういう王道、「あの頃ってこうだったよね」「懐かしい~」と言える“共通言語”がある、もしかしたら最後の世代かもしれないと思っていて。
私が「オタクで良かったな」と思う瞬間って、例えば海外で言語のコミュニケーションがおぼつかないのに、同じアニメを知っていて、そのタイトルを言うだけでお互いにテンションが上がる、みたいな瞬間なんです。なので、そういう共通言語は大切にしたいなと。私たちの世代は世の中的に割を食ってるとか、いわゆる勝ち組・負け組の差が激しいみたいなことを聞きますが、正直どんな境遇であっても、なにか楽しいものとか、自分の興味があるものがあれば生きていけるじゃないですか。(同世代が)そういうものを語るときに「インターネット老人会」と自虐したりすることもありますが、そんなこと気にしないで、好きにやれよ!と思いますね(笑)。
あと、(AIなど技術が進歩して)誰でも創作できる世の中になっても、鑑賞してくれる人、批評してくれる人が一番足りていないと私は思っていて。「鑑賞する」「ファンになる」ということもすごく大事な創作の一つだと思うんです。ライブをする際、一緒に盛り上がってくれる人がいなかったら、それはまったく無意味なものになってしまう。だから、「自分はモノを生み出せないオタクだから」とか言わずに、鑑賞、受け身に特化してほしいし、オタクってそういうものだった気がするんです。「分かり手のプロ」というか。
長くなりましたが、同世代の人に「安心するよね!」と思ってもらいつつ、今音楽で私がやりたいことを盛り込んだ感じです。ありがたいことに楽曲提供やキャラソンを歌う機会はあったんですが、自分の曲を作るのは本当に久しぶりだったので、改めて「桃井はるこ」という人物をさらって、もう一回デビューするような気持ちでやろうと考えた結果、このイントロと構成になりました。
――話はさかのぼってしまうのですが、そもそもこの曲を出そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
桃井:去年くらいから「来年デビュー25周年だから何かあるだろう」とか「CD出してくれるといいな」といったファンの方の声を聞いていたので、「待っていてくださる人がいるんだから何かやりたいな」と思いました。
楽曲については「声優の仕事にももっと力を入れていきたい」と考えてアミュレートに移籍したタイミングだったので、自分に対しても奮い立たせられるような曲にしたいなと。サビの「プレイ時間はレベルと=じゃないよね」という歌詞の通り、環境を変えて一からやるけど、これまでの経験はちゃんと身に付いているという意味で「NewGame+」というタイトルにしました。
「自分がやってきたことって何なんだろう?」と思うことも生きていく中であると思うんですが、それは無駄じゃなくて。やってきたことはちゃんと身についているから、いつからでもニューゲームを始められる、気分次第で新しいゲームをやっていこう!という前向きな気持ちになってもらえる曲にしたいなと思いました。
――世代を問わず刺さるメッセージだと思います。昔からのファンはもちろん、最近桃井さんを知った若い方がこの曲を聴いてどんな反応をするのかも気になりますね。
桃井:流行の移り変わりが早くなっている中で、若者が昔の曲を聴いているとよく聞きますが、根本的に昔の曲って今よりスローテンポで、歌詞が聞き取りやすいからなのかな?と。なので、勇気を出してBPMは128、トラックダウンをボーカル大きめにして、あえて90年代っぽい曲調にしています。
あとは、デビュー曲「Mail Me」はメジャーコードだったので、今回はマイナーコードにしようと決めていました。というのも、「UNDER17」を結成したり、「Ace File くしよし」のプロデュースをさせてもらっていた頃に、“業界あるある”みたいなことをすごく教えてもらったんです。その中にあった「日本人はマイナーコードが好き」というのが耳に残っていて。もちろん今はその限りじゃないと思うんですが、今回はその年代を想起させるものとして、当時、業界の人から教えてもらった要素を入れてみようと思いました。
――「NewGame+」は『ネコのクラちゃん ~Ordinary days~』のEDテーマとなっていますが、このタイアップは制作前に決まったのでしょうか?
桃井:2曲新曲を作り、製作委員会に合っているほうを選んでもらいます、とのことだったので、「あまり(タイアップのことは)考えないで作っていいです」と言われました。
今のアニソンは内容に合っているものだったり、キャラクターをイメージしたものだったりするのが主流ですが、確かに90年代はそうではなくて、もっとめちゃくちゃで、「(この作品に)何でこれなの!?」みたいな感じなんですが、アニメと音楽の相乗効果で、映像的にすごくテンションが上がる、いい作品になっている主題歌もいっぱいあって。ある種の自由さがあったというか、そういう感じもいいなと思いながら作りました。
あとは、EDテーマってアニメの夢の世界から現実に戻っていくところなので、暗い曲にはしないというのも意識していました。
代表曲「LOVE.EXE」の新録「-TENSEI Ver-」は「転生」と「点睛」のダブルミーニング
――そのほかの収録曲についてもお訊きしたいと思います。まずは「NANIKA」について。アレンジのリクエストなどは出されたのでしょうか?
桃井:ライブで最初か最後に歌うような華々しさが欲しいです、みたいな感じでお願いしたと思います。
事務所を移籍してから、いわゆる対バンライブにたくさん出させていただくようになって、挨拶のときに「自分がやっているイベントに出演してほしい」とか、「一緒にイベントをやろう」と言ってくれる方が周りにいてくれるなと。そうやって私のことをリスペクトしてくれる人、そして私がリスペクトしている人を招集して、この曲に参加してもらおうと思ったんです。
参加してもらった人には、この曲を自分バージョンで歌っていいということにして、12組に声をかけたんですが、みんな引き受けてくれたので嬉しかったですね。レコーディングの日にスタジオに来られなかった人もリモートで参加したり、宅録で送ってくれたりして。そういうみんなのパワーが詰まっている曲なので、すごく元気になれると思います。
参加してくれた人たちのことを「アキバ系Besties」と命名したんですが、これはFUWAMOCOちゃん(※)からアドバイスをもらって決まったものなんです。「Besties(親友を指すスラング)」という言葉がレトロな雰囲気でカワイイとのことだったので。
※:hololive EN所属の双子VTuber。フワワ・アビスガードさん、モココ・アビスガードさん
――第2弾、3弾と続くことも期待しています。
桃井:そうですね。他にも私の曲を歌ってくれている人がいるので、「何で呼んでくれなかったの?」とヘコまずに、ぜひ追加申請をお待ちしています(笑)。この曲は、私が小学生の頃に好きなアイドルの曲が出て、「次はこういう曲がいいな」と自分で妄想しながら作曲したときと同じような気持ちで、みんなにぜひ歌ってほしいな、ライブできっとこの曲を歌ったら盛り上がるだろうな、という想いで作った曲なので、ぜひアキバ系Bestiesに参加してほしいです。
――続いて、CD初収録となる「転売ヤーをぶっとばせ!」。タイトル、歌詞ともに強烈ですね。
桃井:これはめちゃくちゃ難しい問題すぎて、議論にならないんです。でもそういうことこそ音楽にすべきなので。ただ、あくまで私個人が転売ヤーの被害にあってムカついたことを書いただけなので「※個人の感想です」ということはお伝えしておきます(笑)。その怒りをぶつけた曲として、エンターテインメントとしてちゃんと消化できたものになっていると思います。
あとは、TVなどメディアで転売問題を取り上げるときにBGMで使ってほしいな、とも思っていたりします(笑)。
――最後に、代表曲ともいえる「LOVE.EXE」の新録「-TENSEI Ver-」。こちらはなぜ収録しようと思ったのでしょうか?
桃井:これは単純にサブスクになっていないので、新規の方が聴きにくいなと思ったからです。今やライブでも定番曲と言われるほどですが、実は出したときは「桃井さんらしくない」ってけっこう言われた曲だったんですよ。でもそこから皆さんに育てていただいて、そしてゲームメーカーの方もすごく素敵なムービーを作って盛り上げてくれたおかげで、代表曲と言われるようになって。そんな曲なら手に入りやすくしたいし、今の気分でライブ映えもする、明るく前向きな感じのバージョンを作りたいなと。
「-TENSEI Ver-」というタイトルは、私が今、一回死んだつもりになってもう一回頑張るという「転生」の意味と、この曲がもう一度竜のように飛び立つための最後の仕上げをする、「画竜“点睛”」という意味の二つをかけて付けました。
桃井さんから見た、25年の中でのオタク文化の変化
――リリースイベントを9月より実施中ですが、今後のイベント内でやりたいことはありますか?
桃井:「NewGame+」のMVの衣装を着て何かしたいですね。このMVには、以前、生写真セットの撮影のときに「フォトジェニックアドバイザー」としてお世話になったユカフィンさん、ロゼさんと、ピュアリーモンスターの「あんかつコンビ(安藤鈴菜さん、勝野里奈さん)」に出演してもらったので、その4人のスケジュールももし合ったら一緒に何かしたいな、とか考えています。MVの衣装を着てチェキ会とか、ファンの方が持っていてお守りになるような何かをプレゼントしたいですね。
――25周年イヤーの中でどんなことをやってみたいですか?
桃井:UNDER17のときにやっていた美少女ゲームソングメドレーみたいな、ノンストップで曲が続いて歌い続けるみたいなことをやりたいなと思います。やっぱり一曲でも多く歌を届けたいです。
あとは25周年ライブ。ずっとやってほしいと言ってくれたモモイストに応えたいし、私が“転生”してから初めてのワンマンライブになるので、逆に最近知った人にとっての入門編にもなるようにしたいなと思います。
――この25年の中でオタク文化もいろいろな変化があったと思います。桃井さんから見て、この25年の間で変わったもの、逆に変わっていないものはどういった部分でしょうか?
桃井:意外と過去のものはちゃんと記録されていないし、蓄積がなくなっちゃったなと思います。書籍や雑誌、紙として残るものも減っているし、「Yahoo!ジオシティーズ」などの2000年代前半にあったホームページサービスがどんどんサ終してしまって、ホームページ文化、さらにはブログですら危うくなっていて。XとかのSNSになると、いつ運営に消されるかも分からないので、情報の蓄積が意外とされないなと思います。
私はオタクって、「どうでもいいことを覚えている、重視する人」だと思うんです。今はアニメファンとかアイドルファンもオタクって言うけど、私は「そんなこと知ってて何の役に立つんだ?」みたいなツッコミを入れたくなるのがオタクだと思っていて。
――と言いますと?
桃井:例えば最近だと、カップヌードルとのコラボの影響か、『チャージマン研!』の話題が流れてくるんですが、かなり初期からウォッチしてた身からすると、補足が必要かな? と思う場面があったんです。なので勇気を出してXで言及したのですが、リプでやりとりできてファクトチェックというか、私も見識を深めることができたので、よかったです。今の人が困るとよくないからそういうのを指摘したりしていると、私もそろそろ「語り部モード」の年代に入ってきているのかなと思ったりします。
でもそういう過去のことだけじゃなくて、今がどうなのかという話もいろいろな人と語り合いたいですね。そして私はそういうことを音楽にもできるので、それを曲にしてみんなで楽しむことをやっていきたいなと思います。
――素敵な試みだと思います。一方で桃井さんの考える、変わらないものは?
桃井:変わらないものの話で言えば、秋葉原に「モモーイ時計」と呼んでいただいている時計があるんですが、みんなが拡散してくださってるおかげで、ありがたいことに知名度がちょっとずつ増していて。私が学生のときからずっと立っているくらい歴史があって、写真とか見たときにすぐに秋葉原だと分かるアイコンにもなっているので、これからも変わらずずっとあってほしいなと思います。
――今のお話に続く形で、アニメイトの変化については桃井さんから見ていかがですか?
桃井:池袋とかすごいですよね。アニメイト池袋本店の目の前の通りの名前が「アニメイト通り」になって。あの辺もよく行くんですが、めちゃくちゃ綺麗になったと思います。
私、ずっとキラキラ女子になりたかったんですよ。中学生のときに深夜ラジオにファックスを送ったり、電話でリクエストしたりするのが趣味で、高校になったらキラキラな世界で生きていくんだと思ったんですが、やっぱりアイドルとか声優さんのイベントのほうが楽しくなって現在に至るので。
そのときのキラキラ勢力が行くようなファッションビルがアニメとコラボする、みたいなことも今はもう普通になって。逆転現象というか、アニメイトも今は普通にファッションビルの中にあって、カフェもあって、オシャレな感じになっていて。でも私はどこかキラキラにコンプレックスがあるというか、そういう時代になってもメジャーマイナーでいたいというか。今はもうアニメイトとキラキラ女子が共存するようになったけど、そんな中でも居心地があんまり良くないと感じている人の居場所を作るのが私の仕事だと思っています(笑)。
あとはさっきのモモーイ時計の話につながるんですが、その地域ごとのアニメ・ゲーム好きの“拠点”というお店が閉店していく中、アニメイトさんの担う使命の重さは増していると思うので、これからもあり続けてほしいなと思います。全国に拠点があるのは素晴らしいことだし、私もいろんなところにこれからも遊びに行きたいなと思います。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
桃井:CDをお店に並べてもらえることがめちゃくちゃ嬉しいので、まずはCDを手に取ってみてもらいたいです! 特典もおもしろいし、ぜひこれを「初めて買ったCD」に、あるいは「久しぶりに買うCD」にしてほしいです。全方位で自信作なので、お楽しみいただけたらと思います。
そして声優の仕事も頑張っていきたいので、そちらも楽しみにしていてください!
[インタビュー/杉田裕孝 文/篭法]
リリースイベント情報
【日時】2025年10月13日(月祝)13:00
【会場】AKIHABARA ゲーマーズ本店 6 階イベントスペース
https://momoiharuko.com/news/public/_/1yxqrirvbg9wh53k.html
https://www.gamers.co.jp/shop/detail.php?id=4
【日時】2025年10月14日(火)19:00
【会場】アニメイト秋葉原 1 号館 7F イベントスペース
https://momoiharuko.com/news/public/_/3mum56yv8ukpbqto.html
https://www.animate.co.jp/shop/akihabara/
『NewGame+』商品概要
アーティスト名:桃井はるこ
リリース日:2025年10月14日
フォーマット:CD
価 格:¥2,200-.tax in
発売元:エムファイブ
◆収録曲
01. NewGame+ ※新曲
02. NANIKA ※新曲
03. 転売ヤーをぶっとばせ! ※初収録
04. LOVE.EXE -TENSEI Ver- ※新録
05. NewGame+(off Vocal)
06. NANIKA(off Vocal)
07. 転売ヤーをぶっとばせ!(off Vocal)
08. LOVE.EXE -TENSEI Ver-(off Vocal)
09. NewGame+(Vox Only track)
【初回特典】
初回特典として、スマホやパソコンから音楽コンテンツや画像、映像を楽しめるカード「エムカード」を封入!(全10種類ランダム封入)
新曲2曲のハイレゾ音源に加え、表題曲「NewGame+」のミュージックビデオが収録となります。
・「NewGame+」(ハイレゾ音源)
・「NANIKA」 (ハイレゾ音源)
・「NewGame+」Music Video(ダウンロード)