【法然院】『不思議の国のシドニ』に誘われる魅惑の映画旅行
ようこそ、おおきに。映画ライター椿屋です。
みなさん、京都お好きですか? 作家、お好きですか?
『本を綴る』(京都での上映は2025年1月10日~出町座にて)に続き、こちらも作家が旅する映画をご紹介いたしましょう。
前者の目的地が那須塩原・京都・香川だったのに対して、『不思議の国のシドニ』における主人公・シドニ(イザベル・ユペール)の旅先は京都・奈良・直島。オーバーツーリズムに辟易しつつも……観光都市・京都のポテンシャルは、伊達ちゃいます。
デビュー作「影」が日本で再販されるにあたって、出版社に招かれて来日したシドニ。アテンドを務める寡黙な編集者・溝口健三(伊原剛志)の案内で、寺院や日本庭園を訪れます。
本作はそのタイトルがほのめかすように、訪問先で彼女が体験する不思議を幻想的に描かれています。鴨川の桜並木をはじめとする京都への愛が詰まった風景描写がこの物語の核たるものであることは間違いありません。
2013年に初来日した際の印象や旅情を詰め込んだというエリーズ・ジラール監督曰く、「この映画は、近くに感じると同時に異国にも感じられる国、日本への愛の告白でもあります。日本の古いものと超現代的なもの(伝統文化と新しい文化)の共存は、私の心に深く響きました。そしてその要素が、日本が映画に選ばれた国である理由だと思います」。
初めてのアジア訪問となった初来日では、滞在期間中に訪れた大阪・京都・東京を振り返り、「私にとってはとても重要で、深い感動がありました」と語っています。
「この一週間を通して、日本という国は本当に不思議な国で、フランスとは何もかも違っているように思えました。また、日本人の無口さや繊細さにも驚き、衝撃を受けました。この旅は、私は信じられないほど豊かな新しい感情をたくさん経験しました」
帰国後、自身が経験したすべての感情を書き留め、旅を通して人生を振り返ったという監督。2017年には二度目の来日を果たし、一か月半を京都で過ごしたといいます。そのときに本作の脚本が書き上げられました。
監督自身の経験から得たインスピレーションが盛り込まれた『不思議の国のシドニ』に描かれる“京都”を、スクリーンでご堪能あれ。
文豪・谷崎潤一郎の墓がある法然院へ
食事処としての料亭「南禅寺八千代」や、シドニが泊まる旅館「晴鴨楼」など、京都らしい風情あるスポットが劇中いくつも登場します。
とりわけ印象的だったのは、シドニが溝口に連れられて谷崎潤一郎の墓参りをするシーン。
谷崎潤一郎の墓は、法然院の境内にあります。
参道の石段を上って右へ進むと見えてくる墓地には、生前彼が愛した平安神宮の紅枝垂れと同じ枝垂桜があり、その樹の下に二基の墓石が並んでいます。
向かって左に「寂」と刻まれた谷崎潤一郎夫妻の墓石、右側に立つ「空」は谷崎夫人の妹である重子夫妻の墓。
谷崎は毎年春と秋には京都を訪れ、京都に墓所を求めていました。京の東山側で北は修学院、南は南禅寺までという条件下で見つけた法然院の土地を大層気に入って、自ら選んだ鞍馬石を墓石とし、墓所をつくり上げたのでした。
愛した京都に眠る谷崎潤一郎を偲び、シドニ同様、静寂の墓所を訪れてみてはいかがでしょう。
◎作品情報
『不思議の国のシドニ』https://gaga.ne.jp/sidonie/
12月13日、シネスイッチ銀座・アップリンク京都ほか全国順次公開
出演:イザベル・ユペール、伊原剛志、アウグスト・ディール ほか
配給:ギャガ
【公式SNS】
X(旧Twitter):@sidonie_movie
■スポット情報
店舗名:法然院
住所:京都市左京区鹿ケ谷御所ノ段町30
電話番号:075-771-2420
営業時間:6:00~16:00
※方丈庭園・方丈の襖絵・中庭の三銘椿等の拝観は、4/1~7および11/18~24の伽藍内特別公開期間のみ
交通:市バス 南田町から徒歩5分、浄土寺から徒歩10分