中村鷹之資、舞台『有頂天家族』でストレートプレイ初挑戦「歌舞伎をやってきた僕だからこそ出せる味を」
森見登美彦の人気小説『有頂天家族』が、2024年11月・12月に、新橋演舞場と南座、御園座にて舞台化上演される。同作は、京都を舞台に狸、天狗、人間が、京都の地で繰り広げるてんやわんやの大騒動を描いたファンタジー作品で、G2が脚本・演出を手掛ける。人間社会にまぎれて暮らす狸の一家、下鴨家の三男・矢三郎は、中村鷹之資と濱田龍臣がWキャストで演じる。歌舞伎俳優の鷹之資と、舞台・映像と幅広く活躍する濱田と、幼い頃からこの業界で芸歴を重ねてきた2人が、好奇心旺盛で家族思いな矢三郎をそれぞれどのように演じるのか注目だ。このたび、ストレートプレイへの出演が初となる鷹之資に個別インタビューを実施、後半には濱田とリモートで繋ぎ、お互いの印象を聞いた。
歌舞伎以外の舞台は初めてで全部が不安です!
──歌舞伎以外の舞台へのご出演について、以前からやってみたいというお気持ちはあったのでしょうか。
「出たい」と思っていました。もちろん、今までもこれからも歌舞伎を中心にやっていきたい気持ちは変わりませんが、最近は歌舞伎の中でも新作歌舞伎であったりとか、いろいろな作品に関わらせていただくようになって、歌舞伎だけでは得られないものもとても多いということをすごく感じました。特に新作歌舞伎を作るときに、例えば(尾上)松也のお兄さんは映像もそうですし、ストレートプレイのお芝居も経験されていて、だからこそ出てくる表現方法があるんだなと、お稽古などで拝見しながら思いました。歌舞伎以外で得た表現方法は歌舞伎にも還元される部分があるので、歌舞伎をやる上でも、もっといろいろなものを見たり経験したりしていきたいと思っていました。
──では今回のお話しが来たときは、嬉しい気持ちが大きかったのでしょうか。
最初はびっくりしました。歌舞伎以外のお芝居にも驚きましたけど、主演と言われて「いきなりですか?」と(笑)。経験もないのに大丈夫かな? という不安と驚きを感じましたが、こういう機会をいただけたことは本当に嬉しかったです。小説を読んだらすごく面白くて、登場人物も個性豊かだし、狸と天狗と人間という関係性も魅力的だし、なんといっても京都を舞台にした世界観がとても素敵な作品だったので、これを舞台でやれることはとても楽しみです。先日、脚本・演出のG2さんとお会いしたときに「何か不安なことある?」と聞かれたんですけど、「全部不安です!」と言っちゃいました(笑)。初めてで何もわからないからこそ、1から全部吸収していくつもりでやっていけたらと思います。
──狸が人間に化けて暮らしているという奇想天外なストーリーですが、どこか歌舞伎の世界観にもつながるような印象を受けました。
原作本を読んでいて親近感を覚える部分が多くて、きっと原作の世界観が、現代なんだけどちょっと古典に近くて、何か懐かしい感じのなじみやすい作品だと思いました。そういったところで、歌舞伎をやってきた僕だからこそ出せる味や雰囲気が出て、それが濱田さんの作る矢三郎との違いになっていって、そこを皆さんにも楽しんでいただきたいです。
再びの「たぬき」役! 目指せ「たぬき俳優」?
──矢三郎のキャラクターについてはどのように感じていらっしゃいますか。自分と似ているところはありますか。
僕はここまでふざけてはいないと思います(笑)。どちらかというと僕は真面目すぎるくらい生真面目になってしまう部分が強いので、逆に矢三郎ぐらい楽しんでいけた方がいいな、と思いました。最初に本を読んだときに「矢三郎みたいになりたい」と思うくらいいいキャラクターで、見習いたい部分が多かったです。なんだか「こういう部分も今のお前に必要だぞ」と言われているような気になったりもして(笑)。みんなにすごく愛されているキャラクターなので、そういう雰囲気が作中通して出していけたらいいと思います。
──今回主演でのオファーに驚かれたということでしたが、昨年ご出演の『刀剣乱舞』や『流白浪燦星』といった新作歌舞伎で様々な役を勤められたことも、今回の現代劇へのご出演に繋がったのではないかと思います。新作歌舞伎での経験は、振り返ってみてどのように感じていらっしゃいますか。
本当に大きかったですね。昨年は古典歌舞伎も含めていろいろなお役をさせていただいた1年でしたが、特に『刀剣乱舞』は僕にとって大きな経験で、節目でした。新作歌舞伎は、もちろん歌舞伎の手法を使いながらですが、1から作り上げていくわけですよね。歌舞伎はまず型から勉強して作っていくことが多いですが、新作歌舞伎のように型がないお芝居の場合は気持ちから作っていくんですね。そのキャラクターがどういう気持ちでこのセリフを言ってるのか、ということを大事に考えなければいけないと、『刀剣乱舞』をやっている中で強く感じました。「お芝居は、こうやって作っていくんだ」というのをすごく感じて勉強させていただいたひと月だったので、それから芝居をやるときの取り組み方というのも少し変わりましたし、そういう意味でも今回現代劇を初めてやらせていただくことは、僕にとってもすごく勉強になることばかりだと思います。
──『刀剣乱舞』では同田貫(どうだぬき)正国役だったということで、「たぬき」に縁がありますね(笑)。
そうなんですよ、まあ同田貫は刀ですけど(笑)、ここまで来ると「たぬき俳優」を目指していった方がいいのかな、と思うくらいですね(笑)。最近、狸の信楽焼の置物とかがあると思わず「あっ!」と反応してしまったり、狸グッズに目をひかれちゃったりとかしています。今回狸の役をやる中で、狸ってすごく愛らしくて、日本独特なキャラクターでもありますよね。同じ化けるのでも、狐と狸の化け方は違うというか、狐は人に罰を与えたりちょっと懲らしめるために化けることが多いけど、狸はとにかく人を馬鹿にするために化けるところがあるのかな、と。とことん馬鹿にして楽しんじゃうみたいな感じなんだけど、たまに尻尾が出ちゃうようなおっちょこちょいなところなんかも、すごく心をくすぐるようなキャラクターなんだろうなと思いますし……そんな魅力を感じていただけるような「いいたぬき」になれたらいいですね(笑)。
──作中にも登場する「赤玉ポートワイン」にちなんで、南座では赤玉ワインの販売があるとのことです。お酒はお好きですか?
面白いですね! お酒は飲みますけど、そんなに強くはないです。でも先日、ちょうど赤玉パンチ(※赤玉スイートワインをベースにしたワインソーダ)があったので、思わず反応して飲んじゃいました。矢三郎たちが出入りする「朱硝子」というお店が作中に出てくるのですが、そこのモデルになったバーが実際京都にあるそうなので、今度京都に行ったときはそこでお酒を飲んでみようと思っています。
──作品に登場するお酒を実際に飲めるというのは、また特別なものになりそうですね。
没入型の観劇体験といいますか、より一緒になって楽しんでいただけるのかなと思います。そのまま南座の屋根には登っていただきたくはないですけど(笑)。それは天狗だけにしておいてください。我々歌舞伎役者もあんまり屋根には登らないので(笑)。
Wキャストの濱田龍臣に負けないところは「エネルギー」
──ここからは別会場にいる濱田龍臣さんと、リモートで繋いでお話を伺っていきます。まずはお互いの印象を教えてください。
僕はテレビとかで拝見していて、やはり小さい頃の濱田さんの印象がすごく強かったんですが、最近出演されていたテレビドラマ『Believe-君にかける橋-』で喧嘩みたいな激しいシーンがあって、「こんなお芝居もなさるんだ」と見入ってしまいました。今回こうして同じ役を一緒にできることが、非常に楽しみです。
──濱田さんのここを盗んでみたい、あるいは逆に自分がここをアピールしていきたいところはありますか。
僕は歌舞伎以外の舞台は今回が初めてで、もう赤ちゃんみたいな状態なので、濱田さんが映像などのお芝居で今まで培われてきたものを全部吸収するぐらいの気持ちでいます。僕は今まで歌舞伎の舞台で培ってきたものが、意識は特にしなくても今回どこかしら出てしまう部分があると思うので、そういったところで濱田さんとはまた違った矢三郎像に繋げていけたらいいなと思っています。あとは、エネルギーは負けない自信があるので、とにかく思い切りぶつかっていきたいですね。
──バックグラウンドが2人とも全然違うので、自然に全く違う矢三郎像ができそうですね。
お互い矢三郎と通じる部分が多分違うので、その部分がこれからどんどん強く出ていくんだろうなと思います。台本を読みながら、濱田さんだったらどうやるのかな、なんて想像しているので、これから始まるお稽古がすごく楽しみです。濱田さんの矢三郎を見ることで、何かしら影響を受けながら僕も自分の矢三郎を作り上げていくことになると思うので、どちらもきっと面白い矢三郎像になるんじゃないかなと期待しています。
──矢三郎は化ける能力が飛び抜けて高いという設定ですが、鷹之資さんが何にでも化けられるとしたら、何に化けたいですか。
逆に狸になってみたいかな。なんだか狸って、現実は厳しいんだと思いますけど、この本を読んでいると、ピリピリしてるときこそ笑っちゃうみたいな、そういうホンワカするところがあって、なんかとても「人」がいい……「狸」がいい(笑)? と思いました。実際に下鴨家が住んでいるような場所があったら、逆に狸になって京都の街を散策してみたいですね。
──最後にお客様へのメッセージをお願いします!
狸と天狗と人間の三つ巴という、笑いあり涙あり、でもやっぱりおかしみがある、とにかく原作の森見先生の世界観がギュッと詰まったお芝居になっています。矢三郎が言っている「面白きことは良きことなり!」という言葉通り、作品の世界観とキャラクターを肌で感じて、最後は「あぁ、楽しかった!」と言って帰っていただけるようなお芝居を作り上げていきたいと思っています。もちろん原作が好きな方も、初めてこの作品に触れる方も、誰もが楽しめる作品だと思うので、ぜひお気軽に劇場に足を運んでください。
濱田による鷹之資に対する回答は、後日掲載の濱田の記事をチェック!
取材・文=久田絢子 撮影=泉健也