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【ミリオンヒッツ1994】ミスチル「everybody goes」令和でも強く突き刺さる風刺ソング!

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1994年12月12日 Mr.Childrenのシングル「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」発売日

リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.30
everybody goes -秩序のない現代にドロップキック- / Mr.Children
▶ 発売:1994年12月12日
▶ 売上枚数:124万枚

音楽シーンの歴史を塗り替えるほどの衝撃を与えたミスチル


今からちょうど30年前の1994年。この年、Mr.Children(以下:ミスチル)の台頭は音楽シーンの歴史を塗り替えるほどの衝撃を与え、若者たちは桜井和寿の湧き上がるような才能に熱狂した。ミリオンを突破した大出世作「CROSS ROAD」「innocent world」を収録したアルバム『Atomic Heart』は当時のレコードセールス記録を塗り替える約343万枚を売り上げ、さらに11月リリースのシングル「Tomorrow never knows」は200万枚を優に超える爆発的なヒットとなった。

社会現象という表現が陳腐に思えるほど、“ミスチル” の四文字は瞬く間に日本中を席巻した。まだ昭和の香りがほんのりと残っていた音楽シーンは、彼らの大ブレイクによって90年代型のCDバブル時代へとより一層突き進んでゆくことになる。

攻撃的で、毒の効いたアッパーチューン「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」


そんなミスチルが前作「Tomorrow never knows」からわずか1ヶ月のスパンでニューシングルをリリースしたのは、暮れも押し迫った12月12日のことだった。期待された『NHK紅白歌合戦』こそ出場辞退しつつ、既に国民的バンドの地位を固めつつある中でのリリースラッシュ。しかし、待望の新曲「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」は、これまでの彼らのイメージを打ち破る攻撃的で、毒の効いたアッパーチューンだった。

本曲は懸命に社会を生きる現代人への応援歌という体裁を取りつつ、その実はかなり際どいところまで切り込んだ風刺ソングにもなっている。出だしからフルスロットルの “桜井節” が炸裂する。

 複雑に混ん絡がった社会だ
 組織の中で ガンバレ サラリーマン
 知識と教養と名刺を武器に
 あなたが支える 明日の日本

 そして you
 晩飯も社内で一人 
 インスタントフード食べてんだ
 ガンバリ屋さん 報われないけど

そう、結局報われないのである。“ガンバリ屋さん” とまで言っておいて、なんて残酷なのだろう。続いて登場するのは「♪上京して3年」になるタレントの卵。「♪カメラの前で悩ましげなポーズ」を取りつつ、「♪ベッドじゃ 社長の上に股がって」、俗にいう枕営業に励む。お人好しの彼女はそれでも健気にムービースターを夢見ているという。若者の夢や希望を人質にして、私欲を満たす権力者という構図。

まるで鏡のように時代と社会の歪みを映し出す


1994年というのは、バブル景気の名残も消え始め、不動産による倒産や就職氷河期といった暗いニュースが日本列島を覆い始めた時期だった。そうした世相を背景とし、「♪娘は学校 フケて デートクラブ」で小遣い稼ぎするなど、いわゆる若者の “性の乱れ” が社会問題化したのもこの頃だ。 “ブルセラ” “援助交際” といった用語がテレビや雑誌で飛び交った。本曲は、そんな若者たちに対して「♪羞恥心のない 十代に水平チョップ」を食らわせる。

この楽曲は、まるで鏡のように時代と社会の歪みを映し出す。そんな “秩序のない現代” に対して、ミスチルが繰り出す容赦ないプロレス技ーー。しかもこの時期の桜井は、テレビ出演ではスーツ姿に伊達メガネをかけ、イケイケのコスプレギャルたちをはべらせながら歌ったりするものだから、イメージとのギャップにお茶の間がひっくり返ったのは言うまでもない。なぜなら当時のミスチルのイメージは、端的に言うと “爽やか” で “ナイーブ”。少なくとも際どいネタを交えて社会に毒を吐くようなキャラクターではまったく無かったのだ。

シングル4作連続のミリオンセラーという成功を収める


では、本曲が世間に受け入れられなかったかと言うと、その逆。爽やかな好青年だったはずの彼らが字余りでまくし立てる社会風刺ロックは売れに売れ、結果的にはシングル4作連続のミリオンセラーという成功を収める。また300万枚超のメガヒットを記録したアルバム『BOLERO』に収録されたため、本曲の知名度はミスチルの数多あるヒット曲の中でも比較的上位に来るのではないだろうか。

むしろ新たな一面をここで見せたことで、ミスチルはポップバンドとしての殻を自ら打ち壊し、その後のさらなる飛躍へと繋げていった感さえある。この作品によってミスチルは危うい攻撃性を秘めたロックバンドという新境地を開拓した。後の、「マシンガンをぶっ放せ」「ニシヘヒガシヘ」「フェイク」など、毒素を帯びたミスチルソングの系譜は、この「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」から始まったのである。

時代が変わっても色褪せることのない普遍的な風刺ソング


楽曲の終盤にこんな問いかけがある。「♪明るい未来って何だっけ?」ーー 前述のとおり、徐々に綻びが生じ始めていた日本社会は、本曲のリリースから約1ヶ月後に発生した阪神淡路大震災、さらに地下鉄サリン事件と立て続けに大きな災厄に見舞われたことで、カオスと呼ぶにふさわしい世紀末を迎えようとしていた。

楽曲は「♪皆 病んでる 必死で生きてる」というフレーズで締めくくられる。その通り、いつの時代だって人々は常に、理不尽な現実と向き合いながら、それでも必死に毎日をサバイブしているのだ。それは30年という長い月日を経ても何ら変わることはない。

むしろ “乱世” なんて物騒な表現が似合う令和の世にあって、この楽曲は当時以上に我々リスナーの心に深く、強く突き刺さるものがある。時代が変わっても色褪せることのない普遍的な風刺ソングだと言えるだろう。

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