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スピルバーグの最高傑作!公開50周年「ジョーズ」ハリウッド映画史上屈指のクオリティ

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1975年06月20日 映画「JAWS / ジョーズ」全米公開日

“見えない恐怖” を煽り続けるスピルバーグ


見えない、恐怖がある。

その映画の舞台は、アメリカ東海岸の避暑地で知られる小島である。とある夕べ、浜辺でパーティに興じる若者たちの中にいた1人の美女が、宴の輪を離れて穏やかな海へ入る。しばし波と戯れていた、その時―― 不意に海中へ引きずり込まれる。その日を境に、島は見えない恐怖に覆われた。

数日後―― 今度は白昼のビーチで、浮き輪で泳ぐ少年が海中へ引きずり込まれ、辺りが血で染まる。いよいよ “ヤツ” の正体が島民の間で噂されるが、夏の間、避暑客で稼ぐ島にとって、ビーチを閉鎖するわけにはいかない。そうこうするうち、7月4日の独立記念日を迎える。本土から多くの避暑客が来島し、ビーチに溢れる人、人、人。その時、不意にジョン・ウィリアムズのテーマ曲が流れ、海中を巨大な魚影が進む。次第に盛り上がる音楽、迫りくる魚影―― そして第三の悲劇が起きる。海面へ浮かび上がり、口を大きく開いたヤツの素顔が初めてスクリーンに映し出された瞬間だった。

そう、今年公開50周年を迎える映画『JAWS / ジョーズ』である。監督は、当時28歳(!)のスティーブン・スピルバーグ。興味深いことに、ヤツの正体―― 巨大ザメが劇中で素顔を見せるファーストカットは、2時間4分の本編において、ちょうど真ん中の1時間2分のトコロだった(確信犯でしょう)。映画はそのシーンまで、ひたすらジョン・ウィリアムズの音楽と、サメの魚影と背ビレの模型で “見えない恐怖” を煽り続け、観客はそんなスピルバーグの術中にまんまとハマったのである。

裏話がある。同映画の撮影用に、3体の空圧式の “機械サメ” が用意されたが、海中に投入すると、トラブルが頻発して、ほとんど満足に作動しなかったという。仕方なくスピルバーグは、前述の演出を多用して “見えない恐怖” を煽り続けるが―― 結果的にソレが功を奏したのは承知の通り。スピルバーグ曰く、“サメが動かなかったのは天の恵みだった。おかげで土曜の昼にやっている日本的なホラー映画から、ヒッチコックのような見せないスリラーになった。”

時代の転換期に公開された「JAWS / ジョーズ」


映画『JAWS / ジョーズ』が全米で封切られたのは、1975年6月20日である(日本公開は同年12月6日)。このタイミングは象徴的で、それまでの数年―― 1960年代末から70年代前半にかけて、ハリウッドは “アメリカン・ニューシネマ” 一色だった。いわゆる反体制色の強い、アンハッピーエンドな社会派映画のムーブメント。背景に、泥沼化するベトナム戦争の反戦運動や黒人差別に抗議する公民権運動があり、時代のトレンドはラブ&ピースだった。

だが、アメリカン・ニューシネマは若者たちから熱狂的に支持されるも、その難解なメッセージ性が仇になり、大衆の支持を得るには至らなかった。1970年代前半、ハリウッドの興行収入は低迷する。そこへ現れた救世主―― ゲームチェンジャーがスピルバーグだった。時に、1975年4月、南ベトナムのサイゴンが陥落して、ベトナム戦争は終結。米軍の兵士たちは本国へ戻り、太陽の下で体を動かし始めた。かくして、西海岸のアウトドア文化が花開く。『JAWS / ジョーズ』が公開されたのは、まさにそんな時代の転換期だった。

24歳で2本のテレビ作品を任されたスピルバーグ


スピルバーグ自身、その出世は異彩を放っていた。今では半ば伝説として語られるが、彼は17歳の時に、ユニバーサルスタジオのトラムツアーから抜け出し、裏からスタジオを見学するうちに映像保管係のスタッフと知り合い、3日間の入構証を手に入れる。そして、その3日でスタジオ内の人脈を築き、以後、顔パスで出入りを許されるようになったという。

翌年、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校に進学すると、映画を専攻する一方、休みの日にはスタジオへ通うようになり、いつしか掃除部屋を自分のオフィスに改造して脚本を書くように。そして、スタジオ内のツテを頼って作った短編映画がテレビ部門の責任者のシドニー・シャインバーグの目に留まり、同社と契約を結ぶことに成功する。

かくして、24歳で2本のテレビ作品を任され―― その『刑事コロンボ』の第3作「構想の死角」と、単発ものの『激突!』が共に評判を呼び、ユニバーサルの名プロデューサー、リチャード・D・ザナックから声がかかる。そして1974年、『続・激突!/ カージャック』で劇場映画の監督としてデビューするや、いきなりスマッシュヒット。その流れで再び監督としてザナックから声をかけられたのが、『JAWS / ジョーズ』だった。

ちなみに、ザナックが同映画に付けたキャッチフレーズが――『美女がサメに襲われる映画』。メッセージもテーマもへったくれもない(褒めてます)。事実、同映画のCMは、まさに冒頭の美女がサメに襲われるシーンが効果的に使われ、ジョン・ウィリアムズのテーマ曲が恐怖を盛り上げた―― 結果、当時の世界最高興行成績記録を打ち立てたのである。

造形が実に素晴らしいメインキャラクターの3人


『JAWS / ジョーズ』の物語自体はシンプルである。先にも記したように、映画の前半はひたすら、海中の人々を襲う “見えない恐怖” を描いた。そして、後半になると一転、3人の男が巨大ザメ退治に繰り出す冒険活劇になった。紛うことなき100%のエンタメ作品だ。そして、この冒険活劇がバツグンに面白かったのである。

メインキャラクターの3人の男は、島に赴任してきて間もない警察署長のブロディ(ロイ・シャイダー)と、地元のプロのサメ・ハンターであるクイント(ロバート・ショウ)、それに若き海洋学者のフーパー(リチャード・ドレイファス)である。ロイ・シャイダーは、ジーン・ハックマンと組んだ『フレンチ・コネクション』(1971年)で見つかった、いぶし銀。ロバート・ショウは『007 / 危機一発』(1963年)や『バルジ大作戦』(1965年)、『スティング』(1973年)など数々の有名作品で名を馳せた名優だ。リチャード・ドレイファスはジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』の主役で一躍脚光を浴び、同映画の出演も親友であるルーカスからの推薦だった。

この3人のキャラクター造形が実に素晴らしい。ブロディは責任感は強いものの、やや受け身タイプで、子供時代のトラウマで船が苦手。クイントは荒くれものの一匹狼だが、腕は確か。そしてフーパーは海洋学者と言いつつ、実家が太いオタクである。3人はクイントの船でサメ退治に出かけるが、当初、クイントとフーパーのソリがまるで合わない。クイントはフーパーを、現場を知らない若造と見下し、片やフーパーもクイントを叩き上げの老害としか見ていない。そんな2人を傍観するブロディはタダのおじさんである。

ただ―― この3人の関係性こそ、エンタメの申し子、スピルバーグの天才たる所以なんですね。初日、巨大ザメを間近で目にした3人は、内心、皆で協力し合うことの必要性に目覚めつつ、不安な夜を迎える。テーブルを囲み、酒を酌み交わす3人。この時、クイントはフーパーの腕や足にサメの傷跡があるのを知り、一方のフーパーはクイントがあの太平洋戦争で広島に投下された原爆を運び、その帰途に日本海軍に沈められ、凄惨を極めたインディアナポリスの生き残りと聞かされ―― 互いに相手を慮り、心を開く。

ハリウッドのエンタメを復活


この構図―― 思うに、スピルバーグは当時のハリウッドにおける自身の境遇を投影したんじゃないだろうか。フーパーの風貌を見ると分かるけど、確信犯的に若きスピルバーグそのものなんですね。実家が太いオタクというキャラ設定も、自身を投影したもの。一方のクイントは、いわば古きよき映画業界に息づく、やや時代おくれの叩き上げの職人だ。一見、両者は馬が合わないが―― ハリウッドのエンタメを復活させたいという思いは同じである。そして2人を眺めるブロディは、まさに観客目線そのもの。

ここから先は、ネタバレもあるので伏しておくが、僕は今もって、終盤の畳みかけるようなスピード感とアイデア、それにハッピーエンドの爽快感は、ハリウッド映画史上屈指のクオリティだと確信する。個人的には、今もってスピルバーグ映画で、最高傑作だと思う。

余談だが、僕が企画したテレビ番組の『逃走中』(フジテレビ系 / 2004年〜)の―― 敵役のハンターの視点を一切描かず、ただ逃げる側の視点のみで展開する “見えない恐怖” と対峙するコンセプトは―― 映画『JAWS / ジョーズ』が元ネタである。

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